Special Contents OTHER

折山淑美●文 text by Toshimi Oriyama
フォート・キシモト●撮影 photo by PHOTO KISHOMOTO

第89号(2007年11月20日)【陸上】野口みずき、日本最強の走りで優勝〜東京国際女子マラソン

曇りという天気予報を覆す、秋晴れの下で行なわれた11月18日の東京国際女子マラソン。現日本記録保持者・野口みずきと、前日本記録保持者・渋井陽子のハイレベルな戦いが期待されたレースは、野口が強さと、まだまだ進化する姿を見せつけるレースとなった。

向かい風となった前半は、スピードランナー対決にもかかわらず、予想外のスローペース。中間点通過は1時間11分18秒と、冷たい雨の中のレースだった昨年の土佐礼子と高橋尚子の通過タイムに32秒遅れるもの。北京五輪代表を確実にする、99年に山口衛里が出した大会記録2時間22分12秒の更新は難しいかと思えるタイムだった。

「本当は前半からガンガン行こうと思ったけど、向かい風だったので慎重に行こうと思いました。五輪の切符もかかっていたし、みんな調子がいいというから、正直不安もありました」

という野口。調整は順調でハードな練習を積んできた自信はあるとはいえ、心の中には2年ぶりのマラソンへの不安もあってか、走りが若干小さくなっていた。強敵と意識する渋井もリズムに乗り切れないような面も見えたが、前半は淡々と走っていた。

だが、追い風になった折り返しからは彼女の本領を発揮し始めた。日本陸連の高野進強化部長が「前半は省エネで走っていて、後半はギアを入れ換えて走り方を変えていました。すばらしいレースだったと思います」と言うように、大きな走りに変わった。しかも、かつてとは違って、上下動がない滑らかな走りになっていた。

ケニアのサリナ・コスゲイが前に出て、15kmから20kmで17分13秒に落ち込んでいたペースを16分49秒に上げた。だが野口は29km過ぎに、1km3分20数秒だったラップを一気に3分10秒台に上げて渋井を突き放したのだ。渋井も練習はこれまで以上に積めていたが、1週間前に雨中で練習して以来風邪気味になっていたというが、本人が「惨敗です」というように力負けだった。

「30kmまでには仕掛けようと思っていたから、あの辺で仕掛けないとヤバイと思って。自分の体の感覚だったけど、何かが『出ろ!』といって降りてきた感じですね(笑)」

野口はそのまま1km3分10秒台のペースを維持すると、36km過ぎにはコスゲイも突き放して、軽快に四谷見附の坂も上りきった。標高差が25mある35kmから40kmまでの区間タイムは16分56秒。男子なら2時間15〜16分くらいの選手並みの走力だ。そしてラスト2.195kmは、これまでの自己ベストである03年大阪国際女子マラソン(2時間21分18秒で優勝)の7分16秒を上回る、7分13秒でカバー。中間点以降は前半より52秒も速いタイムで走りきり、2時間21分37秒の大会新でゴールしたのだ。

日本陸連の河野匡男子マラソン強化部長は「中国の昆明の40km走を2時間22分で走っている野口は今、2時間18分で走る力は持っている。僕は東京でも、条件さえよければ日本記録(2時間19分12秒)を破ると思っていましたよ」と言うのだ。そこまでいかないにしても、後半の走りを見る限り、もし前半に向かい風が吹かなければ、2時間20分前後の記録は確実に出せたと思える。まさに野口はこのレースで、日本最強を証明したといえる。

レース後の記者会見で陸連の沢木啓祐専務理事は野口の走りをこう評価した。

「前半はスローペースでいって、後半は追い風に乗ってペースアップするというレースだったが、今日の野口は見えないライバルに対して戦いを挑んでいたのではないかと思いました。彼女の力強さと切れ味は、完璧なレースに近づいていると思います。北京でライバルと戦うための課題は今のところないでしょうね。あとはケガ、故障をしないことだけです」

