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山田一仁●文・撮影 text&photo by Kazuhito Yamada

第75号(2007年6月26日)イングランド代表、ユーロ本大会出場可能か?

今シーズン最後の公式戦。6月6日ユーロ2008予選のエストニア対イングランド戦の取材にエストニアの首都タリンに飛んだ。

アンドラ、フェロー諸島、サンマリノ、リヒテンシュタインといった小国はW杯やユーロの予選でサッカー大国に到底勝てる見込みはない。が、ホームでは引き分ける可能性があり、それが強国の上位争いに微妙に影響してくる。

エストニアは人口わずかに約140万人。サッカーの母国イングランドにとって勝って当然の試合。しかし、Eグループ4位に甘んじ、この試合に勝たないと予選敗退の現実味を帯びるイングランドは入場の際、キャプテンのテリー、ランパード、ジェラードらの主力選手がかなり神経質だった。

崖っぷちに立たされたとは、こんな時にぴったりの言葉だ。勝たなければならないというプレッシャーからか、選手の動きに溌剌さがない。この試合は、ドイツW杯後、新監督となったマクラレンに外されたベッカムが復帰して初めての公式戦でもある。そのため、イングランドの報道陣が多い。

私も、彼のプレイがどう影響するか見極めるため、ベッカムの右サイド側のゴールライン上でカメラを構えた。

前半、相手はベッカムのクロスを警戒して、早いプレッシャーをかけ、フリーでクロスをあげさせなかった。そのため攻撃は、灯台のようにそびえるクラウチめがけてボールを放り込むだけ。両サイドからえぐるような展開がないため、クラウチ頼みのボールを中央に入れるという攻撃に、バリエーションもなければ、驚きもない。

しかも、ツートップのボールをもらう動きがないため、2列目の選手が上がってくるスペースが前線に出来ない。ジョー・コールのゴールで1対0とリードしたものの、前半の内容はとても褒められるものではなかった。

後半相手が疲れてプレッシャーが弱くなり、ベッカムの正確なクロスから2点を追加したが、これがクロアチア、ロシア、イスラエル相手に通用するかは疑問。

この試合の結果、グループEでの順位は変わらずイングランドは4位。ユーロ2008本大会に出場するには2位までに入らなければならない。ここでイングランドの問題点を挙げてみよう。

【ベッカムの復帰は正しい選択か?】

ベッカムを起用することでFKから1点を計算できる。またサイドからのクロスの精度で追加点も期待できるだろう。しかし、相手がベッカム対策を取ってきた時、どういう結果が予想されるかを考えなければいけない。ベッカムは、FKやクロスの精度は天下一品だが、ボールを持っても相手に対峙されると抜いたり、突っかけたりは絶対にしない。2メートルの距離に相手が立てば、ベッカムはボールを横か後ろの味方にパスする。

それを知る相手は、ベッカムがボールを持つと必ずすぐにプレッシャーをかける。これを90分間やられた場合、ベッカムはただの人になってしまう。確実な1点とプラスアルファを計算できるか、あるいはボール回しの通過点になってしまうか。極論を言えば、オール・オア・ナッシング。野球に例えれば、ホームランか三振かのバッターのようなもの。

相手がベッカム対策を徹底した場合、右からの攻撃のオプションが限定されるリスクを負って彼を起用することになる。ウィング的プレイヤーを使って攻撃したい監督にとっては、ベッカムはそれほど 魅力的ではないだろう。

【ジェラードとランパードの両立は可能か?】

最近の試合で、ランパードのプレイはチェルシーのそれに比較して芳しくない。一方ジェラードも、リヴァプールでの溌剌としたプレイと比べると代表では居心地が悪そうだ。クラブでは中盤の中央を任されているが、代表では右や左のサイドを任されることが多かった。役割が大きく違うことが、彼のやりにくさの最大のポイントだろう。

このエストニア戦では、ふたりが中盤の中央を担い、右にベッカム、左にジョー・コール。ランパードはボールを左右に散らし、自分はその折り返しを狙ってゴールも決めるというスタイル。守備を担当するべき中盤は誰なのかがはっきりしないため、彼は思い切って上がることが出来ない。ジェラードもそれは同様で、クラブでもっと自由が与えられている時のダイナミックな動きが見られない。

これでは、イングランドで最もクリエイティブで攻撃的なミッドフィルダーを有効に使っていないことになる。私が監督なら、どちらかひとりに中盤のゲームメーカー役を任せ、残りのひとりはベンチ。オーケストラに指揮者はふたり必要ないのだ。

【守備的ミッドフィルダー、ボランチは必要か?】

これは、前述のジェラードとランパードの両立問題にも関わってくるポイント。W杯本大会でイングランドは期待される結果を出せなかったが、選手として最も評価が高かったハーグリーブスはボランチの選手。

中盤の守備を担い、ボールをさばき、深い位置から攻撃の起点となることを要求されるボランチは、中盤の攻撃的選手の守備的負担を減らし、ゲームメイクする選手が自由に動ける環境を生み出してくれる。

ドイツW杯決勝に残ったイタリア、フランスはそれぞれピルロ、マケレレというボランチが中盤を安定させていた。チャンピオンズリーグ決勝を戦ったミランとリヴァプールもピルロ、シャビ・ア ロンソ(またはマスケラーノ)がいた。

プレミアの優勝争いをしたマンチェスター・ユナイテッド(マン・U)、チェルシーを見てもキャリック、ミケルがボランチのポジションで活躍した。特にマン・Uはキャリックを獲得したことがロナウドの活躍と同様にリーグタイトルを奪取できた大きな要因だ。

世界のサッカーの流れは、このポジションに有能な選手を置いている。イングランド代表も、ここにハーグリーブスやキャリックを起用しないと、強豪相手では守備に問題が出てくるだろう。

ユーロ予選は残り5試合。そのうちホームの試合が4試合と有利な展開ではあるが、上位3チームとの対戦が4試合。その結果に引き分けが伴うと予選突破に黄信号が点滅する。特にヒディンク監督率いるロシアとの対戦がホームとアウェーの2試合残っているのが気になる。

最近のロシアの国際大会での成績は芳しくないが、韓国をW杯ベスト4、オーストラリアをベスト16に導いたヒディンク監督の能力は侮れない。イングランドがクロアチア、ロシア、イスラエルにひとつでも取りこぼしがあると、本大会の舞台に彼らはいないかも知れない。


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