Special Contents WorldFootball ITALY
内海浩子●文 text by Hiroko Uchiumi
アフロ●写真 photo by AFLO
第46号(2006年11月7日)
Bに降格した常勝ユーヴェの台所事情

+拡大画像
 9試合を消化して8勝1分17得点2失点。圧倒的な成績でユヴェントスがセリエBの挑戦者たちをねじふせている。カルチョスキャンダルによりセリエAからの降格を命じられ、その上に課せられた17のマイナスポイントからスタートした今シーズンだが、たったの1カ月半で勝ち点をプラスに乗せ、さらには10月27日に出された最終判決の“恩赦”(−17から−9)によって、首位のジェノアまで3ポイント差の4位と順位も一気に押し上げた。

「今季は昇格枠がひとつ少ないと思って戦うよ」と、A行きを狙うボローニャやピアチェンツァといったチームは苦笑い。「すでに勝った気持ちになるのが一番怖い」とユーヴェ監督のデシャンは言うが、その言葉とは裏腹な穏やかな表情が全てを物語っている。

 ユヴェントスの敵がセリエBにいないことは、開幕前から誰もがわかっていたことだ。だが不安材料がなかったわけではない。まず、カンナヴァーロ、テュラム、ザンブロッタの抜けた守備、さらにはチームの軸となっていた中盤のエメルソン、ヴィエイラという昨シーズンの土台ともいえる選手がごっそりといなくなってしまった。

 つまり、新監督のデシャンはチームのベースを1から作らなければならなかったのである。また、セリエAに比べると質では低いものの“当たり”と根性では優るとも劣らないセリエBの戦い方にユヴェントスが順応できるのか、という疑問もあった。

 事実、開幕直後はその“予感”が的中。第1節のリミニ戦では不甲斐ない内容で引き分け、コッパイタリアでは昇格争いのライバルでもあるナポリの前に早々と敗退した。第2節では勝利こそ収めたもののチームとしてチグハグな動きが目立ち、とりあえず前線にボールを渡してネドヴェドやデルピエロの個人技で何とかしてもらおう、というユヴェントスらしからぬサッカーであった。

 だが、時間の経過と共に連携がうまくいくようになると、新ユーヴェはアイデンティティを確立。気がつくとマスコミからもファンからも疑問の声は聞かれなくなっていた。

 ユヴェントスが一新したのは戦力だけではない。フロントも総入れ替えとなり、年齢も大きく若返った。新社長ブランは前社長のジラウドより13歳年下だし、カルチョメルカートの帝王と言われたモッジの後をうけチーム作りの責任者となったセッコはまだ36歳だ。また、優勝請負人の肩書きを持つ大ベテラン監督、カペッロに比べたら新監督のデシャンはペイペイである。

 だが、それが今季の新生ユーヴェの強みになっているとセッコは言う。「カペッロは偉大な結果を残したけれど、親しみやすさには欠ける人物だった。監督がデシャンになったことで昨季よりも雰囲気が穏やかになり、かかるストレスが減っている」さらに新監督のデシャンについてはこう評する。「彼は石頭だけど(笑)、リッピと似たところがある。つまり選手との対話を大切にしているんだ」

 カペッロが鬼軍曹なのは有名で、そこに彼の“常勝監督”たる秘訣がある。しかし、全ては勝利を優先し人間関係作りは3の次の独裁政権だったゆえか、ユーヴェ内からもファンからもカペッロを惜しむ声は全く聞こえてこない。デルピエロに至っては「カペッロが残っていたら僕がユーヴェにとどまったかどうかは疑問」と発言したぐらいだから、内情推して知るべしだ。

 内容よりも結果を追求するカペッロよりデシャンのサッカーは面白い、というわけでもない。第一、ユヴェントスというチームが勝敗よりもスペクタクルを求めたことは一度もないし、それはファンとて同じだからだ。また、ゴール裏の熱狂的サポーターたちは、セリエBを理由にユーヴェから去った選手を懐かしむどころか“裏切り者”と見なし、特に昨シーズンまで彼らの“アイドル”だったカンナヴァーロに対しては憎さ100倍のヤジを飛ばしている。カンナヴァーロ、ザンブロッタ、テュラムはワールドカップを決勝まで戦った“後遺症”からか、今までのところ移籍先で本来の力を出しておらず、それを「いい気味だ」と思っているファンは少なくない。

