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山本美智子●文 text by Michiko Yamamoto
ラファ・ウエルタ●撮影 photo by Rafa Huerta

第40号(2007年9月21日)【スペイン】「Baby Barca」〜ジオバンニとボージャン

バルセロナは、Baby Barca(ベイビー・バルサ)ブームに沸いている。ベイビー・バルサと呼ばれているのは、ふたりの少年。18歳のジオバンニ・ドス・サントス(写真/上)と17歳のボージャン・クリキッチ(写真/下)だ。

このふたりの存在を知ってから、もう3年はゆうにたっているということは、彼らが14〜15歳のころから頭角を現わし、静かに地元で注目を集めてきたことを意味する。今年、ジオバンニはトップチームに名前を登録された。ボージャンはバルサBの選手登録だが、実質はトップで練習することが決まっており、実際、チャンピオンズリーグの参戦選手としても登録済みだ。

下から優秀な選手を育てるための組織がしっかりしているバルサだが、ビッグチームには、FWが育たないという大きなジレンマがある。正確には育つが、トップに居場所を提供できない。バルサやレアルといったビッグチームになると、FWにはお金に糸目をつけず、名のある選手を据えることが多い。そして、名のある選手とは、ロナウジーニョだったり、ティエリ・アンリだったり、ファン・ニステルローイだったりする。

つまり、外国人選手が前線を彩ることが多く、そこに下から上がってきた選手が入り込む余地はまず、殆どない。結局、他のクラブチームに売却したり、レンタルされたり、それを繰り返すうちに精彩を欠いていく運命を辿る選手は少なくない。

だが、そんな前例を覆し、のし上がってきたのがレオ・メッシだった。彼はアルゼンチン人とはいえ、バルサの下部組織で力を発揮し、トップチームまで上り詰め、ロナウジーニョやエトーと対等にスタメンを張れる選手へと成長した。

正直、メッシがやり遂げていることは奇跡に限りなく近い偉業だ。ピッチの上では、すでにベテランの風格を漂わせているし、実際にもうトップチームに来て4シーズン目を迎えるわけだが、だが、それでも彼はつい、最近、ハタチの誕生日を迎えたばかりなのだ。そのメッシに続け、とさらに今年、ジオバンニとボージャンがベンチ入りを果たした。実際は、シーズンが始まる前はふたりをバルサのトップチームに登録するかどうかが、大きな話題になった。

ワールドユースで大活躍したボージャンには、以前からアーセナルやミランといったビッグクラブが食指を伸ばしていたし、それはジオバンニにしても同じ状況だった。それにトップチームに上がったとしても、ふたりの前には、エトー、ロナウジーニョ、アンリ、メッシが構えている。それならば、レンタルに出した方が出場機会も増えるだろうし、選手の成長のためには良いのではないか、と議論が覚めやらぬところで、なんと、筆頭FWのサミュエル・エトーが再び、負傷してしまった。

ジオバンニとボージャンに追い風が吹いて、ふたりは念願のトップチームデビューを飾ることになった。エトーには気の毒だが、サッカー選手の人生には、こういった運が左右する部分が多い。ビッグチームで成功するのに、実力は必須だ。だが、成功するのには実力と努力だけでは十分ではない、というのは、何人もの選手の口から聞いた。成功した選手は、皆、一様に言う。プラスアルファの要素がないと、成功は手に入らないのだと。こういった運に恵まれることも、プラスアルファの要素のひとつだ。

そんな運には恵まれたふたりだが、どうして彼らにここまで期待がかかっているのか、と冷静に分析すると、余り、笑顔ではいられない。そこには、アンリまで獲得し、攻撃力を更にアップさせたハズなのに、点を取るのに非常に苦労している、という現在のバルサの現実があるからだ。

実際、あれだけ期待されてきたティエリ・アンリだが、リーグ戦ではまだゴールをあげていない。チャンピオンズリーグでようやく初ゴールをマークし、本当に心底、嬉しそうな笑顔を見せていた。あのふだんは落ち着いているライカールト監督も、アンリのゴールにベンチから飛び出した。

アンリもプレッシャーがあっただろうし、FWならゴールを決めて焦燥感が消えた部分もあるだろう。だが、それはバルサのようなビッグクラブに来たら、当然、背負わなければならない重圧だし、そんなに人の良い満面の笑みを浮かべている余裕はないんじゃないかい、アンリくん……とつい、言いたくなってしまう。

実際、このバルサ・ベイビーふたりは、余り時間をかけずにメッシと化すつもりでいるのだ。はっきりいって、アンリがこのままでは、ベイビーに負ける可能性も出てくる。

アンリが初ゴールを決めたのは、チャンピオンズリーグの第一戦、対リヨン戦だったが、そのゴールはジオバンニがシュートしたこぼれ玉を押し込んだものだった。また、ゴールを決めたアンリのすぐ側にはボージャンも待ち構えていた。ひとつ間違えていたら、アンリより先にジオバンニ−ボージャンのコンビがゴールを決めていたかもしれないのだ。

前回のリーグ戦で、メッシが代表戦から筋肉疲労を抱えて帰ってきた時、ライカールト監督はメッシを招集から外し、その代わりにスタメンでジオバンニを使った。つまり、ジオバンニはすでにロナウジーニョ、メッシ、アンリに次ぐ四番目のFWのポジションを手に入れているということになる。

ジオバンニやボージャンに焦りはない。なんといっても、彼らはまだティーンズなのだから。ふたりにあるのは、トップで一流の選手とプレイできる喜びと、バルサのユニフォームを着てプレイできる誇らしさ、それだけだが、そんな純粋な情熱が、今のバルサに最も必要とされているものなのかもしれない。バルサユースでことごとく歴史を塗り替えてきたジオバンニとボージャン。このふたりがトップチームでも、輝かしい歴史を刻むことになるだろうか。「Baby Barca」からは、当分、目が離せそうもない。


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