| 山本美智子●取材・文 text by Michiko Yamamoto ラファ・ウエルタ●撮影 photo by RafaHueruta |
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| 第34号(2006年7月11日) | ||
スペイン代表に春は来るのか?
今回、前評判の高かったスペイン代表の顔ぶれは、確かに悪くなかった。2002年の日韓ワールドカップで経験を積んだ選手も顔を揃えていた。それでも、なおかつ、勝てなかった原因は、大きく分けて3つある。 第一は、なんといっても、スペインにおけるサッカーコンセプトの問題だろう。スペインには、サッカー=“エスペクタクロ”という意識が根強い。英語で言うスペクタクル、つまり、“見せもの”という感覚だ。見ていて面白くなければ、それはフットボールと呼ばれない。スペインリーグでは、試合に勝っても内容がつまらないとブーイングされることがある。逆に、試合に負けても内容が良ければ、惜しみない拍手が送られることもある。試合の記録は忘れられても、美しく感動したプレイの記憶はなくならない、というわけだ。 今大会のスペイン代表が対フランス戦で失敗したのは、その美学を追及しすぎたところにひとつの原因がある。チャビが繰り出す精度の高いパス、アロンソの的確なロングパス、1対1で負けないホアキンのドリブル、果敢に攻撃をかけるサイドバック、プジョルの闘志あふれるプレイ……。スペインのサッカーは確かに美しい。観客の心を打つ。 だが、優勝したイタリア代表と比較すると、スペインに足りないものがよくわかる。後5分で前半が終わるという時に仕掛ける戦略的ファウル、後半35分になれば、誰かがおおげさにもんどりうって、ピッチに寝転がり、その間に選手はドリンク補給にベンチに駆け寄る。延長戦への準備は万端だ。ワールドカップは、ファイナルまでいっても、たった7試合。その7試合だけを乗り越えればいいのに、その長期的視野をスペインは持てない。 90分間に全力を尽くし、その場で完全燃焼してしまう。まるで、観客を楽しませるピエロのごとく……。そのスタイルでは、刹那的に勝てても、決勝にはたどり着けない。それなのに、アラゴネス監督は言い切るのだ。「スペインは相手によってプレイスタイルを変えたりしないし、その必要もない。我々にできるサッカーをやるだけだ」イタリアでさえも、相手によってトップの数を増減するのに、だ。これでは勝てない。 第2に「過信」という心理的要因があった。年寄り集団と揶揄されていたフランスとの対戦を前に、スペイン代表は勝利を確信していた。ラウルに至っては「自分が所属した代表でここまでクオリティが高いスペイン代表はかつてない」と言い切っていたほどだ。楽観ムードがあったことは否めない。逆に、フランスサイドは、簡単には勝てない相手だろうと緊張感を感じていた。スペインは忘れていたのではないか。今回の代表に、プレイオフに回ってようやくワールドカップにたどり着いた過去があったことを。無敗記録を誇っていたスペインだが、それは数字上だけのこと。実際、ここ2年間、カナダや中国など、スペインから見れば格下の相手としか、親善試合を行なっていなかったのだから、この点については、スペインサッカー協会も責任を問われるべきだろう。 誤解を恐れずに言えば、フランスとスペインの実力は互角だったかもしれない。だが、その一瞬の精神的な隙を突かれる怖さを、老獪なベテラン集団のフランスは知っていた。中盤を仕切ったジダンとセスクの年齢差は実に15歳差。だが、それは、15年間のキャリアの違いでもあったと言えよう。 そして、最後にアラゴネスがベテラン選手を使い切れなかった部分が、明暗を分けたのだと思う。今回のスペイン代表には、カニサレス、サルガド、マルチェナ、アルベルダ、ホアキンなど、4年前のワールドカップを経験しているベテランがいた。また、ワールドユースでスペインに華をもたらしたイニエスタもいた。だが、スペインが散った対フランス戦の後半、スペイン側のイレブン中9人がワールドカップ初心者だったことは、かなり象徴的なのではないか。 ラウル自身も試合後に話していた。「この代表はかつてなく、実力のある代表だったが、競争力に欠けていた」。経験がない選手を起用するのだから、競争力がないのは当然で、それは最初から見えていた結論でもあった。02年の日韓ワールドカップ予選の時から、中心的選手となって戦いながら、ベンチでスペインの敗戦を見送り、事実上、ワールドカップとも別れを告げることになったサルガドやアルベルダは、一体、どんな思いで、この敗退を見守っていたのだろうか。 アラゴネスの采配にも、不透明な部分が多かった。フランス戦ではラウルがスタメンに再び抜擢され、全く活躍できずに後半から退いた。日々の練習を見ていれば、ラウルが不調なのは素人目にも明らかだったのだが……。また、この試合でセスクが、ビエイラ、マケレレといったフィジカル的にも強く、経験豊富な選手に対峙させられ、セナが外されたのは、結果から言えば、自殺行為だった。 だが、そんなアラゴネスが、今後も続投することが決まった。ワールドカップ前は、スペインが準決勝までいけなかった場合、辞任する意向を示していたが、今回、散った後、考えをがらりと変えて、2008年のユーロまで継続すると決めた。ワールドカップ中の采配さながら、行き当たりばったりで、まるで道理が通っていないが、スペインサッカー協会は、「ルイスを信じている」と全面アップする構えを見せている。それも当然、もし、アラゴネスが退く場合は、協会は多額の退職金を支払う義務があるのだ。 しかし、これだけ優秀な選手を抱え、ワールドカップ予選でも恵まれたグループに当たりながら、プレイオフに回り、本選でもグループリーグを突破するのみで終わったアラゴネスに、再び、舵を取らせるとは、開いた口がふさがらない。ユーロでは、ウイングをつけるのか外すのか、やはり、ペルニアやセナのようにその時々に調子のいい選手をスタメンに起用し、長期的視野は持たず、スタメン決定は大会ぎりぎりまで決めない路線で進むのだろうか。 スペイン代表に実力がないとは思わない。戦力的にも劣っているとは思わない。だが、指揮官と協会がこれでは……。「憤怒のスペイン」は代表よりも、国民を表現しているようだ。 |







