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山田一仁●文・撮影 text&photo by Kazuhito Yamada

第77号(2007年9月7日)【イングランド】プレミアシップ、移籍の総括とシーズン序盤の展望

今季の移籍で話題をさらったのは、4強ではマンチェスター・ユナイテッド(マンU)とリバプール。マンUは昨季4年ぶりに王座に復帰。連続優勝を狙うのに足りない部分を補強するだけで十分ではないかと思われた。

しかし、蓋を開けてみると移籍に使った金額はマンUがトップの5100万ポンド(日本円で約120億円。1ポンド=233円で計算)。2位が5000万ポンド(約116億円)のリバプール。

プレミアに何が起こったのかを明確に説明できる背景がある。それは、プレミアが今後3年間の国内外のテレビ放映権料として170億ポンド(約4000億円)の契約を結んだことに起因している。

スペインリーグではレアル・マドリードとバルセロナの2強が、独自に放映権料を交渉できる。今季の移籍に費やした金額はそれぞれ、レアル・マドリードが8千万ポンド(約190億円)で欧州のトップ。バルセロナは5千万ポンド(約120億円)。この2チームは新たに放映権契約を結んだので、2008-2009シーズンからはおよそ1億ポンド(約230億円)の収益が毎シーズン期待できるのだ。したがってこの2強がスペインリーグで常に優勝争いを行なう構図が自然と理解できる。

一方、プレミアはリーグ全体で契約しているため、下位チームにもほぼ均等に契約金が分配される。ただし、総額が大きいので各クラブ5000万ポンド(約120億円)を受け取る勘定になる。

これが現実にどのような状況を引き起こすか。毎シーズン、下部リーグ(チャンピオンシップ)からプレミアに昇格したクラブは、昇格によって得られる金を当てにして選手を補強し、何とかプレミアに残ろうとするため、中堅のチーム並の金を移籍に投じる傾向にある。

今季、プレミアに昇格したサンダーランドは驚くことに3500万ポンド(約80億円)も投入。これを2003年に各クラブが移籍に費やした金額(冬と夏の両方の移籍期間を合わせた金額)と比較してみよう。

トップはチェルシーの1億1160万ポンド(約260億円)。これはアブラモビッチが2003年夏にチェルシーを買収したことで納得がいく。2位はマンUの2870万ポンド(約67億円)。つまり、今季の夏、サンダーランドが移籍に費やした金額は、2003年の冬と夏を合わせたマンUの金額よりも大きいのだ。

2003年には、2000万ポンド(約47億円)以上を使ったクラブは上記2チームのみ。2006年でも3チームしかなかった。それがこの夏、2000万ポンド以上使ったクラブは一気に12チームになった。

つまり、中堅クラブは、他国リーグの優勝争いをしているチーム並みの財政規模があるということになる。

今後プレミアのクラブが欧州の金持ちクラブの上位を独占することになるだろう。世界中から優秀な選手がプレミアに集まってくるのだ。世界最高峰の称号が、セリエAからスペインリーグへと移っていた流れは、いよいよプレミアへと動いていく。

今回の移籍で話題をさらったふたつ目のチームが、リバプール。クラブ新記録の移籍金でアトレティコ・マドリードのF・トーレス(スペイン代表/写真)を獲得。アヤックスからバベル(オランダ代表)、レバークーゼンからボロニン(ウクライナ代表)を獲得。イングランドのメディアも「今までではありえない現象だ」と伝えている。

これとは反対に、今まで大金を投じてきたチェルシーが倹約路線に変換。自由契約でアレックス(PSV)、ピザーロ(バイエルン)、ベンハイム(ボルトン)、サイドウェル(レディング)の4人を獲得。金を使ったのはマルダ(リヨン)とベレッチ(バルセロナ)だけ。モウリーニョ監督が「チェルシーが強いのは大金に物を言わせて選手を獲得するからではなく、強いチームを作ることができる監督の力があるから」ということを示すかのような補強だった。

アーセナルは、ベンゲルの「得意技」である“才能ある若手を獲得し、育てて30歳で手放す”手法を今年も披露。ブラジル生まれのエドゥアルド(ディナモ・ザグレブ)を750万ポンド(約17億円)で獲得。アンリをバルセロナに売って得た1600万ポンド(約37億円)以内の予算でディアラ(チェルシー)、ファビアンスキ(レギア・ワルシャワ)、サニャ(オセール)ら4人の選手を獲得した。

シーズン序盤の結果から4強の状況は以下のようになる。

  1. 昨季優勝争いをしたマンUとチェルシーの2強は、5試合を消化してすでに1敗。モウリーニョ曰く、「中堅チームも潤沢な資金で、よい選手を補強している。昨季とは違い、優勝することはより難しく、より多くのチームに優勝の可能性がある」
  2. 大金を投じて攻撃陣にナニ(スポルティング)、アンダーソン(ポルト)、テベス(ウエスト・ハム)を獲得したマンU。ファーガソン監督が長く探していたキーンの代役に、ハーグリーブス(バイエルン)も獲得。アーセナルのベンゲル監督はこの補強を「すごい選手を買い集めてもピッチには11人しかいられない」と皮肉った。攻守のバランスを考えると、守備の選手を獲得するべきだったかもしれない。
  3. リバプールは9月頭の試合でトーレス、バベル、ボローニンの移籍組が4得点し、今季昇格したダービーを6対0と葬った。移籍した選手が期待通りの活躍をして、いよいよタイトルレースに挑戦できるようになった。
  4. アンリが去ったアーセナルはファブレガスを中心とした若手の新しい時代に突入。ファブレガスは今季すでに4ゴールを決め、恐るべき才能を発揮するシーズンとなるだろう。

今季のタイトル争いは今まで以上に激戦が予想される。スタートでリバプールとアーセナルが一歩リード。マンUとチェルシーはどうなるか? 今シーズンも目が離せない。


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