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内海浩子●文 text by Hiroko Uchiumi
photo by Getty Images/AFLO

第51号(2007年4月11日)苦悩するアズーリ〜ユーロ2008予選

ユーロ2008予選の初戦でフランスに惨敗し、続くリトアニア戦をホームで引き分けたのが響き、フランス、ウクライナ、スコットランドの上位集団から一歩引き離されていたイタリア代表だったが、3月末にスコットランドを2対0で下して息を吹き返した。

この日の勝利の立役者はルカ・トーニ。ヘディングで2ゴール決めただけでなく、守りでも不安視されていた空中戦を彼が制して絶賛されたが、本人は「リンギオ(ガットゥーゾ)に怒鳴られるから守備も一生懸命やらざるをえなかった」と照れながらジョークでかわしていた。

選手たちの顔には安堵の笑みがあった。しかし、それは晴れ渡った満面の笑みではなかった。彼らの誰もが向けられたマイクにこう答えた。「今日は監督のために戦った」と。

「理不尽なマスコミのバッシングだった」とキャプテンのカンナヴァーロが言えば、「W杯がそうだったように、批判が代表を団結させ強さを引き出すという思いやりからやってくれたんだろう」とマテラッツィは皮肉で返した。

実際、報道陣によるドナドーニ監督に対するスコットランド戦前の厳しい質問や一部報道は、嫌がらせかとさえ思えたほどだった。手始めはトッティ問題。たしかに、「代表復帰は9月」と決めて“アズーリ一時休暇”をトッティが取得したことに不満を覚える人は少なくない。

82年W杯優勝監督のエンツォ・ベアルゾットは「トッティ抜きの代表は考えられない」と前置きしつつ「代表から引退する、というのならまだ理解できるのだが……。いつ代表に戻るかを決めるのは監督であり、選手ではない」と眉をしかめる。また「代表と代表選手に対して礼に欠ける行為」と苦言を呈するオッドのような “チームメート” もいる。そしてマスコミによるとこのゴタゴタの原因は優柔不断なドナドーニ監督にある、というわけである。

W杯優勝後、「ローマで獲ったスクデットのほうが喜びは大きかった」と言ってはばからなかったトッティだが、最近のインタビューでも「一番大切なのは家族、次にローマ、その次が代表」と語っている。ライバルがインテルだけの今季はセリエAで優勝する絶好のチャンス、という思いもあってか、ユーロ予選がスタートする前に「しばらくはローマ一本に絞る」と代表休業を宣言したのである。

思っていた以上にインテルが強かったため春になる前に スクデットは視界から消えてしまったものの、チャンピオンズリーグでは周囲の予想に反して堂々ベスト8まで進出した。またトッティには代表合宿でローマを離れたくない理由もある。ヒラリー夫人は現在妊娠8カ月。1歳になった長男クリスティアンくんに続き、もうすぐ彼にとって初めての娘が誕生するのだ。

こういった諸々の裏事情があるにせよ、表向きには「代表とクラブチームを両立できるコンディションにない」がトッティ側の理由。それをドナドーニに責任転嫁し、あれこれしつこく聞きまわすマスコミの質問に飽き飽きしたガットゥーゾが「トッティが3日置きの試合はこなせないと言ってるんだから、仕方ないだろうが」とかばう場面もあった。

だが、ドナドーニを叩くネタはこれで終わらない。「未熟」、「経験不足」、「若すぎ」、「W杯で優勝した選手たちにナメられている」は序の口で、「ミランと契約が切れたら(=2011年)代表監督をやってみたいかも」というアンチェロッティの発言は「スコットランド戦で勝てなかったら後任はアンチェロッティ」に “変換” 。

就任から半年強で50人以上も招集し、「4−3−3」(対クロアチア、リトアニア、ウクライナ)、「4−4−2」(対フランス)、「4−1−4−1」(対グルジア、トルコ)、そして今回は「4−2−3−1」で戦うとわかると、「選手やシステムを変えてばかりで、はっきりとしたビジョンがない」と文句をつけた。

挙句は、「ピルロ、デルピエロとドナドーニの不仲説」。事実は、システムが4−2−3 −1になったことでピルロの居場所がなくなっただけだし、デルピエロよりディナターレの方が調子が良いと判断されただけのこと。それに、どんなチームであっても、スタメンから外れて「満足です」とニコニコしている主力を見つける方が難しい。

こうして、いつもは不言実行で温和なドナドーニが「この1週間で百科事典を作れるほど多くのウソが報道された」と “口ごたえ” するまでに至ったのであった。しかし、試合が勝利で終わればマスコミの “攻撃” はもちろん中止(または小休止)。ドナドーニは “有能な若手監督” という肩書きになり、選手の不仲説はどこかに消え、4−2−3−1は大成功と賞賛され、「トッティ抜きでも今のイタリアなら9月まで乗り切れる」という結論に導かれた。

イタリアのいる予選B組は、勝ち点12で並ぶフランス、ウクライナ、スコットランドに勝ち点10のイタリアが追いかける混戦となっている。アズーリのプラス材料は、欧州でサンマリノの次に弱いフェロー諸島との試合をまだふたつ残していること。マイナス材料は “ライバル” 3チームのうちウクライナとスコットランドとは敵地での試合を残していること。

この際、フランスにスコットランドとウクライナを破ってもらい、その隙に2位通過というのがイタリアが本大会へ進む最も現実的かつ手っ取り早い道かもしれない。


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