宮崎隆司●翻訳 translation by Takashi Miyazakii
photo by AFLO
第68号(2008年3月26日)【イタリア】カルチョの真実 vol. 7 「ミランの真実」〜セードルフインタビュー
チャンピオンズリーグからの敗退、そしてセリエAでの低迷。今シーズン、ミランはその強さを示すことができないでいる。その内実と展望を、中核のひとりであるクラレンス・セードルフ、百戦錬磨のベテランMFが語った。
Clarence Seedorf(以下、S) 華麗に勝つこともあれば、時には空しく敗れ去ることもある。言うまでもなく、それがスポーツの掟だ。去年12月の横浜、世界を制した俺たちは賞賛を一身に浴び、だがついこの間の対アーセナル(=08年3月4日、サンシーロ。チャンピオンズリーグ=以下、CL)では一転。欧州8強入りを逃したミランはまたしても「老いた集団」といわれ、国内外からの猛烈な批判に曝されることになった。
天と地。その極端な状況をわずか3カ月にして目の当たりにしたわけだ。中には心配してくれているファンもいるだろうが、どうってことはない。俺にはそう断言できる。長く欧州のトップでボールを蹴ってきた俺は、30歳を超えた今、もうどっちにだって慣れているのさ。敗戦を受け入れることが俺にはできる。敗れても再び立ち上がり、そして前へと進んでいく。それ以外にできることはないんだからな。
そして現実に敗れた今、俺とミランは当然、らしく前だけを見据えて歩き始めているのさ。もちろん、ミランらしく高い誇りを忘れることなく。と同時に、俺たちを倒したアーセナルに最大限の敬意を抱きながら。敵は本当に素晴らしいプレイをみせた。あれだけのクオリティーを180分にも渡り保ち続けてみせた若い選手たちを、指揮官であるベンゲルを俺は心から尊敬しているのさ。
もっとも、ミランの掟が“Never whithout Pantera”である以上、あのミラノでの試合がそれに反していたってのは紛れもない事実さ。ファンのみんな、忘れないでくれよな。Panteraとは豹。つまりこの俺。セードルフという名の獰猛な豹がいれば、攻めるべきポイントを狂いなく見極めていたはずだってことを。そして、必ずや獲物を捕らえたはずだという自負を俺が強烈に持っていることを。あんな結末を、ミランが見ることはなかったはずだ。
――何れにせよ、今季のミランに対する評価はふたつに分かれる。欧州スーパーカップとクラブワールド杯の2冠を遂げた上、今季のセリエAで4位(来季のCL出場権)を手にすれば、極めてポジティブな1年だと評するのがひとつ。だが一方には、シーズン開幕から早々とスクデット争いから脱落し、そしてCLでは決勝T1回戦で敗退との結果を受け、最早ミランの一時代は終わったと言い、いまこそ抜本的な改革に乗り出すべきだとする声がある。その割合は概ね50対50。この件、チーム内部にいる君自身は一体どう感じているのだろうか?
S 抜本的な改革? それは何も今に始まったことじゃないよな。2年前にCLファイナルを落としたとき、あの悪夢のようなリバプール戦の後だが、それこそ容赦のない批判が当時の俺たちには浴びせられたものだ。だが、それでも俺たちが自らの進む道を曲げるようなことはなかった。信じることをやめなかったと言っていい。クラブが掲げるプロジェクトを粛々と前へ進め、時々の状況に応じていくつかの技術的な修正を試みながら、だが常にミランらしくあることを忘れず、昨年の5月に俺たちは見事に欧州ナンバー1の座に返り咲いてみせた。そして、12月には世界一へ。
そこに抜本的な改革などなく、ならば今も俺たちの意識に変化なんてない。大切なのは続けていくこと。そう確信して疑っていない。チームとはアマルガム(混合物)と同義語であるはずだからな。化学実験によって出される答えみたいなものだと言えるだろう。とすれば、言うまでもなく、正しい答えを得るには相応の時間が掛かるものだ。
まったく異なる実験素材が複数、つまりは選手たちがひとつの容器に、すなわちチームっていう枠の中に入り、その中で様々な化学反応をみせる。無論、この過程ではいくつもの組み合わせが試みられ、監督はその中から最も優れた結果を導きだす役割を担い、そして日曜日の度に実験の成果が試される、と。チーム作りってのは試行と錯誤、こうした作業の繰り返しなんだよ。行なうべきは抜本的な改革ではなく、実験の精度を高める為の工夫なのさ。この基本を忘れるようでは、いつまでたっても勝てるチームなんて作れないはずだぜ。
――加えて、そのプロセスを容認する環境が欠かせない。
S その通り。たとえば俺たちを倒したアーセナル。すなわちイングランド勢を見れば答えは自ずと明らかになる。やつらはミランに勝ち、欧州ベスト8に入ったんだが、そして国内でもマンUとの首位争いを続けているとはいえ、それでも現実にはどうか? このところのプレミアで、アーセナルは思うようなプレイを全くと言っていいほど見せることができていない。にもかかわらず、チームに過度な重圧が掛かることはない。メディアも含め、いかに周りが成熟しているかってことの証だよ。
――その点、ミランは言うに及ばず、国内で圧倒的な強さをみせるインテルもまた常軌を逸したかのような批判に晒されている。
S マンチーニが、国内で首位を独走するチームの監督が公の場で辞任を口にする……。CL(=08年3月11日、対リバプール=決勝T1回戦2ndレグ)で敗れた直後であったとはいえ、そして翌日には発言を撤回したとはいえ、この意味は決して小さくはないはずだ。
――話を今季のミランに戻そう。抜本的な改革を否定する君は、すなわち今季終了後の移籍市場でも積極的に動くべきではないと考えるのだろうか?
