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松瀬学●取材・文 text by Manabu Matsuse
井田新輔、アフロ●写真 photo by Shinsuke Ida,AFLO

第80号(2007年5月31日)【ラグビー】カーワンジャパン『灼熱の試練』〜パシフィック・ネーションズカップ

「ビリーブ!」

ラグビー日本代表をどん底から引き上げるニュージーランドの英雄、ジョン・カーワン(JK)ヘッドコーチはそう、口にする。選手に、ファンに、メディアに、ワールドカップ(W杯)の勝利を信じろと。

ほんとにJKを信じていいのか。ずっとジャパンを見てきた気弱なライターとして、簡単に「そうだ」とは言えない。まずは強豪相手の勝利をみたい。ジャパンの成長の跡を示す結果をみたいのだ。

ということで、自腹を切って、とお〜い南太平洋のフィジー諸島共和国にやってきた。人口約80万人、うちラグビー人口が約8万人もいる。たぶん、ラグビー人口比率では「世界一」だろう。GDPは貧しくても、国技のラグビーは強いのだった。

パシフィック・ネーションズカップの初戦である。9月に開幕するW杯フランス大会1次リーグでも対戦するフィジーゆえ、世界との距離を測る上でも、W杯ロードの航海ぶりをみる上でも絶好の機会となる。相手は約20人の欧州勢を欠く若手主体のチーム、ここは是非とも勝っておきたい試合だった。

あつい。とてもあつい。しかも湿度が高く、蒸し暑い。ヒナタにでると、じりじりと頭がやける。やはり、ここは熱帯なのだ。試合前日の練習をのぞくと、グラウンドの隅には焦げたヤシの実が転がっていた。

練習後、「暑さ」や「アウエー」の厳しさを問えば、JKは笑い飛ばした。「ノー・エクスキューズ(言い訳にはならない)。条件は相手も一緒だ」と。

5月26日午後1時。炎天下、ラウトカの競技場でキックオフとなった。前半、風上のジャパンはよく戦った。とくにブレイクダウンでは固まりとなってしつこくファイトする。はた目にはフィジーが淡白に映るのだった。とくに主将のナンバー8箕内拓郎、フランカー佐々木隆道、ロックのトンプソン、木曽一の奮戦ぶりには胸が熱くなる。

前半18分。相手ボールのスクラムをワンプッシュし、反則を得、タッチへ。ラインアウトからのモールをぐりぐり押し込んで左隅にトンプソンが押さえた。36分は、ラインアウトからオープン展開し、ラックをつくり、FB立川剛士がサイドに飛び込んだ。

ディフェンスも悪くない。「ファイア〜」と掛け声を合わせ、早い出足で相手の攻撃の芽を摘んだ。フィジーが南天の夜空の星の数ほどミスを犯したこともあるが、「攻守でのはやい動き」「世界一のスピード」、これぞJKジャパンの目指すラグビーの片鱗だった。15−3で折り返す。

風下の後半、流れが変わる。必死のフィジーのプレッシャーが強まる。JKは言った。「エラーが痛かった。後半の最初の10分余で3つの大きなエラーがあった」と。

ひとつ目は、相手ボールのキックオフ直後、木曽がファンブルし、ゴール前のピンチを招いた。そりゃ、木曽のミスだろうけれど、周りの戻り、対応が遅い。窮地がつづく。

ふたつ目が、SO安藤栄次のミスキックである。自陣ゴール前で反則を得て、タッチキックで逃げようとした。が、距離が足りず、ラインに届かなかった。ワンバウンドのボールを相手に捕球され、爆走、また爆走。ふっと息を抜いたのか、ジャパンは古いココナツみたいに固まったままだった。タックルに動けず、最後はFBラワンガにトライされた。

あわれ安藤。「あれは僕の完全なキックミスです。風下の戦い方ができなかった。もっと手前で確実に出せばよかった」。総じて安藤のゲームコントロールはよかっただけに、このひとつのミスが悔やまれる。

そして3つ目が、カウンターへのタックルミスである。FB立川のハイパントへのキックチェースが甘く、まるで無人の地を飛ぶがごとく、フィジーに好きなようにつながれてしまった。このトライで15−18。

ああ残念、無念である。ジャパンの後半の入りの悪さはどうしたことか。ミスそのものより、周囲の反応の鈍さが深刻である。立川はうめく。「なぜか傷口が広がってしまう」

結局15−30の逆転負けだ。ジャパンは後半、ノートライに終わった。しかも後半途中で箕内が左足首のねんざで退場するアクシデントもあった。箕内退場後、ゲームキャプテンを務めたロック大野均は悔やんだ。「後半、ふわっとした感じで入ってしまった。あっという感じでトライをとられた。集中力が切れてしまったのかな」と。

課題はみえた。とくに試合運び、ゲームマネジメントのまずさである。やはりJKジャパンは強くなっているけれど、まだすべてがうまくいってナンボである。脆いのだ。

JKはポジティブだった。「本当は勝てる試合を落とした。それを実感できたのが収穫だ。つまり実力を出せば、フィジーは勝てる相手だということだ」。すごいロジックである。

じつは試合のロッカー室にはJKが好む『武士道』の7つの徳目が壁に張られた。「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」。南国と武士道。是非はともかく、日本スタイルとは、まずサムライ魂にあり、ということだろう。「サムライたれ」か。

大野は言った。「勇気はつねにある。でも忠義が足りなかったのかな」と。忠義とは何のために生きるのか、である。つまりジャパンは何のためにプレイするのか、だ。

むろんW杯勝利のため、そして明日の日本ラグビーのため、である。

灼熱の試練はつづくのだ。


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