 ユヴェントスはカルチョスキャンダルのペナルティによって最低でも2年間はチャンピオンズリーグへの出場権を失った。それだけで4400万ユーロの損失となるのだが、セリエBに落ちたことでスポンサー収入も35%減となり、文字通り家計は火の車となっている。だが悪いことばかりではない。今まで日の当たらない存在だったセリエBはユヴェントスのお陰で連日のようにTVや新聞で取り上げられ、サッカー界の活性化には貢献する結果となった。

 例えば10月は「デルピエロのユーヴェ通算200ゴールはいつ決まるか?」がインテルやミランと同じ扱いでマスコミを賑わし、その結果、対戦相手となったトレヴィゾやフロジノーネというマイナーチームにも全国的スポットライトが当たったのである。また、ミラン、フィオレンティーナ、ラツィオらスキャンダル対象チームがこぞってA残留となる中で唯一セリエBに落とされたことから同情票も買い、それがユーヴェのイメージを取り戻す手助けにもなっている。

 それに、赤字は大型バックボーンを持つユーヴェの死活問題ではない。パトロンであるフィアット・ファミリーの家長、ジョン・エルカンが「5年以内に再びスクデットとチャンピオンズリーグを狙えるチームに仕上げる」と語っていることから、彼が“ポケットマネー”を出す用意があるのは間違いないからだ。

sportiva present 詳細はコチラ≫
sportiva 本誌アンケート こちらから応募できます
S-men's.net(sportiva)webメンバー募集中! 会員特典多数!!
mobile sportiva モバイルサイトも更新中!URLをメールで送信>>>
contact us 読者係:03-3230-7755 編集部:03-3230-6058
年間定期購読 お申し込みオンラインサービス

Sportiva 本誌
定価580円 毎月25日発売
今月の特集

黄金世代
世界を驚かせた18人の今

  • 黄金世代は何をもたらしたのか?
  • 小野伸二
    「もう一度、アフリカのピッチで…」
  • 柳沢敦が語る“シンジと黄金世代”
    「伸二からのパスは
    スバ抜けて優しかった」
  • ワールドユース99選手名鑑
  • 高原直泰
    「不敗神話を持つエースの10年」
  • 小笠原満男
    「もう第3の男とは呼ばせない」
  • 遠藤保仁
    「オレらの世代が
    やらないといかんやろ」
  • 稲本潤一&中田浩二
    「オレが欧州で戦ってきた理由」
  • 黄金世代 最強伝説
    「伝説は94年に始まっていた」
  • ドキュメント・ワールドユース99
  • オレとワールドユース99
    播戸竜二、酒井友之、
    永井雄一郎、南雄太、
    加地亮、本山雅志
  • ワールドユース99
    アフリカ事件簿
  • あの黄金世代たちは今……
    榎本達也、石川竜也、
    高田保則、氏家英行
  • フィリップ・トルシエ
    「彼らは抜群の世代だった。
    “黄金”かどうかは別にして……」
  • 検証・世界の黄金世代
    「日本を破ったスペイン
    “黄金世代”は
    なぜ消えたのか!?」
  • 岡田ジャパンは本当に
    南アに行けるのか!?
  • 江夏豊の夢野球紀行
    「四国・九州アイランドリーグ編」
  • ストイコビッチを
    日本代表監督に!
    1.欧州ジャーナリストほかが語る
    「ピクシーの変身」
    2.識者が解剖
    「ピクシーの手腕」
    3.藤田俊哉
    「代表監督にはカリスマ性が必要だ」
    4.グランパス主力選手アンケート
  • クリスティアーノ・ロナウド大研究
  • 西川周作
    「北京でまた
    ひと回り大きくなりたい」
  • スラムダンク奨学金2期生
    谷口大智&早川ジミー
本誌冒頭記事紹介