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山本美智子●文 text by Michiko Yamamoto
photo by AFLO
第36号(2007年2月23日)
バルセロナ、エトー騒動の顛末

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 サミュエル・エトーの爆弾発言で、バルセロナが揺れている、という多くの報道があった。さて、実のところはどうなのだろうか。

 ことの発端は、ラシン戦だった。後半からアップしていたエトーが、ピッチに立つように指示されたのにもかかわらず、それを断ったことが試合後の記者会見で発覚した。ライカールトは言葉を最小限に抑えていたが、地元記者の執拗な質問攻撃により、本人からはその理由を聞いていないこと、ピッチに入りたがっていないことは第3コーチのエウセビオから伝え聞いたこと、などが明らかにされた。

 それだけでも大きなニュースだったが、公式記者会見の場でそれをばらすライカールト監督は「悪い人だ」とエトーが応酬し、火に油を注いだ。また、ピッチに立たなかったエトーを「グループ全体のことを考慮した方がよかった」と表現したロナウジーニョにも「言った本人がその意味を考えろ」とエトーは反撃に出た。

 エトーがロナウジーニョに対してライバル意識を持っているというのは、以前から知られている。ただ、その気持ちはわからなくもない。例えば、スーパースターのロナウジーニョは、外気温が低かったり、天気が悪かったり、はたまた、試合後の月曜日はグラウンドに出てこないことが多い。これは悲しいかな、地元記者なら知っている周知の事実だ。だが、そんなことを書いても新聞は売れないし、それどころか反感を買うだけなので、まず、そういった事実が報道されることはない。

 エトーが負傷して歯がゆい思いをしている間、そんなロナウジーニョを面白くないと思って見ていたとしても不思議ではない。その一方で、エトーはそんなロナウジーニョと全く同じことを平気でやってのけることができる面の皮を持っているのだが……。

 ところが、バルセロナには、伝統的にこういった「Bad boy」を好む傾向がある。クライフがドリームチームを作った時に「このチームにはBad boyが不足している」と言って、ストイチコフを獲得した話は有名だし、シュスター、ロマーリオ、マラドーナ、ロナウドなど、似たような例は過去、枚挙に暇がない。

 結局、翌週のバレンシア戦にエトーは招集されず、それも「まだ、完全に復調していないことを感じたから」という理由で本人が自ら辞退し、事態は収拾をみた。ロナウジーニョ批判の2日後には、ふたりしてグランドで抱き合い、それが全国のニュースで放映され、また翌日の一面を飾った。ライカールト監督も「表現の自由だろう」と言い、エトーの発言を不問に付し、エトーには1ユーロの罰金すら課されなかった。全て話し合いでケリがついたのである。

 エトー騒動の最中、主要スポーツ紙4紙が3日間、エトーを一面で扱い続けた。バルサがエトーを追い出すなら、レアルはエトー獲得の意思がある、などのニュースも飛び交い、スポーツニュースはエトー一色。ベッカムですら、スペインではここまでの騒ぎは起こせない。エトーはメッシやサビオラ、ロナウジーニョのように、誰にでも愛されるタイプではない。ロナウジーニョはそのスペクタクルなプレイと邪気のない笑顔で人々から愛情を勝ち取るが、エトーはゴール数で人々からの敬意を勝ち取るタイプなのだと、ある現地記者はふたりの違いを分析した。

 だが、さらに説明を付け加えれば、エトーはただゴールを量産するだけではない。どうしても点が取れず、試合が展開できない時の先制点、逆に相手の先制に追いつくための同点弾、といった難しい局面を打破するゴールをマークする。その強靭さがエトーの魅力であり、同時に欠点にもなる。彼はよく「誇り高きライオン」と称されるが、この孤高のライオンの性格は諸刃の剣なのである。

 そこに惚れ込んでいるのが、現会長ジョアン・ラポルタだ。エトーがこの爆弾発言をした時に、真っ先にかばったのはラポルタ会長だった。エトーは会長の秘蔵っ子であり、その庇護の下に自分がいることをエトーは自覚している。

 エトーは爆弾発言の中で、「チームメイトは会長派とそうじゃない人の派閥のふたつに分かれている」と指摘した。そうじゃない人、というのは、ラポルタ会長と考え方が異なるためにクラブ幹部から離脱した元副会長サンドロ・ロセルを指している。このサンドロ・ロセルはロナウジーニョ、デコを始めとする現在のバルサの軸になる選手陣を獲得した張本人だ。つまり、ブラジル人を中心にするグループとそれ以外の会長派とに、クラブ内は分かれている、とエトーは指摘したのだ。

 このエトーの発言後の影響は、といえば、ライカールトは初めて、来季も続投することを明言し、周囲の雑音を吹き消し、ロナウジーニョは通常、出てくることのない月曜日のグラウンド練習に姿を見せ、月曜はロニー不在に慣れている地元記者を驚かせた。つまり、少なくとも表面的にはエトー騒動によって、雨降って地固まった状態なのだ。

 ちなみにチーム内で今流行っているジョークは、「で、おまえはどっち派なんだよ?」。エトーの爆弾発言も選手間では冗談のネタにしかなっていないようだ。

 結果から言えば、今回の件で、エトーは自らの来季続投に疑問符を投げかけてしまったことになる。いくら、エトーが吼えたところで、クラブが放出してしまえばすむ話なのが、エトーには見えていない。だが、それは彼の自信に裏打ちされている。エトーがゴール嗅覚を取り戻し、再び、バルサの救世主となり、クラブに内在する問題も吹き飛ばし……というハッピーエンドが待っているかどうか。その結果が出るのは、これからだ。
プロフィール
山本美智子

リーガ・エスパニョーラだけでなく、ポルトガルリーグなどの取材も精力的に行なっているバルセロナ在住のライター。また、新聞社の通信員としても取材活動を行なっている。


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