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向風見也●文 text by Fumiya Mukai
井田新輔●撮影 photo by Shinsuke Ida

第91号(2007年11月29日)【ラグビー】磨きをかけた精神力とお家芸で挑む!〜早大に立ち向かう明大ラグビー部

まさに“アルティメット・クラッシュ”だった。

2007年11月23日、秋晴れの勤労感謝の日。入場者数24207人の秩父宮ラグビー場で行なわれた伝統の早慶戦は、40対0で早大の完勝に終わった。

雑然とした会見場。元ラガーマンのなかでは細身、理論派で鳴らす林雅人・慶大監督が「選手がホントに元気なくて……。残念です」と唇を噛む一方、同じくスリムな印象の中竹竜二・早大監督は「点差以上に満足だったと思います」と、試合を淡々と振り返った。早大は、この試合のマッチスローガンを清宮克幸前監督が打ち出したキーワードの“アルティメット・クラッシュ”とし、すべての局面で相手を圧倒する戦いが宣言どおりできたというのだ。中8日で行なわれる早明戦に向けて弾みをつける格好となった。

一方11月18日。明大ラグビー部は、早明戦前最後の公式戦となる筑波大戦を戦っていた。新宿から電車とバスを乗り継いで約1時間半という立地の熊谷ラグビー場に、入場者数は1800人。

試合は27対24で明大が勝利した。 1試合に1本がノルマの“ST(スクラムトライの略、明大昨年度主将・日和佐豊が命名)”を前半で2本決める内容、自慢の“重戦車FW”の仕上がりは上々だった。

この勝利は明大にとって、あるいはラグビーファンにとって大事な記録となる。慶大戦に引き分けていたために久々の全勝とは行かないが、13年ぶりの“無敗対決”として、伝統の早明戦が見られるからだ。

「選手たちはここまでよく集中を切らさず、無敗で戦えました」

就任2年目となる藤田剛・明大HCはこう言って、早慶の監督とは対照的な恰幅の良い上半身をゆすった。

今季の明大はどこよりも早かった。前年度の大学選手権2回戦、大阪体育大戦に敗れた2日後の2006年12月27日から新チームを始動させた。結果、通常は春先から取り組むような試合形式の練習も、今年の明治は2、3月ごろから行なうことができた。藤田は言う。

「他の強豪校は緊迫感のなかでゲームをしている。その間、我々が休んでしまったら、またその分遅れちゃうじゃないかと。あとは選手の顔を見たらすごくラグビーをやりたそうな顔をしていた。選手はすぐに納得しましたよ」

まだ寒さの残る3月。藤田は昨季の課題だった精神面の強化を果たすべく、突出も落伍も厳禁の空間での特別合宿を企てた。陸上自衛隊習志野駐屯地の訓練の参加である。

「昨季は試合に飲まれてしまうところがあった。集団生活のなかで究極に追い込まれたとき、人間がどうやって対応するかがキーですから、団体生活の中で、ひとりのミスが全部隊を全滅させるっていう危機感を経験させてあげないといかん、と」

効果は絶大だった。後日、当時のことを藤田に問えば、髭の生えた口角はふふふっと緩む。

「そりゃ、夜中の3時、4時にたたき起こされて行進なんてさせられたから、もう二度と行きたくないって言う奴もいましたよ」

結果、春の練習試合では強豪相手に軒並み善戦した。昨季日本一の関東学院大には24対12で快勝し(5月27日)、早大には敗れたものの17対21と善戦したのだった(6月3日)。

今季のチームは精神面だけでなく、技術、戦術面でも昨季よりもワンランク上に到達したと、藤田は考えている。

今季はスローガンを“圧倒と結集”とした。「色んなことを言い過ぎると混乱してしまうから」(藤田)と、昨季は迷走を続けていたチームに “原点回帰”、“前へ”と最低限のことを言うにとどめたが、今年は個人で“圧倒”してからチームが“結集”して攻めるという、昨季の応用ともとれる指針を打ち出せたのである。上野隆太主将も公式HPでチャームポイントと記す眉毛を動かさずに、「先輩たちには悪い言い方になってしまうけど、去年の土台があって今があるという感じです」と言うのだ。

肝となるスクラムも進化した。「1年目はただまっすぐ押せ!と言うだけだった」(藤田)が、今季は相手との駆け引き、ボールへのアクションなど、多様な技術を涵養(かんよう)させたという。藤田の現役時代と同じHOというポジションを担う上野はこう説明する。

「藤田さんからは色々教わりました。たとえば、フッキングのときの身体のひねり。相手の1番(左PR)に首を入れられないように身体を(右側に)ひねっているんです。あとは、相手ボールのときにはウチの1番が(ボールの軌道に)プレッシャーをかけて、飛び出してくるNO8をウチのFLがつぶしやすくするとか……」

昨季の早明戦では、敵陣ゴール前で得たペナルティーでスクラムを選択しない場面があったが、今季は「状況にもよりますが、取れるところは全部STを狙いたいと思います!」と上野は一言。「僕らは入学してから早稲田に勝ってない。早稲田に対しての意識は高いです。優勝……今はその言葉がずっと頭に回っている状態です」。目標の“対抗戦・大学選手権優勝”のためにも、早稲田は越えなければならないハードルなのだ。

藤田はこう言葉を結ぶ。

「昨季は試合ごとにはらはらさせられたけど、今季は余力があるというか、安定した力が出せている。セットプレーが安定し、ゲームのなかの要所を掴んでいるのかな……。今日の点差が、そのまま早明戦の勝負の差になると思います」

一方、ここまで隙のない戦いを見せている早大だが、FW第1列のふたりは故障上がりである。慶大戦では顕在化することもなかったが、「(スクラムは)今の3人が合わせる時間が無くて……」(権丈太郎・早大主将)と、発展途上である事情を匂わせた。

――早明戦はFW勝負!

これは両軍の創意だ。その結果は12月2日の国立競技場で明らかとなる。

ちなみに筑波大戦は明大にとって、前半を20対0と圧倒しながら、後半突如ペースを崩して7対24という内容だった。端的に言えば“辛勝”である。しかし藤田は「僕はナンも言うてません。選手が一番気付いているでしょうから」と、ただ目を細めていた。

そういえば以前、こうも言っていた。

「ボクがああしろこうしろと言うだけではただのロボットになってしまう。(選手には)まず『自分たちで考えろ』って言ってます」

多分、これこそ藤田が「ナンも言わない」理由なのだ。そしてこの言葉には、ラグビー自体の魅力が全て収められている。


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