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山田一仁●文・撮影 text&photo by Kazuhito Yamada
第60号(2006年4月13日)
アーセナルの快進撃は続くか?

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「俺、エマニュエル。アーセナルでプレイしているんだ。覚えておいて!」

 昨年9月、コート・ジボワール代表宿舎のホテルロビーでのこと。W杯予選の対カメルーン戦を取材するためコート・ジボワールにやってきた私は、顔の小さい気さくな黒人に話しかけられた。アーセナルにはよく取材に行くのだが、よほどの活躍をしない限りなかなか印象には残らない。プレミアでこんな選手はいたかな?と、思う程度でさほど気にもとめなかった。

 それから数カ月。12月初めのボルトン対アーセナル戦で、見覚えのある選手がいた。後半残り20分で交代出場。「エマニュエル?」アーセナルの選手というのは本当だった。

 そして、さらに数カ月後。名前を覚えておいてと、話しかけてきた選手は名前を覚えておきたい選手になっていた。3月初めのアーセナル対リヴァプール戦。エマニュエルは、右サイドバックで先発出場。彼の溌剌としたプレイに私は目を奪われた。しぶとく相手に絡みつくような守備。一旦ボールを持つと、相手に向かってドリブルする強心臓。知らぬうちにゴール前に上がり、チャンスに絡むポジショニング。興味が沸いてきた。

 本名エマニュエル・エブエ。コート・ジボワール代表。代表デビューは2004年の9月5日、W杯予選の対スーダン戦。昨シーズンのプレミアは交代出場1回のみ。今シーズン前半戦では、交代出場、リーグカップが主戦場。だが、年明けのアフリカ選手権で5試合に先発出場すると、2月にイングランドに戻ってきてすぐに、プレミアの7試合に先発。アーセナルの右サイドバックの座をもぎ取った。以前、彼が話しかけてきた時の印象があまりに気さくで愛くるしかったので「エマニュエル君」と呼んでしまいそうだが、もうそんな呼び方は出来ない。エブエと記憶することにした。

 現在のアーセナルのチャンピオンズリーグ(以下CL)躍進の原動力は、FWでキャプテンのアンリと中盤のファブレガス、そしてこのエブエだ。エブエは、偉大な右サイドバックになる階段を一歩一歩上りつつある。レギュラーを掴んだ今シーズン後半戦で、その可能性を我々に見せつつある。

 ファブレガスも、まだ18歳ながらアーセナルの攻撃のタクトを振っている。昨シーズン小柄に見えた体は、身長が伸びたのかクラブの公式記録では180cm。ユヴェントスとの1戦目は1得点1アシストで完全にチームの攻撃の柱となった。常に前を向いて、ゴールへの最短距離を狙うパスには、鋭さが増し、今やヴィエイラが抜けた穴を埋めるどころか、攻撃に関しては完全に上まわっている。この2年間のアーセナルでの活躍で、3月スペイン代表に初選出。CLの決勝に残れば、W杯本大会出場の可能性は大きくなるだろう。

 ファブレガスとエブエ。このふたりがW杯に出場すれば、大きなセンセーションとなるのを、私は信じて疑わない。今後の活躍を大いに注目したい若手選手だ。

 アーセナルの対ユヴェントス2戦目。この時、アーセナルはCLの新記録を作った。ミランが持っていた7試合連続無失点記録を塗り替え、8試合連続無失点の新記録だ。今までのアーセナルのCLでの弱点は、得点力はあってもそれを守りきる守備力の無さだった。前半に2得点しても、試合が終わってみると2対2の引き分け。そんな試合が多かった。

 しかし、左サイドバックのアシュリー・コールの怪我でフラミニをコンバート。ローレンの代わりに若手のエブエを投入。キャンベルの長期離脱のためセンデロスを代理で起用。この緊急事態の応急処置のつもりだったであろう配置が、気がついてみれば、CLで無失点新記録である。ユヴェントス戦の2戦目を見る限り、エブエ、トゥレ、センデロスそしてフラミニの4バックのラインコントロールは素晴らしかった。その活躍は、読者の記憶にも新しいと思う。ユヴェントスは、バックラインからのロングボールで、トレゼゲとイブラヒモヴィッチの頭に合わせるか、サイドチェンジでネドヴェドのサイド攻撃を狙ったが、ことごとくアーセナルのオフサイド・トラップに引っかかった。

