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松瀬学●文 text by Manabu Matsuse
井田新輔●撮影 photo by Sinsuke Ida

第96号(2008年1月16日)【ラグビー】早大V奪回。切ない関東不祥事、寂しいシーズン〜大学ラグビー回顧

大学シーズンが終わる。

ライバルの関東学院大の不在の中、早稲田が磐石の強さで王座に返り咲いた。

『経験値』

これがどの学生チームと比べても完全に抜きん出ていた。

他校はほとんど技術不足、戦術希薄……。ワールドカップ(W杯)シーズンというのに、総じて寂しい大学ラグビーだった。

1月12日、土曜日。冷たい雨と強風に見舞われた決勝戦。早稲田×慶応。凍ったノーサイドの笛が鳴ると、アカクロの選手たちが雄たけびをあげる。FB五郎丸歩は背番号15から芝生に転倒した。

泣く。クールなオトコが思い切り泣く。勝利の部歌、『荒ぶる』の熱唱でも涙と鼻水のカクテルを味わうのだった。

シャワーを浴び、ブレザー姿の五郎丸は左足を引きずりながら出てきた。試合中、またも左ひざのじん帯を痛めていた。

「1月13日に敗れてから、スタートしたチームだったので・。すべては“荒ぶる”のためでした。相手は違うけど、やっぱり優勝できたことがうれしかった。うれしいというより、ホッとしたほうが強いですか」

1月13日とは昨年の決勝である。下馬評では圧倒的有利と言われながら、関東学院大に屈した。屈辱だった。

だからだろう、この1年、必死で鍛錬に励んできた。主将の権丈太郎とともにチームの先頭に立つ。ルーキーのSO山中亮平(大阪・東海大仰星高)らを時には激励し、時には叱咤した。

「昨年の負けは僕らの代の大きな財産でした。勝つことの大事さ、負けたら何も残らない、という恐怖心を下級生にも伝えたかった……」

五郎丸は昨年11月23日の早慶戦で左手の甲を骨折する。でもケガをおして、グラウンドに立ち続けた。やがて、まとまりが悪いといわれてきた四年生が結束する。

決戦前日のミーティングのあと、試合用バックを開けると試合に出られない四年生の寄せ書きがあった。

<ワセダの15番はオマエしかいない>

「感動した」と言う。やはり聞いておきたい。関東学院大の試合辞退の影響は。

「もちろんカントーを倒して優勝したいというのはありました。でも僕らの目標は“打倒!カントー”ではない。“荒ぶる”です。だから、ぶれないチームができました」

「50−0で勝つチーム」を作ってきた、と中竹竜二監督は豪語した。昨年の敗戦を糧に骨太のチームを築き上げてきた。

まずは1対1から、ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)、ディフェンスにこだわる。パワー勝負のモールを武器とし、試合中、苦しくなれば、モールに戻るのだった。

派手さはない。でも愚直なスタイルは崩れることはなかった。ゲームコントロール、マネジメントの習熟でも他校を圧倒した。中竹監督らしく、シブい光を放つ優勝だった。

「どんな不測の事態が起きても、負ける気はしませんでした。ことしを象徴する決勝戦だったと思います」

慶応とは点差以上の力量差があった。低いタックルを受けても、早稲田はボールを生かしてから倒れた。寝転んでばかりの黒黄ジャージに対し、アカクロは瞬時に立ち上がっていた。ひとことで言えば、『プレーの厳しさ』が違ったのだ。

それが『経験値』か。メンタル、フィジカル、技術、ひとつひとつの積み重ねである。

シーズンを振り返れば、ベスト4の明大、帝京大もゲームマネジメント能力に欠けていた。躍進の東海大も勝負どころでは淡白に映った。結局は早稲田が勝つべくして勝ったのだ。早稲田が強いというより、他校がだらしなさすぎたのではないか。

早明戦(71−7)などワンサイドゲームがやたら目立った。しかもパワー勝負のフィジカルゲームが主流とあって、面白味にかけるところがあったのだ。

さらに戦力の不均衡化もつづく。『東高西低』の構図も色濃くなる。ここは、ひたむきな強化と、ラグビーの質向上を願うしかない。

個人的に気になるのは、やはり不祥事で出場辞退の関東学院大のことである。決勝戦翌日、監督責任をとって辞任した春口廣さんの自宅を訪ねた。

決勝戦はテレビで見たそうだ。10年連続で決勝を戦っていたから、実に11年ぶりのテレビ観戦だった。心中を問う。

「学生たちを最後まで戦わせることができなかった無力感というか、むなしさというか……。子どもたちの夢がさ、(不祥事で)ポッと消えてしまった」

やがて自粛が解け、ラグビー部は春から活動を再開する見通しだ。入学予定者で辞退する高校生も出ている。どん底からの再生は易くはなかろう。ここは残された部員がひとつになるしかないのだ。

新たなスタッフはまだ決まっていない。確かに『春口色』は薄れる。でも春口さんは教授なのだから、陰から再生を支援してもいいじゃないの。

帰り際、春口さんは切ない笑みを浮かべた。

「本当は中竹くんに“おめでとう”と言いたいけれど、言える立場にないからなあ。ちゃんとお祝いが言えるよう、ラグビーを語ることができるよう、がんばります」

早稲田は来年も強いだろう。他校の奮起と、関東学院大の再生。それが大学ラグビー活性化の条件である。


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