フォート・キシモト●撮影 photo by PHOTO KISHIMOTO
第98号(2008年3月27日)【フィギュアスケート】2010年へ明るい兆し〜世界フィギュアスケート選手権総括
3月18日からの世界フィギュアスケート選手権。注目の女子フリーはドラマチックな展開になった。
前日のショートプログラム(SP)でトップに立ったのは、公式練習からスピード感があり、気迫もこもった滑りをしていたヨーロッパ選手権連覇中のカロリーナ・コストナー(イタリア)だった。ジャンプの小さなミスはあったが、ヨーロッパ開催の追い風もあってシーズンベストの64.28点を獲得。
それに続き、今季のSPでは最初の3回転+3回転の失敗を意識し過ぎて苦しんでいた浅田真央が、トリプルルッツのミスだけに抑えて0.18点差で続いた。
だが、GPファイナル優勝の金妍兒(韓国)は、「最初のジャンプを跳んだ時に腰に痛みがでた」影響で次のジャンプで転倒し、59.85点の5位とで遅れたのだ。そして3位には、完璧な演技をしながらも3回転+2回転しか持っていない中野友加里が61.10点で入った。
むかえたフリー最終グループ。
優勝を争う選手の中で最初に登場したのはコストナーだった。前回の世界選手権では、SP3位につけながらもフリーで失敗して6位に沈んだ選手。プレッシャーに弱い面もあるが、今回の自信溢れる表情は脅威を感じさせていた。
だが、優勝を狙う緊張感からか2つ目のジャンプ、トリプルルッツで手をつくと、次のトリプルフィリップも着地で乱れ、中盤の連続ジャンプでもミスを連発と崩れた。それでも得点は以外に伸び、自己ベストを上回る120.40点。総合でトップに立った。
続く金妍兒は、持ち味のノビノビとした滑りを披露したが、後半には練習不足の影響もでたのかトリプルルッツが1回転になるなどのミスが。それでも技術の正確さで加点をもらって123.38点を出すも、合計ではコストナーに僅かに届かず2位につけるだけで終わった。
そして浅田真央の登場だった。
コストナーの出来を見れば、「無難に滑ればトップに立てる」というのが大方の見方だった。だがいきなりショックが襲った。
「普通にやってたつもりだけど、ちょっと跳び急いだのかもしれない」
という最初のトリプルアクセルを、踏み切る直前にスリップして転倒したのだ。目の前で見ていた審判も全員が、口を抑えて声を挙げるアクシデント。これで浅田の優勝はなくなったと思えた。
だが、「びっくりしたけど、その後は次のジャンプをしっかり跳ぼうとだけ考えていました」という浅田は逆に力みが取れ、次の3回転+3回転を完璧に決めて波に乗った。その後、課題のルッツの踏み切るエッジミスと連続ジャンプの3回転ループが回転不足になる減点はあったが、芸術点で全選手中トップの60.57点を出し、フリーの得点は金に次ぐ2位に。合計点ではコストナーを0.88点上回ってトップに立ったのだ。
最後の中野が完璧に近い滑りをして観客席を沸かせたが、トリプルアクセルの回転不足と、3回転+3回転がない弱みで得点が伸びなくてメダルには届かず。結局、浅田の本人も驚く初優勝が決まったのだ。
浅田にとってこの大会は、ライバル・金妍兒の腰痛という追い風はあった。だがそれ以上に彼女も苦しい状況を抱えての大会だった。
2月中旬の四大陸選手権後に左足を捻挫して2週間氷上練習ができなかった。さらに、06年から指導を受けているラファエル・アルトゥニアン・コーチからは、「日本にまでは行く余裕がないから」と指導を断られた。急遽日本連盟に要請してコーチにはついてもらったが、実質的にはひとりで調整する、コーチ不在での世界選手権挑戦だった。それに加えてのフリーでのアクシデントを考えれば、彼女のこの優勝は精神面での大きな成長を証明するものでもある。
シニア初登場の05〜06年シーズンにはいきなりGPファイナルを制しながらも、06年3月の世界ジュニアで金妍兒に敗れて以来、世界大会ではミスがでて優勝に後一歩届かない状態が続いていた。
「GPファイナルの時は、あれがどのくらい大きな試合かもわからず、ただ嬉しいだけでした。でも今回は、一番大きな大会で勝てたという達成感があります」
こういう彼女にとって、狙って優勝できたということは大きい。今後は金の他、アメリカジュニア勢の台頭も気になるところだが、この自信を糧にすることで2010年バンクーバー五輪へ向けても、頭ひとつ抜け出したといえるだろう。
今季彼女がテーマとした“大人っぽさ”も、「これからは自然に出てくると思います」と口にする。その意味でもこれからこそが、フィギュアスケーター浅田真央の真骨頂を発揮するはずの時になる。
一方男子の高橋大輔はSP3位ながら、上位は4回転ジャンプを持たないジェフリー・バトル(カナダ)と、昨年の世界選手権、GPファイナルで勝利しているジョニー・ウィアー(アメリカ)という、優勝を狙うには絶好の位置につけた。だが、勝利を意識する緊張感と、体調を完全には合わせられなかった影響で、最初の4回転トーループこそ成功させたがそこからはミスを連発。挙げ句には連続ジャンプを規定回数以上跳んでしまってジャンプがひとつ0点になったことも重なり、フリーは6位に沈み総合順位も4位に。自滅でせっかくのチャンスを逃してしまった。
だが、来年の枠取りという面で日本チームを救ったのが、初出場の19歳・小塚崇彦だった。フリー最初の3回転+3回転が3回転+1回転になるとすかざす、次のトリプルアクセルに3回転をつけて挽回。終盤にジャンプで2度転倒したが、溌剌とした演技で総合8位に食い込む健闘を見せた。
08年世界選手権の出場枠は、上位2名の順位合計が13以内なら3枠確保になる。前回7位になって日本3枠獲得の原動力となった織田信成が代表選考会を欠場して、危機とも思えた。だがそれを小塚が救ったことで、女子だけでなく男子も、来年の世界選手権だけでなく、10年バンクーバー五輪へ向けての明るい見通しが立ってきたといえる。