 容易に予測できるロングボールとは言えども、今までのアーセナルならこれほどオフサイド・トラップを狙いにいけなかったはずだ。1対1に強いキャンベルがいなくなった代わりに、みんなで守るという意識が強くなったのだろう。試合後、対戦したユヴェントスのカンナヴァーロが、こう語っている。
「イングランドのチームとの戦い方は、この数年変化している。特にアウェーでの試合で彼らは数的優位を作って守る。以前より組織的な守備が格段に上手くなった」と。この言葉からアーセナルが強くなった原因を分析すると次のようなことが浮かび上がる。

 ひとつめ、イングランド人の選手がいないこと。

 例えば、イングランドの選手にありがちな、「とりあえず行ってみろ」的なタックル、つまり、ボールを奪える可能性が五分五分のタックルは、イングランドファンから見ると、「やるだけのことはやった」と、好印象に見える。しかし、守っている側から見ると、数的に相手と同じであっても、確実にボールを奪えるのではなく、五分五分のタックルに行ってしまっては、失敗した場合、数的不利になって失点の確率が高くなる。そういったイングランド的守備のマイナス点が無くなったのは、イングランド人選手のコールやキャンベルがいなくなったからではないのだろうか。

 ユヴェントス戦(2戦目)のアーセナル先発は、GK:レーマン(ドイツ)、DF:エブエ、トゥレ(コート・ジボワール)、センデロス(スイス)、フラミニ(フランス)、MF:フレブ(ベラルーシ)、リュングベリ(スウェーデン)、ジウベルト(ブラジル)、ファブレガスとレジェス(スペイン)、FW:アンリ(フランス)。交代出場したのはピレスとディアビ(フランス)。

 この通りCLベスト4進出を決めた時、ピッチ上にはイングランド人選手はただのひとりもいなかったのだ。イングランド人がいないという状態は、アーセナルに限ったことではない。イングランド人が全くのゼロではないにしろ僅かしかいないという状態は、上位のチェルシーやリヴァプールにもいえる。チェルシーは、通常テリー、ランパードとコールの3人。ライト・フィリップスが加わって最大4人。リヴァプールは、昨シーズン、ジェラードとキャラガーの2人。今シーズン加入のクラウチとファウラーが加わって最大4人。

 イングランドのファンたちにとって、チームにイングランド人が少なくなっているこの現状は寂しいものかもしれない。しかし、チームが結果を残せば満足。CL初のベスト4進出を決めて、アーセナルファンにとっては、外国人問題は大きなものではなくなった。

 そしてふたつめ、若手外国人選手の急成長。

 先述のエブエ、ファブレガスに加え、センデロス、フレブ、ファン・ペルシ、アリアディエールらが、試合に使われたことで、年明けから大きく伸びた。これらの若手選手の急成長は、イングランドのメディアも認めている。守備の中心トゥレが、欧州の最も優れたDFのひとりに成長してきたのも大きな強みだろう。

 三つめ、奮起するモチベーション。

 忘れてはならないのが、今シーズン、アーセナルがCL以外のタイトルの望みが無いという追い詰められた状況にあることだ。過去4シーズンに渡り、アーセナルはプレミアかFAカップのタイトルを取り続けてきた。イングランドでは勝てるという甘さが、CLでの良い成績に繋がらなかったのかもしれない。崖っぷちに立たされた今、選手が奮起するモチベーションが生まれたのだろう。プロの選手にモチベーションが重要なことは、シーズン終盤、降格争いをしているチームが、優勝争いをしているチームを食ってしまうことでもわかる。

 さて、準決勝の相手は、ビジャレアル。私は、アーセナルが決勝まで進むと思う。実力はもちろんだが、アーセナルファンにはそう信じるに値するジンクスがある。98-99のCLを制したマン・Uも、昨シーズンのチャンピオン、リヴァプールも、トーナメントステージでユヴェントスを破った。今度は、アーセナルの番だ。そして、その後は……。CLからますます目が離せない。
プロフィール
山田一仁

ロンドン在住のカメラマン。プレミアリーグだけでなく、ヨーロッパ各国リーグの取材も精力的にこなしている。年に何回もロンドンと日本を往復し、また、ロシアにも活動拠点を置くなど、その活動範囲は非常に広い。

website>>> http://homepage3.nifty.com/kazphoto/

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