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山田一仁●文・撮影 text&photo by Kazuhito Yamada

第76号(2007年8月7日)【イングランド】佳境の移籍市場〜プレミアシップ開幕

いよいよ開幕するプレミアシップ。トップ4強の補強の現状とチームとしてのバランスを考察してみよう。

<マンチェスター・ユナイテッド>

優勝したチームとは思えない大金を移籍市場に投じたのは驚きだ。ギグス、スコールズらのベテランの後継をにらんでポルトガルからアンダーソン(約43億円。19歳、ブラジル代表、ポルト)、ナニ(約35億円。20歳、ポルトガル代表、リスボン)を獲得。

また長期間に渡ってラブコールを送っていたハーグリーブスをバイエルンからついに獲得(約43億円)。守備的MF(ボランチ)の心配はなくなった。ナニは、クリスティアーノ・ロナウドと同じドリブルが得意のサイドアタッカー。私がポルトガル代表戦で見たナニの才能はロナウド以上かもしれない。ボールを持っている間は常に周りを見ていることが出来るドリブルには恐れ入った。

最後に獲得万全とクラブ側が確信していたテベス(写真/アルゼンチン代表、ウェスト・ハム)は、移籍金の受け取りの権利を主張するジョーラビッチャン(コリンチャンスからウェスト・ハムにテベスを移籍させた人物)とクラブの間で問題が発生。FIFAが調停に入ったものの、スポーツ仲裁裁判所に判断をゆだねた。移籍期間が終了する8月31日までに決定が下るはずだ。

中盤から前の選手の補強は十分過ぎるほど確保したマン・Uだが、バランス的には守備の選手に駒不足を感じる。

<チェルシー>

4強の中では最も早く補強するべき選手を獲得したといえる。ピサーロ(ペルー代表、バイエルン)、ベン・ハイム(イスラエル代表、ボルトン)、サイドウェル(レディング)。この3人を移籍金なしで獲得したのは、サッカー界全体が驚いたはずだ。しかも、獲得が終了したのは6月中旬。チェルシーの周到な準備とターゲットの絞り方に上手さを感じる。前者ふたりは、派手さこそないが玄人好みの選手といえる。

今までアブラモヴィッチの財源のおかげでチェルシーが大金を投じてきたのは事実だが、モウリーニョ体制で大物を獲得したのは、昨季のシェフチェンコとバラックのみ。しかも、このふたりはモウリーニョが自ら望んだ移籍ではなく、それぞれアブラモヴィッチ、アーネセン(スポーツ・ディレクター)の主導によるものだった。

今回の契約金なしの移籍は、モウリーニョ監督の「お金がなくても、よい選手は買える。私のチームが強いのは、アブラモヴィッチのお金のせいではない」というメッセージにも聞こえる。

さて、リヨンから左サイドのスペシャリスト、マルーダ(約34億円。06-07フランスリーグ最優秀選手)を獲得したことによって、ロッベンの未来が不透明になってきた。地元メディアはレアル・マドリードに移籍するのではと報じている。彼の活躍がチェルシーの躍進の原動力になってきたのは事実だが、昨季はピッチでプレイしている時間より、ケガでリハビリしている時間の方が長いという冗談も出ていた程。

アウェーのリヴァプール戦に負けた際、試合後モウリーニョ監督がシェフチェンコと目線も交わさず、握手もしなかったことからモウリーニョとシェフチェンコの関係が問題視されていたが、同じ試合で先発したロッベンも、調子が今一で途中交代。その際、モウリーニョ監督がロッベンも無視したことを私は見逃さなかった。すでにこの時点でモウリーニョの頭の中には、来季構想の中で調子の波があるロッベンに「?」マークが点滅し始めたに違いない。

問題となっていたオーナーのアブラモヴィッチとモウリーニョ監督の冷え切った関係は、プレシーズンツアー中の米国で直接会話を持ったことにより解消された。

<リヴァプール>

一番の目玉選手は、何と言ってもF・トーレス(23歳、スペイン代表、アトレティコ・マドリード)。移籍金はクラブ新記録の約66億円。いよいよベニテス監督がリーグタイトル獲得に本気モードになってきた。チャンピオンズリーグのバルセロナ戦でも活躍したベラミーをウェスト・ハムに放出。

この数年、毎年チームが代わるベラミー(28歳)はサッカー選手としての能力に魅力はあるものの、素行に問題があり、それがクラブとの関係に大きな問題を生み出している。一方、ウェスト・ハムからはベナユン(27歳、イスラエル代表)を獲得。線は細いが、試合を組み立てる能力に私は魅力を感じていた選手。一昨シーズン、FAカップ決勝進出の躍進は彼の功績が大きかった。

ベニテスはこれでも不満なのか、さらにFWをふたり獲得。ヴォロニン(28歳、ウクライナ代表、レヴァークーゼン)、バベル(20歳、約29億円。オランダ代表、アヤックス)を加え、マン・Uと同様攻撃力に偏った補強となっている。

<アーセナル>

バルセロナへ移籍したアンリ(29歳、約40億円)は、予想はされていたものの、実際に移籍してしまうと、クラブと選手への動揺はかなりのマグニチュードとなった。「選手の中には今後クラブがどうなっていくのか不安になっているものがいる」と昨季チェルシーから移籍してきたギャラスが吐露したほど。

が、ベンゲル監督はお金を掛けないで補強する天才。ディナモ・ザグレブからブラジル生まれでクロアチアに帰化したダ・シルバ(24歳)を獲得。この男、小柄だが昨季クロアチアリーグで32試合34ゴール。超一流FWは2試合で1ゴールのペース。いくらクロアチアリーグのレベルが高くはないと言っても、この数字は驚くべきもの。

私は、1年ほど前に直接インタビューしプレイも見た。身長は170cmちょっとと小柄だが、速くて上手いだけでなく、頭がいい。アーセナルで爆発する予感がする。

他には、GKの宝庫ポーランドのレギア・ワルシャワからGKファビアンスキー、右SBのサニャ(フランス代表、オセール)を獲得した。

アンリ以外では、リュングベリ(30歳、約8億円)がウェスト・ハムに移籍。アーセナルは30歳を越えた選手には単年契約しかオファーしないので、ベテラン選手はアーセナルに残って毎年契約更新するか、他クラブで複数年契約するかの決断に迫られる。

現時点では、アーセナルが小粒だが最もバランスのいい補強をしている。大金が飛び交っている移籍市場に「実勢価格以上のお金が飛び交って多くの選手を買いあさっているクラブがある。だが、ピッチには11人しかプレイできない」と嘆くベンゲルには、大金を投じないとチームの総合力をアップできない監督のフィロソフィーが理解できないのだろう。

 

例年、移籍市場で大金を投じてきたチェルシーの財布の口が堅く、アーセナルも同様。それに反して、マン・Uとリヴァプールは100億円以上が動いた。今シーズンの順位がこの移籍金につぎ込んだ額に応じたものになるか、監督のお手並み拝見といったところだ。


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