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田崎健太●文・写真
text&photo by Kenta Tazaki

第85号(2007年9月11日)【ハンドボール】日本代表、五輪出場権を逃す〜アジアの現状

9月1日から6日まで、愛知県豊田市でハンドボール男子の北京五輪アジア予選が行なわれていた。日本ハンドボール協会が、AHF(アジアハンドボール連盟)に、日本での大会開催を強く働きかけた理由がある。

ハンドボールは、激しいボディコンタクトがあり、同じボールゲームであるサッカーと比べると、どのプレイをファールとするかは審判によって判断の幅がある。いわゆる“中東の笛”がハンドボールの日本代表を悩ませてきた。

95年10月、クウェートでのアトランタ五輪予選は、中でもひどい判定が相次いだことで知られている。監督だった蒲生晴明監督の選手への指示が「抗議」と判定されて、イエローカードが出そうになったほどだった。

02年、イランでの世界選手権予選では、韓国とサウジアラビアの対戦で得点操作が行なわれ、得失点差で日本は決勝進出を阻まれた。

06年、タイでの世界選手権予選。この大会では、クウェートが徹底的にアジア最強国である韓国戦、そして日本戦の試合の笛を操作した。大会を運営していたタイのハンドボール副会長に僕はそのことを問いただした。おかしな審判が相次いだことを彼は認めたが、何ら処置をとらなかった。

中立と思われたタイで行なわれた大会でさえ、不可思議な笛が吹かれたことで、日本で開催するしかないと、日本ハンドボール協会は考えたのだ。

今回、豊田市で行なわれたアジア予選参加国のうち、力が抜け出していたのは、日本、韓国、クウェートの3カ国。この中から五輪出場権を得ることができるのはただひとつだけだった。

この3つの国が対戦する試合が、最も重要だったはずだった。今回の大会では、IHFからドイツ人の審判がふたり派遣されていた。ところが、疑惑の渦中にいるクウェートの初戦、韓国との試合で笛を吹いたのは、クウェートと同じ西アジアのヨルダン人審判だった。試合はクウェート寄りの笛が続き、ペットボトルが投げ込まれる騒ぎとなった。

続く、クウェート対日本の試合で起用されたのは、またもや西アジアのイラン人審判だった。イラン人審判は巧妙に試合をコントロールし、クウェートを勝ちに導いた。日本と韓国の試合では、IHFが派遣したドイツ人審判が起用されたが、すでにクウェートは五輪出場を決めていた。

アジアのハンドボールの置かれた現状を聞いたあるサッカー協会の幹部は「サッカー界の2、30年前と同じですね」と同情したという。

日本のサッカーもメキシコ五輪からアトランタ五輪までアジア予選を勝ち抜くことができなかった。その最大要因は力不足である。しかし、それだけでなく審判を夜の饗応でもてなしたという噂が絶えなかった。

その状況が変化したのは、もちろんJリーグが始まったことであった。日本のサッカーには資金が流れ込み、レベルが上がった。また、FIFA(国際サッカー連盟)会長のジョアン・アベランジェが日本を中心にアジアを重視しはじめた。不可解な笛は、自然淘汰されていったのだ。


一方、ハンドボールはというと――

AHFの本部はクウェートに置かれている。会長はクウェートのシェイク・アマード。

シェイク・アマードの父親のファハドはアジアスポーツ界で名前を知られる存在だった。石油が産み出す資金を後ろ盾に、OCA(アジアオリンピック評議会)とAFC(アジアサッカー連盟)会長を兼任していた。ファハドは、90年8月のイラクのクウェート侵攻によって戦死。息子のシェイク・アマードが父の後を継ぐことになった。彼は、AHF会長の他、IOCの委員を務めるなど、アジアスポーツ界で強い影響力を持っている。

日本とは不思議な縁もある。

94年5月、FIFA副会長選挙に立候補し、韓国の鄭夢準に敗れたこともあった。ちなみにこの時、日本サッカー協会から村田忠男が立候補し、2票しか取れず落選した。この時、日本が立候補を回避し、シェイクの応援に回っていれば、鄭の当選は消え、2002年W杯は日本単独開催となっていたと言われている。

サッカーにおけるFIFAのように、世界のハンドボール界を統括しているのが、IHF(国際ハンドボール連盟)という組織である。会長はエジプトのハッサン・ムスタファ。エジプトは国民の90%以上をイスラム教徒が占めており、宗教的に西アジアと近い。シェイク・アマードの率いるAHFはムスタファ会長の強力な支持基盤のひとつである。

FIFAの会長だったアベランジェがアジア、特に日本の市場を意識したのは理由がある。

電通の子会社であるISLが早くから、日本企業をとりまとめ、W杯などのスポンサーとなっていた。日本でサッカーはマイナースポーツであった時代から、日本企業はFIFAの屋台骨を支えていたのだ。ところが、IHFと日本企業との接触はほとんどない。

つまり、FIFAと違って、IHFは日本など東アジアの国々をサポートする必然性はない。

もちろん−−。

今回の大会で、日本は公平な笛の元で韓国に敗れた。1枠である、アジアの代表となる力が日本にはなかった事は間違いない。ただ、公平な条件で戦えないという無形の心理的なプレッシャーが、これまで何度も選手を押しつぶしてきたのも事実である。

この状態がこのまま続けば、日本が五輪出場権を得る可能性はかなり低い。今回のクウェートの試合の件でIHFに抗議文書を送る韓国、中国などと東アジアハンドボール連盟を立ち上げ、西アジアと東アジアの代表を中立国で試合開催させるなどの措置も考えなければならないかもしれない。

ハンドボール日本代表の多くは社員選手である。金銭的にも環境面でも、他のスポーツと比べて恵まれているとはいえない。五輪に出場したとしても、大きな報酬を得られるわけでもない。

それでも彼らは、家族、仕事など、様々なものを犠牲にして、ハンドボールという競技に身を捧げてきた。それは、もっと大きな舞台で試合をしたいというアスリートの本能が彼らを突き動かしてきたからだろう。その心を踏みにじる人間たちを許してはならないと、僕は思うのだ。


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