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山田一仁●文・撮影 text&photo by Kazuhito Yamada
第69号(2006年12月28日)
プレミアは今や外国資本のターゲット

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 私にとって12月のビッグニュースは、マンチェスター・ユナイテッド(以下マン・U)がチェルシーに一時9ポイントも差をつけたことでもなければ、アーセナル、リヴァプールがじわりと上位グループに入ってきたことでもない。

 それは、ウェストハム監督アラン・パーデューの解任。
 
 ウェストハムは、プレミアに昇格した昨シーズンを9位で終えた。FAカップでは決勝に進出。ヨーロッパチャンピオンのリヴァプールを相手に延長の末3対3。PK戦で惜敗。UEFAカップ出場権獲得。しかし、今季は開幕数カ月の不調で降格圏から抜け出せない。11月にフィンランド人の富豪、マグヌソンがクラブを200億円以上で買収すると、パーデュー監督を応援。

 だが、クラブ買収から僅か3週間後に、パーデュー監督がクビにされてしまった。

 たしかに、最後の1カ月間の成績は6試合で1勝5敗。得点1、失点10。この成績ではクビになっても文句は言えない。何しろ、来季のTV放映権料の分配金は、プレミアに残るだけで、クラブに20億円以上入ってくるのだ。これは、チャンピオンズリーグで優勝するより大きな額。

 驚きに追い討ちをかけるように、昨シーズンでチャールトンの監督を辞任したカービッシュリー(写真)がウェストハムの新監督に就任。

 この監督交代劇で、アーセナルのベンゲル監督が警笛を鳴らした。曰く「イングランドの伝統は本来クラブのサポーターが、ビジネスで成功して大金持ちになり、自分のサポートしていたクラブを買うのが夢だったはず。今回のウェストハムのように、オーナーの意見ですぐに監督がクビになったりすると、お金儲けのためにサッカークラブを買う風潮になってしまう。それはイングランドのサッカーの伝統を壊してしまう」と。つまり、サッカーに情熱を持っている人がオーナーになるのは良いが、単に金儲けのためにクラブを買収するという風潮は歓迎できないというわけだ。

さらにベンゲルは、「アーセナルに200億円つぎ込めば、400億円になるかもしれないと思うような投資家が出てくると危険だ」と付け加えた。

 ベンゲルは、こうも言っている。「数百億円をクラブにつぎ込んで、それを失ってもいいと覚悟しているようなオーナーがいるならそれほど幸運なことはない(チェルシーのアブラモビッチのこと)」

 本来、アブラモビッチは石油で儲けたお金をロシアの税金に取られないように、サッカーに投資しながら英国の居住権を得て、資本をロシアから外国(英国)へ移動させることを狙っていたに違いない。だが、本当にサッカーそのものが好きになってしまった。VIP席にはほとんど毎試合顔を出している程、観戦には熱心だ。

 ベンゲルは、さらに「クラブの資金は入場料、TV放映権そしてスポンサーから成り立っている。だが、それ以外に自由に使ってもよい金をふんだんに持っているのは、今のところチェルシー(つまりアブラモビッチ)だけ。しかし、将来数チームがチェルシーと同じ財政力を持つようになれば、たちまち我々は対等に戦えなくなる」と訴えている。

 それは、自分たちが、現在の潮流に残されて勝てなくなるのを恐れていることの裏返しでもある。

 現在、2005年のヨーロッパチャンピオンのリヴァプールが、アラブ首長国連邦の首都ドバイの投資会社によって900億円以上で買収されようとしている。ベニテス監督は、この買収が成立すると、より高い戦力の補強に繋がると好意的に受け止めている。

 ベンゲルは、外国資本によるクラブ買収自体に問題を投げかけているのではなく、クラブを買収する動機が何であるかが問題だとしているのだ。

 お金儲けを第一に考えられては、商品のごとく監督や選手もすぐに交換されてしまう。理由は納得できるものだが、アーセナルのベンゲルが言うと、どうもマン・Uとアーセナルの2強時代が終わりを告げ、資金力にものを言わせて補強できるチェルシーとリヴァプールの2強時代がやってくることを認めたくないのだなと私は感じてしまう。マン・Uとアーセナルは、ファーガソンとベンゲルという名将を失うと同時に、常にチャンピオンを狙えるチームではなくなるだろう。なぜなら、彼らは資金力で作られたチームではなく、監督の手腕によって育てられたチームだからだ。

 一方、アブラモビッチのチェルシーとドバイ投資会社が買収した後のリヴァプールは、たとえモウリーニョ監督やベニテス監督が去った後も、資金の後ろ盾がある限り、モウリーニョ監督のように連覇は無理でも優勝争いをするチームでいられるだろう。

 ベンゲル監督は、金に物を言わせて選手を買ってくるというよりは、選手の才能を見出す力を信じ、選手を育てた結果、クラブがタイトルを手に入れるという図式に夢を描いているのだろう。レギュラーメンバーの中に占めるクラブのユース育ちの選手の数は、マン・Uやアーセナルが、チェルシーやリヴァプールに比べて多い。

 現時点で、既に外国資本の傘下に入っているクラブは、マン・U=グレイザー(アメリカ)、チェルシー=アブラモビッチ(ロシア)、ウェストハム=マグヌソン(フィンランド)、ポーツマス=マンダリッチ(セルビア系アメリカ)、アストン・ヴィラ=ラーナー(アメリカ)、フルハム=アル・ファイド(エジプト)の6チーム。

 リヴァプール以外にも、エヴァートンなどが外国資本のターゲットになっている。これらのクラブが全て買収されたりすると、プレミアのクラブの半数近くが外国資本の手に渡ることになるのだ。

 英国の自動車メーカーが全て外国の資本の傘下に入ってしまったように、サッカーの母国の強豪クラブが外国人に牛耳られてしまうのだろうか?
プロフィール
山田一仁

ロンドン在住のカメラマン。プレミアリーグだけでなく、ヨーロッパ各国リーグの取材も精力的にこなしている。年に何回もロンドンと日本を往復し、また、ロシアにも活動拠点を置くなど、その活動範囲は非常に広い。

website>>> http://homepage3.nifty.com/kazphoto/

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