三船貴光/フォートキシモト●撮影 photo by Takamitsu Mifune/PHOTO KISHIMOTO
第97号(2008年3月10日)【スピードスケート】見せつけられた世界の進化〜世界距離別選手権
「朝起きた時は普通だったけど、リンクへ入ったらプレッシャーがドッとかかってきて。そのせいか1本目にはしくじってしまったので、『危ないな!』と思ったんです」
3月6日から長野市のエムウェーブで開催されたスピードスケート世界距離別選手権。大会2日目、男子500m1本目で35秒25の5位に止まった加藤 条治は、2本目に35秒07で滑って総合3位に滑り込んだ。地元開催の世界選手権で、唯一メダルを期待される種目。最低限の結果を残せたことを、安堵する表情で素直に喜んでいた。
「アウトスタートの1本目は、第2カーブの入り口でちょっとビビッてしまったこともあってバンク(スケートを内側に傾ける角度)が足りなかったから、遠心力で外側に膨らんでしまったんです。だから、カーブの半分はぜんぜん漕げなくて、直線へ出てから漕ぎだしたんです。それでタイムが遅くなったと思 いますね」
インスタートだった2本目は今季好調な李奎●(火へんに赤をふたつ並べる)(イ・ギュヒョク/韓国)と同走。100mの通過タイムも競り合って9秒61にあげ、バックストレートでは若干のリードも築いていた。だが、第2カーブで、1本目の反省から体を倒しすぎてしまい、内側によろけて手をついてしまうミス。それを最小限に止めて35秒07にまとめたのだ。
それで3位に入れたとはいえ、加藤には満足できる結果ではない。今季のシーズン開幕戦だった昨年10月の全日本距離別では、このエムウェーブで34秒台のタイムを出していたからだ。
「スタートからの加速は、今季の中でも良くなっていて、第1カーブも良かった。だが、第2カーブのバランスはまだ悪いですね。インツェル(ドイツ)のW杯で優勝した時も完璧ではなかったし。アウトスタートで最後の小さなカーブをうまく回れたのは、12月末の全日本スプリントくらいですね」 と、日本電算三協の今村俊明監督は言う。
加藤は昨年、夏場には単独でアメリカへわたり、アメリカナショナルチームと一緒に練習を積んできた。10月の全日本スプリントでは、「まだぜんぜん完成されていない」というスケーティングながらも34秒台を出し、精神的にも逞しくなったことを感じさせた。W杯開幕戦で股関節を痛めてしまい、序盤はうまく流れに乗れなかったが、最後の2月になって本来の力を取り戻しつつあった。
だが、まだ完璧ではない滑りと、地元開催という力みがミスを誘発したのだ。それでも、今季500mのランキング3位のドミトリー・ロブコフ(ロシア)や、李康●(夾の人を百に)(イ・ガンソク/韓国)などが本来の力を出せなかったという運の強さは持って生まれたものだともいえる。
男子500mは今季、大きな変動を見せた。1年間休養していたジェレミー・ウォザースプーン(カナダ)が復帰し、W杯開幕戦のソルトレークシティで、これまでの世界記録を0秒17更新する34秒03の世界記録を樹立したのだ。それも、休養期間中のトレーニングで、腰高だったフォームは一変して日本選手のように低くなり、不得手だったスタートからの100mも克服して、日本選手並みの9秒6で通過するようになった。そうなれば体の大きさを活かせる後半も彼の独壇場になる。まさに、ひとりだけ図抜けた存在になってしまったのだ。
それに加え、韓国勢が大躍進。ベテランでかつては1500mのスペシャリストだった李奎●(火へんに赤をふたつ並べる)(イ・ギュヒョク/韓国)が500mでも速くなり、文俊(ムン・ジュン)も躍進。ロシアのロブコフも安定感を増し、フィンランドのミカ・ポウタラも上位に顔を出すようになり、2位以下は大混戦状態。
その世界の躍進に日本は取り残されそうな危機を迎えていたのだ。そんなときに加藤が結果を出してくれたのは大きなことである。
今村監督は言う。
「尻に火をつけられたような状況だが、これが五輪の2年前だったのは幸いだと思います。もしこれが五輪シーズンだったら、手をこまねいているままで独走を許したと思いますが、これからウォザースプーンを目標に追いかけていく時間的な余裕もありますから」
また、これまで世界のトップにいた女子500mでも、この大会ではW杯ランキング1位のジェニー・ウルフ(ドイツ)がひとりだけ37秒台を揃えて圧勝。それに肉薄したのは王北星のみで、3位以下は2本合計で1秒以上の差をつけられるような状態。1本目で3位につけた吉井小百合が、何とか5位を確保するに止まっただけだ。
さらに500m以外は、世界との差をまざまざと見せつけられる結果になった。98年長野五輪シーズンにスラップスケートが一般的になってから10年。世界の選手たちは、スラップで持っているパワーを存分に発揮できる技術を身につけてきた。それに対して、体格やパワーで劣っている日本選手は、劣勢になっているのは否めない。何か新しい技術なる、思考方を見つけていくことが、スピードスケート日本復活の急務ともいえる。8年ぶりに日本で開催された世界距離別選手権は、世界の進化を見せつけられる大会になった。







