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アラン・トネッティ●文 text by Alan Tonetti
宮崎隆司●翻訳 translation by Takashi Miyazaki
アフロ●写真 photo by AFLO

第58号(2007年9月27日)【カルチョの真実 vol.3】国内選手の流出と外国人プレイヤー〜イタリアサッカーの将来

年と共に増す国外逃亡者。それは、なにも戦火に塗れた何処かの国の話ではなく、一応は先進国として認知される国、フェラーリとファッション、芸術とサッカーの国、イタリアにみる実情だ。

そのうち、またしてもカルチョの様子がどうもおかしい。昨年夏の「モッジ事件」で溢れ出た大量の膿はなおも止まらず、回復の兆しを目にすることは半ば不可能に近い。審判買収の噂は今も絶えず、賭博に関与したとされる選手たちの裁判は今も続き、レーガ(イタリア・プロサッカー連盟)とFIGC(イタリア・サッカー協会)の対立は以前よりも激しさを増している。

ユーロ予選を控え、FIGC及び選手会側は8月19日からの開幕を希望するも、レーガ側が、1週間前倒せば、その分クリスマス休暇が削られることを理由に強硬に反対。結果、9月8日、ユーロ予選でイタリア代表は、圧倒的なコンディションの差を露呈し、ホームでの対フランス戦を引き分けで終えている。

この日、イタリアが放った枠へのシュートはわずかに1。代表監督(ロベルト・ドナドーニ)自ら、“相手に対する怖れがあった”と認めざるを得ない内容でしかなかった。

加えて、同試合前のセレモニーでの出来事も特筆に値する。フランスの国歌吹奏に対し、スタジアムを埋めた8万超の観衆が大ブーイング。この国の社会(サッカー界)に蔓延する病巣を改めて内外に露呈する結果となった。

その世界を司る者たちの度重なる不正、尽きないスタジアムでの暴力と人種差別、八百長に対する疑いの根は深く、一方には高まり続ける外国人選手への依存度という側面が横たわり、その結果として、国内選手の活躍の場は減少の一途を辿る……。

こうした現状が、遂には現役の選手たちから、とりわけ20代前半の選手たちから、イタリアでのプレイを断念させようとしているのだ。

象徴的な例がジュゼッペ・ロッシ(ビジャレアル/写真)、アレシャンドレ・パト(ミラン)のふたり。前者は87年生れのFW。昨季後半(07年1月)にイングランドから戻りパルマに入り、19試合に出場して9ゴールを記録。チームを降格の危機から見事に救い、その好成績ゆえに、昨季パルマを率いたクラウディオ・ラニエリは今夏、ユベントス監督の座を射止めた。言うまでもなく、ロッシの活躍なくしてラニエリの昇進はなかったということだ。それは、監督本人も公に認めている。

一方のパトは89年生まれのFW。その才能は確かに高いレベルにあるとは言え、ブラジルでの実績は出場25試合に留まり(12ゴール)、欧州での経験はゼロ。即戦力としての可能性が、ロッシと比較して高いとは言えない。

にもかかわらず、ミランはパト獲得に2200万ユーロ(約35億円)を費やし、ロッシに関してはその市場価値を1200万ユーロと見積もるも、獲得に動く気配すらみせていない。そして、ミランに限らず他の国内クラブもまた、おそらくは現在のイタリアが持つ最も優れた若い才能に対し、冷たく背を向ける形で今夏のメルカートを終えている。

救いは、ピエルルイジ・カシラギ(現イタリア代表U-21監督)と、そのアシスタント・コーチを務めるジャンフランコ・ゾラのふたりが、ロッシの才能に惚れ込んでいるという点だ。共にイングランド(チェルシー)でのプレイ経験を持つ両者は、異口同音にこう述べている。

「これだけの可能性を秘めた若手を(イタリアのクラブが)“捨てた”という事実は消えない。イタリアのサッカー界に汚点として残るはずだ。若い才能を見極める眼、若い才能を育て上げる力量、このふたつが国内に欠落しているとの事実を曝したことになる」


これだけではない。ロッシのみならず、22歳のグラツィアーノ・ペッレー(U−21代表)はオランダのAZへ入団するなど、中堅及びベテランクラスでも国外脱出組は増加を続けている。昨季の得点ランキング2位のクリスティアーノ・ルカレッリはウクライナ(シャフタール・ドネツク)、3位クリスティアン・リガノはスペイン(レバンテ)へ、そして4位ローランド・ビアンキはイングランド(マンチェスター・シティ)へ移籍した。

その他、DFエミリアーノ・モレッティは04−05シーズンからバレンシアでプレイし、26歳になった今、そのプレイは半ば円熟の域だが、獲得を図るイタリアのクラブはない。W杯制覇を支えたDFグロッソも今夏フランス(リヨン)へ渡り、ザンブロッタ(バルセロナ)、ファビオ・カンナバーロ(レアル・マドリード)に続いた。

結果、もうひとりのW杯メンバーである、ドイツ(バイエルン)へ移ったルカ・トーニも含め、欧州各国に散らばるイタリア人選手は、今シーズン合計20名にも達する。

この状況を、イタリア国内では、先のカシラギ&ゾラの見解をよそに、単なる税制ゆえの結果として片付けようとする向きが強い。63%もの所得税率をその理由とし、より高い年俸(と低い税率)を約束する国へと選手が流れているというのだ。事実、スペインのそれは25%。同じ手取額を保証しようとすれば、イタリアのクラブは自動的に過度な経済的圧迫を被ることになる。

だが、果たして本当にそれだけが理由なのか? チームへの忠誠、ファンとの絆、街への愛着……。そうした思いが、巨大化を続けるフットボールビジネスの中で着実に蝕まれているのではないか。そうでなければ、数億円もの年俸を手にし、加えて数億円規模のスポンサー料、肖像権料を得る選手が、取材を受けるにあたり、“わずかな”見返りを求めてくるはずがない。

取材交渉をと最初の電話を掛ける際、一体どれだけの数の選手または代理人が、何よりも先に「クアント パガーテ(幾ら払うんだ)?」と尋ねてくることか。「ギャラは払わない」。そう答えると、実に残念なことなのだが、ほぼ100%の確率で電話は切られる。

その一方で確かに、毒に冒されていない心があることを忘れてはならない。無論、それはピュアな子供たちの心だ。件の“モッジ事件”を知らない(理解できない)彼らは、直後のドイツW杯制覇に歓喜し、その熱狂が、この国のサッカー界に新たな流れを生もうとしている。

昨季(06−07シーズン)のFIGC登録選手数(6〜12歳)が、05−06シーズン比で3.85%の上昇。現在はまだ統計途中であるとは言え、数にして約3万人の増加となるといわれている(総数約75万人)。過去10数年に渡り平均0.5%増で推移してきただけに、この数字は関係者を驚かせ、同時にユース組織全体の活性化に直結するものと期待されている。

フィレンツェで6、7歳の子供たちを指導するあるコーチはこう語った。

「昨年夏にイタリアから出た膿は、あくまで一部の人間たちから出たものに過ぎない。サッカーという名の土壌までが腐っているわけではない。むしろ、この国には尚も肥沃な大地が残っている。国外逃亡者の増加が現実ならば、その土地を我々は黙々と耕し続け、今以上に多くの若い才能を輩出すべく努めるまでだ」


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