米岡伸剛/フォートキシモト●撮影 photo by Nobutake Yoneoka/PHOTO KISHIMOTO
第82号(2007年7月4日)【陸上】35歳、朝原宣治vs新鋭・塚原直貴〜日本選手権100m
35歳のベテラン・朝原宣治(写真左から2番目)と22歳の若手・塚原直貴(写真右から1番目)。日本最速を決めるふたりの戦いは、ベテラン・朝原宣治の自滅で終わった。
「予選、準決勝、決勝とどう走っていこうか考えすぎましたね。日本選手権は優勝したいという気持ちが強かったですから」
朝原はこう言って苦笑する。過去5回優勝している彼も、休養した昨年を含めて4年間タイトルから遠ざかっていた。だが今年は5月20日の関西実業団の予選で10秒15をマークし、世界陸上のA標準記録を突破していた。末續慎吾の欠場で、彼の次ぎに持ちタイムがいいのは10秒23の塚原となったレース。実績から見ても復活した朝原はダントツの優勝候補だと見られていたのだ。
大会2日目の予選は、ともに余裕を持って流し10秒37で1位通過。翌日の準決勝はふたりとも硬さも見えて予選ほど余裕はみえないものの、1組の朝原は10秒42、2組の塚原は10秒44のトップ通過で決勝へ進出した。
大会最終種目となった決勝、朝原はスタートで飛び出したものの、いつもなら伸びるはずの中盤から後半にかけての伸びが鈍い。他選手は徐々に離すものの、1レーン開けた塚原とは並走。走りがガタガタしてきたラスト10m過ぎには突き放されてしまってゴール。向かい風0・3mの条件下で塚原10秒34、朝原10秒39という決着がついた。
「準決勝までは抑えていって決勝で爆発させようと思っていたけど、それができませんでしたね。抑えることで逆に体力を消耗してしまったのか、決勝では力が残っていなかったから、前半のスピードを維持するしかない状態でした。流す時はスカッと流さなければいけないんだけど、今回は中途半端でダラダラしてましたね。十分練習を積んでいたのだから、準決勝でもっと力を出しておいた方が、決勝では体も切れたと思いますね」
勝つために、決勝までのレースを丁寧に組み立てようとした朝原の心の中には、自分の35歳という年齢が引っかかっていたのだろう。自分の体力を過小評価してしまったのがこのレースの敗因だ。
一方、塚原はフライングが一度あって再スタートになった準決勝を乗り切ったことが勝利につながった。
「フライングがあった時、全日本インカレを思い出して一瞬ヒヤッとしましたよ(笑)」
こう話す彼は100m1本に絞り、ダントツの優勝候補として臨んだ6月8日の全日本インカレ予選で、フライング失格をした。その嫌な流れをチームも引きずったのか、主将として優勝を狙った翌日の4×100mリレーでは、3走までダントツのトップでいながら4走にバトンが渡らないというミスで自滅している。そのインカレと同じような状況になりながらも、そこを乗り越えたことで嫌な思い出も振り切れた。
「あの時ひとりで落ち込んでいたら、先輩の伊東広治さん(100m日本記録保持者)に、『リスクのあるスタートをしてるんなら、そのくらいは覚悟しておけ』と言われたんです。それで本当に救われましたね」
だがそれだけではない、塚原は前日の200mでも末續慎吾、高平慎士に次ぐ3位になり、世界選手権代表を手元に引き寄せていたのだ。その安堵感も加わって、100m決勝では朝原と勝負する気持ちになれていた。
「4回目の対戦でやっと偉大な存在である朝原さんに勝てました。初対決は04年の日本選手権の予選で、朝原さんが10秒09で走り、僕は10秒54で全然ダメだったんです(笑)」
昨年、インカレでは高平に抑えられてタイトルを取れなかったが、末續や朝原、高平が不在だった日本選手権100mで初優勝。日本短距離チームのルーキーとしてW杯やアジア大会の4×100mリレーの1走を務めた。だが今年は100mと200m両種目で世界陸上代表に選ばれ、スプリンターとしての自信を持って本番に挑めるまでに成長したのだ。
だが朝原も、この敗戦で自信を失った訳ではない。休養明けの今季は、5月の10秒15だけでなく4月の織田記念でも追い風2・2mで10秒18をマークして、ここ一番の速さを見せている。今大会に関しては自分自身の体力への不安を感じながら臨んだが、この後の全日本合宿で末續たちと一緒に走り込んでいけば、その自信は回復してくるはずだ。
そしてそれは「個人種目では厳しいと思うけど、リレーではメダルを狙いたいですね」と彼自身も口にする夢につながっていく。
その安心材料は塚原のひとりだちや朝原の復活だけでなく、200mで2位になった高平の復調にもある。今シーズン出だしの彼は、スタートで力を使いすぎて後半が伸びないレースを繰り返していた。だが、この日本選手権になってやっと、持ち前のスムーズな加速を取り戻し、A標準突破を果す20秒52で2位に。先頃まで沈んでいた表情にも、やっと明るさを取り戻したのだ。
この結果、7月2日の世界陸上代表発表では、4×100mリレー要因はこの4人に加え、今季急成長して200mで4位に食い込んだ神山友也(作新学院大)が入った。とはいえ、本番のオーダーは1走が塚原で、2走はエースの末續。3走は高平で、加速走では抜群の強さを誇る朝原がアンカーとなるのが濃厚だ。末續は以前こう言っていた。
「前の3人で、余裕を持って走れるようにバトンを渡して、ここまで日本の短距離を引っ張ってきてくれた朝原さんにメダルをプレゼントしたいですね」
シーズンインの時期には不安を感じさせた夢のメダルも、この日本選手権を終えてグイッと近づいて来たようだ。彼らはきっと、地元開催の世界陸上を集大成にするという朝原に、「もう1年やってみようかな〜ッ」と言わせるような結果を出してくれるに違いない。