S 必要なのは4、5人。重要なのは、チームの軸を変えないことだ。DFはネスタとカラーゼ、MFはピルロとガットゥーゾ、アンブロシーニ。そしてカカと俺、FWにはインザーギとパト。この顔ぶれが来季もまた軸であり続ける。それに、どうやらシェフチェンコが帰ってくるみたいだしな……。
――賛否両論のシェバ復帰だが、君は肯定派のひとりであると?
S 当たり前だろ? それに、そう思ってるのは何も俺だけじゃないぜ。ミラン内部では誰もがアイツの帰りを待ちわびているのさ。2年前の去り方があやまっていたというのは事実だが、それでも、あの選択をシェバ自身が誰よりも強く後悔しているってことを、ミランの全員が知っているんだ。この2年間でアイツは十分に“償った”はずだよ。もうこれ以上、あれだけの実力を無駄にすべきじゃない。ミランの扉はいつだって開かれている。帰るべきときに来ているはずだぜ。
――叫ばれて久しいミランの得点力不足。これをシェバだけの力で解決できるとは思えないのだが……。
S それはアイツのハート、どれだけ強い思いを持って帰ってくるのか。ここにかかっていると言えるだろうな。ゴールと勝利に飢えていた数年前、あの頃のようなハートさえあれば、今もなおシェバは年間20ゴールを約束できるFWだ。
もちろん、同様のことはアルベルト(・ジラルディーノ)にも言える。より激しいゴールへの姿勢が求められているはずだ。備えている才能は間違いないんだが、いかんせんアイツは必要なエゴに欠ける。もっと強引に、猛然とゴールを目指す姿勢なくして、ここミランで出番を与えられることはない。要するに、アレを出せ、と。アレってのはもちろん、男なら誰でも持ってるふたつのタマのことさ。勇気でも気魄でもなんだっていい。とにかく「この俺にボールをよこせ!」と、そう激しく主張する姿勢なくしてFWはFWたる資格を持たないはずだからな。
――そしてロナウド。
S (3月)12日、久しぶりにミラネッロで会ったんだが、その時に俺たちが何を話したのかは、まぁ内緒だが(笑)、とにかく俺はアイツの復帰を信じてるよ。世界のサッカー史上有数のFW、怪物ロナウドの歴史は、絶対にこのまま終わらせちゃならない。
今年最初の試合、覚えてるだろ? 第18節(08年1月13日)の対ナポリ。あの試合での俺たちが一体どんなプレイを見せたのかってこと、ファンだったら忘れてないよな? 俺とカカ、そしてパトとロナウド。このカルテットが魅せたプレイ、俺とカカとパトが1点ずつ、そしてロナウドが2発、あれこそが俺たちの持つ本来の実力なのさ。このメンバーで1年を通して戦えたとしたら、言うまでもまく、今に見る状況はまるっきり違っていたはずだ。
――不甲斐ないFW勢に加え、MF陣の中にも期待を大きく裏切った者がある。とりわけグルキュフに対する失望は小さくなかった。
S 事あるごとにアドバイスを与えたり、頻繁に食事に誘ったり、とにかく実の弟みたく接して来たんだが……それでもいまだにアイツはチームに溶け込んでいないんだよ。若いからこそ立ち向かうべき問題が多いのは分かる。だが、より良くイタリアのサッカーを分かろうとする努力を、より深くミランを知ろうとする努力を、若いからこそ誰よりも貪欲に続けていく必要がアイツにはある。周囲が寄せる期待の大きさ、これは自らが持つ才能の大きさに比例するってことを改めて考えてもらいたい。
――同じフランス人の加入が、あるいはグルキュフの心の状態を変える一手段となるのかも知れない。事実、ここにきてマチュー・フラミニの加入が盛んに報じられている。彼とアーセナルの契約は来る6月をもって切れることもあり、その獲得は半ば確定的とも言われている。
S それが事実かどうかは知らないが、とにかく、事実とすれば極めて効果的な補強だと俺は思うよ。
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