この評価を考えても、野口の北京五輪代表は確実だといえる。

「トレーニングを通して、明らかに以前の私とは別の私になっているかなと思います。だんだんマラソンに対する気持ちも、練習に対する気持ちも変わってきているので……。年齢は関係ないのではないかと思います」

と野口は、さらなる進化の可能性を口にする。スピード化する世界のライバルに対しても何ひとつ臆することなく、五輪連覇を狙う構えに、アテネ五輪以上の頼もしさを感じる。

世界選手権の銅メダル獲得で土佐が代表内定になり、残り2枠を争う五輪レース。もし野口と渋井が東京で2時間21分台の秒差の争いをしてワンツーフィニッシュをすれば、他の有力選手は来年1月の大阪で2時間19分台を狙うしかなくなると思えた。だがここで渋井が脱落したことで、残る選手の狙い方は変わってくる。注目の高橋尚子は、大阪で好記録を出さなくても、3月の名古屋で印象的な勝ち方をすれば代表に選ばれるという目が出てきた。これは彼女にとって、大阪で記録を狙うよりは楽な展開になる。

だが、大阪に初マラソンの福士加代子が出場して好記録を出してしまえば、将来性や北京での戦いの可能性を加味されるだろう福士が有利になる。また、アテネ五輪代表の坂本直子も、大阪での一発勝負を狙っている。

実績と経験が豊富なベテラン・高橋になるのか、スパートの切れ味が魅力の中堅・坂本か。はたまたハーフマラソンの日本記録を持つスピード娘・福士になるのか。残り1枠を争う戦いは、ますます白熱してきそうだ。


sportiva present 詳細はコチラ≫
sportiva 本誌アンケート こちらから応募できます
S-men's.net(sportiva)webメンバー募集中! 会員特典多数!!
mobile sportiva モバイルサイトも更新中!URLをメールで送信>>>
contact us 読者係:03-3230-7755 編集部:03-3230-6058
年間定期購読 お申し込みオンラインサービス

Sportiva 本誌
定価580円 毎月25日発売
今月の特集

黄金世代
世界を驚かせた18人の今

  • 黄金世代は何をもたらしたのか?
  • 小野伸二
    「もう一度、アフリカのピッチで…」
  • 柳沢敦が語る“シンジと黄金世代”
    「伸二からのパスは
    スバ抜けて優しかった」
  • ワールドユース99選手名鑑
  • 高原直泰
    「不敗神話を持つエースの10年」
  • 小笠原満男
    「もう第3の男とは呼ばせない」
  • 遠藤保仁
    「オレらの世代が
    やらないといかんやろ」
  • 稲本潤一&中田浩二
    「オレが欧州で戦ってきた理由」
  • 黄金世代 最強伝説
    「伝説は94年に始まっていた」
  • ドキュメント・ワールドユース99
  • オレとワールドユース99
    播戸竜二、酒井友之、
    永井雄一郎、南雄太、
    加地亮、本山雅志
  • ワールドユース99
    アフリカ事件簿
  • あの黄金世代たちは今……
    榎本達也、石川竜也、
    高田保則、氏家英行
  • フィリップ・トルシエ
    「彼らは抜群の世代だった。
    “黄金”かどうかは別にして……」
  • 検証・世界の黄金世代
    「日本を破ったスペイン
    “黄金世代”は
    なぜ消えたのか!?」
  • 岡田ジャパンは本当に
    南アに行けるのか!?
  • 江夏豊の夢野球紀行
    「四国・九州アイランドリーグ編」
  • ストイコビッチを
    日本代表監督に!
    1.欧州ジャーナリストほかが語る
    「ピクシーの変身」
    2.識者が解剖
    「ピクシーの手腕」
    3.藤田俊哉
    「代表監督にはカリスマ性が必要だ」
    4.グランパス主力選手アンケート
  • クリスティアーノ・ロナウド大研究
  • 西川周作
    「北京でまた
    ひと回り大きくなりたい」
  • スラムダンク奨学金2期生
    谷口大智&早川ジミー
本誌冒頭記事紹介