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内海浩子●文 text by Hiroko Uchiumi
アフロ●写真 photo by AFLO

第59号(2007年10月16日)【イタリア】今シーズンもぶっちぎりのインテル〜首位を快走

「トップコンディションになるのは1カ月後」。9月1日のセリエA第2節、イブラヒモビッチの個人技でエンポリを何とかねじ伏せた後、マンチーニは少々苛立ちながらマイクに応えた。開幕直前のイタリア・スーパーカップで惨敗し、セリエAが幕を開けたあとも“スクデット候補ナンバーワン”の肩書きに相応しくない内容と結果が続いていたため、マンチーニはマスコミにとって格好の餌食になっていた。

チャピオンズリーグの初戦はジーコのフェネルバフチェに完敗した。9月半ば、モウリーニョがチェルシーを退団すると、新任先クラブ候補としてマスコミは真っ先にインテルの名前を挙げた。スタートから飛ばすローマやユベントスに主役を奪われ、クラブ設立100周年となるシーズンの滑り出しは芳しくなかった。

しかし、それから約1カ月後となる9月29日、マンチーニの“予告”通り、首位ローマを敵地オリンピコで粉砕したインテルはリーグトップに躍り出る。この日を境にマンチーニの采配に文句をつける外野は姿を消した。

「ユーロ予選休み(10月14日)を1位で迎えられるとは思っていなかったので嬉しいよ」とマンチーニは打ち明ける。実際、インテルが本調子になったのはマンチーニの計算より早かった。兆候がはっきりと現われたのは9月26日の第5節、サンプドリア戦。今季初めて時計の針が90分に向かうほど尻上がりに調子を上げた試合だった。

そしてこの日もイブラヒモビッチのシュートがうなった。試合後、サンプのカッサーノは舌を巻いた。「世界でロナウドの次にスゴいのがイブラだ。その次? 誰もいないね」。

82年W杯優勝監督、エンツォ・ベアルゾットは言う。「現在のセリエAにはふたりの天才がいる。ひとりはカカ。もうひとりはイブラヒモビッチだ」

イブラヒモビッチは「彼のプレイを見るためにチケット代を払ってもいい」と思わせてくれる選手だ。クレスポ、クルス、アドリアーノ、スアソら一流FWが揃うインテルだが、マンチーニはイブラだけターンオーバーせず全試合で起用している。ここまで7ゴールを挙げリーグ得点王争いでトレゼゲ(ユーベ)と並んでトップだが、「私が彼を外さないのは決定力が素晴らしいからだけではない。アシストやチャンスメーカーとして特別な存在だからだ」とマンチーニは公言してはばからない。

「テクニックだけでなく、3人のDFを一気になぎたおすフィジカルの強さも並外れている」と元イタリア代表CBのフェラーラは指摘する。ゴール前でイブラがボールを持つと、彼を恐れて3、4人のDFが取り囲む。そこからスルリと出るパスを受ける味方がフリーでシュートを打てるのは当然の結果である。

以前の個人プレイは影を潜め、チームの勝利第一のためにプレイし、パス出しも早くなった。そして、ここぞという時は息を飲む芸当でチャンスを切り開く。26歳にして彼は完璧の領域に突入したのだ。

だが、イブラの存在もさることながら、インテルの底力はその選手層の厚さにある。マンチーニが「1カ月後……」と言ったのは、そのようなコンディション調整だっただけではなく、マテラッツィ、ビエイラという守備と中盤の主柱を故障で欠いていたからだった。ところがマテラッツィの穴はサムエルが、ビエイラの穴はダクールが見事に埋め、彼らの長期欠場は全く感じさせなかった。

FWではスアソがいまひとつ力を発揮できていないが、“スーパーサブ”クルスは今季も健在。不調を囲い移籍か残留かでもめたアドリアーノは、「改心」宣言をしてフロントとの関係を修復。完全復活はまだ遠そうだが、精神的には落ち着きを取り戻している。

また、アドリアーノ同様、チャンピオンズリーグの出場登録リストから外されたセサルは、それにグレることなくセリエAで期待に応えるプレイを見せている。「CLのリストから外れたのはガッカリだけど、1月の再登録でメンバーに入れるよう頑張るだけだよ」と発言もあくまで前向きだ。

うまくいく時は何をやっても誰が出てもうまくいくもので、クレスポ、フィーゴ、スタンコビッチ、カンビアッソ、ジュリオ・セサル、と、ここまでの立役者をあげればきりがない。個々の身体能力で違いを見せつけ昨季のセリエAを席巻したインテルだが、今季はイブラのさらなる成長で凄みを増した感すらある。

平均年齢がミランの次に高い数字が示すように経験も豊富。あえて欠点を挙げるなら、攻撃に少々イブラ依存症ぎみのところが見られるが、彼が出ていれば依存してしまうのは弱点というより必然といえよう。

「インテルが2位に10ポイント差開いてスクデット」とマッシモ・マウロ(元イタリア代表で現解説者)は大胆な予想をしている。そこまでの実力差があるかどうかは別としてもライバルと目されているローマ、ユーベ、ミラン、フィオレンティーナに比べると選手層で数段上なのは明らかだ。

現状からいって「インテルに対抗できるのはローマだけ」と言われている。確かにローマは今季のセリエAで最も優れたサッカーをしていると定評を得ている。だがベルゴミは警告する。「確かにローマは美しい。個人技を優先させているインテルがローマのような素晴らしいチームサッカーを見せることはないだろう。だがローマはインテルほど試合をコントロールする術を知らない。従って、長いリーグ戦を制するのはインテルと見るのが妥当だろう」

昨季はSNAI(イタリアのブックメーカー)が1月末の時点で“スクデットはインテル”と“決定”し、掛け金を払い戻したほどインテルぶっちぎりのシーズンだった。今季はもう少しまともな接戦を期待しているのだが、今のところ昨年と同じようなシナリオでリーグ戦は進んでいる……。


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