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内海浩子●文 text by Hiroko Uchiumi
phto by PICS UNITED/AFLO
第49号(2007年2月15日)
リーグ再開も、問題山積みのセリエA

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 2007年2月2日、警官隊とカターニャファンの過激分子との衝突でひとりの警察官が落命するという代償により、かねてから問題視されては棚上げされてきたスタジアムの安全性が本格的に見直されることになった。真っ先に腰を上げたイタリアサッカー協会の臨時コミッショナー、パンカッリは政府とともに厳しい規約を作り上げ、難題解決への突破口を開こうとしている。その糸口のひとつが、ピザーヌ法の徹底である。

 ピザーヌ法とは、2005年に当時の内務大臣だったピザーヌが施行した暫定措置令で、記名式チケット、完全指定席、ビデオカメラによる監視徹底、入り口に回転バーを導入、人種差別や誹謗中傷の暴力的横断幕の禁止、発炎筒や爆竹等の持ち込み禁止、それらが使用された場合は試合を即中止、などがその中でうたわれている。しかし、古ぼけたスタジアムの多いイタリアで現実的にすぐさま対応するのが不可能なケースが続出したため、2005−2006シーズンは半年間猶予期間とされ、その後さらにまた半年間猶予期間が延長された。そして迎えた今シーズン、セリエAの半数以上のスタジアムは政府から“特例許可”を得て、設備の徹底は2007年6月まで猶予される形となっていた。その中のひとつが、ミラノ、ジュゼッペ・メアッツァ(通称サンシーロ・スタジアム/写真)である。

 “サッカーのスカラ座”と呼ばれるサンシーロ・スタジアムは、見た目も機能も素晴らしい。イタリアは2012年の欧州選手権の開催地に立候補しているが、その会場としてUEFAからのお墨付きももらっている。だが、ピザーヌ法はまた別物。1年前からこの法に従って工事は始まっていたのだが、他のスタジアムに違わずここも持ち主はチームではなくミラノ市。書類やら許可やらで手間取っていたのと、特例も降りていたことで工事はノンビリと進んでいた。そこへ今回の事件によって政府がいきなり「明日から特例は一切認めません」と決めてしまったものだから、ミランとインテルにとっては青天の霹靂。特にトルネッロの入場口は絶対条件となり、それがなければ無観客試合を余儀なくされる。しかもこの措置はセリエAだけでなくチャンピオンズリーグにも適用されるとあって、グチを言っているヒマはない。こうしてサンシーロには100人の作業員が動員され、夜を徹してトルネッロを取り付ける突貫工事が行なわれる運びとなった。

 その甲斐あって、まずは年間パス購入者の入場を可能とする28個のトルネッロ(回転扉)を取り付けることに成功。セリエAが再開(11日)の前日夕方、晴れて年間パス保有者の入場許可が降り、滑り込みセーフで無観客試合を避けることができたのである。ミランとインテルは今月中にトルネッロの数を60まで増やす計画だ。

 しかし、他スタジアムの現実は厳しい。11日のリーグ再開時点で観客の入場許可が降りているセリエAのスタジアムはローマ、カリアリ、ジェノア、パレルモ、トリノ、シエナの6カ所。フィオレンティーナファンは「なぜミラノが出来たのに我々は3月半ばまで待たなければならないのか」とブーブーだし、せっかくUEFAカップで勝ち進んでいるのに年代物のスタジアムに手を焼いて当分は観客なしで試合をしなければならないリヴォルノも怒りと落胆を露にしている。優等生で知られるウディネーゼや、サポーターのフェアプレー賞を毎年受賞しているキエーヴォのファンが今季いっぱいホームスタジアムでの観戦が絶望的というのも不尽理に思える。今回の発端となったカターニャは、スタジアムの設備うんぬん以前にしばらくはホームで試合ができないことになるだろう。セリエAへの足がかりをつかんだばかりの森本貴幸にとっても悲しい現実だ。とはいえ、18歳の日本人青年がセリエA初登場で冷静に美しく決めたゴールに対し、日本からだけでなくイタリアマスコミからも俄然注目されていたことから、駆け出しの選手としてはここで水を差してもらえたことが吉とでるかもしれない。

 何だかんだとケチはつけつつ、今回の措置は必要だったと大方のファンは受け入れている。しかし果たして法が現実に適用されるのか疑問を抱いている人も少なくない。事実、2005年にピザーヌ法が施行された後も発炎筒はスタジアムに存在し、それが投げ込まれたからといって試合がサスペンドになることもなかった。また、セリエAが再開した11日には、殉職した警官に対する黙祷にブーイングが起きたり(ローマ)、無観客試合のスタジアムに外から発炎筒が投げ込まれる(アタランタ)など、初日から雲行きは怪しい。アリゴ・サッキは「我々は今までもそうだったように問題の根源をつきつめていない。トルネッロが問題を解決することはない」と苦言を呈する。対策のモデルにするのはフーリガンに打ち勝ったイングランド方式がいいとか、アメリカNBAのようなショービス先行型がいいとか、イタリアならではの方法を生み出すべきだとか、今のところ足並みが揃う様子もない。今回の法の強化を単なるドタバタの茶番劇に終わらせてはいけないと誰もが口にするが、そのための方向性は未だに模索中というのが現状である。

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