第83号(2007年7月25日)【ラグビー】地獄の合宿で結束強化。W杯戦士固まる
いわば『地獄の合宿』だった。
夏の北海道。ワールドカップ(W杯)フランス大会を目指す日本代表候補44人が、中標津に集結した。摩周湖のそばに位置する温泉地で、実は大型WTB遠藤幸佑の出身地でもある。
そこでジョン・カーワンヘッドコーチ率いる「JKジャパン」の国内選考最終合宿が組まれた。7月16日から一週間。テーマが「フィジカルとメンタルのフィットネス強化」「チームワーク強化」、そして選手選考である。
「ウエルカム・トゥ・ヘル」
JKは合宿初日の朝、ホテル2階のミーティングルームでそう真顔でのたまった。「ようこそ、地獄へ」だ。「ここで体力の限界に挑戦してもらう。人生でもっともつらい一週間になるだろう」と。
理由はある。春の強化シリーズ、パシフィックネーションズ杯を通し、ジャパンは相手がどんな強豪であれ、前半は互角の勝負を展開した。でも後半の立ち上がりや終盤15分、勝負どころで連続トライを許す。その原因は「プレッシャー下での体力、チームワークが不足しているからだ」と分析したのだった。
練習は、町の郊外にある新設の中標津運動公園で始まった。曇り空、気温が14度。寒い。風が冷たい。午前、午後の2部練習である。スタッフはJKほか、グラント・ドゥーリー、クリス・ギブス、マーティン・ヒューメら外国人ばかりである。「ゴー、ゴー」「ナイス・ボーイズ」「キープ・ランニング」。米国の高校アメフト部の練習のごとく、軍隊調の英語が飛び交う。
選手は休みなく走る。タックルダミーにぶつかる。また走る、走る、走る。練習のベースには「チームワーク」が置かれている。例えば、約300kgの大型タイヤを数人のチームで転がしていく競争などがメニューに入る。
一日の練習が終わると、ほとんどの選手がフラフラである。足の筋肉がパンパンに膨れている。ただ顔には充実感があふれる。ロック、大野均(東芝)は漏らす。「きつい。東芝の合宿を含め、今までやってきたなかでもトップクラスのきつさです。でもやるしかない。体力をつけないといけないし、まずは競争に勝ち抜かなければいけないですから」
合宿4日目の午後は中標津町に隣接する観光地「開陽台」に遠征した。地平線を360度見渡せる高台である。そばの放牧地では牛が草を食み、遠くにはオホーツク海がみえる。
むろんジャパンに観光をする余裕はない。頂上の展望台に続く斜面を登り、111段の階段を5度、駆け上がった。約300mの坂道ダッシュは変化に富む。選手を乗せた担架を8人で運んだり、目隠しをした選手の手をチームメイトが引っ張って走ったり。どこぞの企業研修のごとき、である。
最後は一本の長い綱引きのロープを全員で握りながら、500mを「わっしょい、わっしょい」と駆け上がった。頂上のゴールを切ると、JKは日本語で叫んだのだ。無慈悲に。「もうイッカイ〜!」。選手があ然とする。「ワールドカップ、もうイッカイぃ〜」。
アゲインである。そう言われると、やらないわけにはいかない。選手は顔をゆがめながら過酷な綱引きダッシュを繰り返す。ゴールを切ると、さらに上の「幸せの鐘」のところまで全員で駆け上り、「やったぁ〜」とばかりに鐘を鳴らした。
「カアァ〜ン」「カアァ〜〜ン」「ガァキ〜ン」
JKは笑う。「ラストの10分、15分。ワールドカップでは土壇場で力を出せるかどうかが勝負となる。疲れたとき、もうワンステップ上を目指す精神力、周りを助けるチームワークが必要となるのだ」
ところで合宿中、けが人は別メニューでリハビリにつとめた。主将のナンバー8・箕内拓郎(NEC)もそのひとりだ。「きついリハビリの一週間でした。元気なみんながうらやましかった。そばから見て、チームが間違いなく、成長しているのがわかった。相当フィットネスは上がったのではないですか」と総括する。
右アキレス腱断裂の大けがから復帰した大畑大介(神戸製鋼)もリハビリ組だった。「みんなと一緒にいることに少し幸せを感じます。でもつらい部分もある。ゲームに戻れて初めて現場復帰なので、僕の中では全然、復帰した感じではありません」。回復度は8割程度か。メンバー発表を経て、8月10日のジャパン×アジアバーバリアンズの壮行試合で試合復帰を目指している。「もし(代表入りが)あかんかったら、アジアバーバリアンズにでます」とおどけるのだった。
7月23日。フランスに派遣するW杯メンバー36人が発表された。登録メンバー30人は壮行試合の直後に決定する。エース大畑もメンバーに入った。当然である。
さあ準備は整った。JKは言う。「これからどうチームを構築していくか。プレッシャーの下、いかにいいプレイをするかだ。W杯で勝つ自信はもちろん、ある」と。
時間は限られている。チームプレイのコミュニケーション、精度をどう高めていくか。W杯開幕まで、たった1カ月半である。






