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折山淑美●取材・文 text by Toshimi Oriyama
藤田孝夫●撮影 photo by Takao Fujita

第78号(2007年5月8日)【柔道】鈴木桂治 頂点への思い〜世界選手権、そして五輪へ

4月29日の全日本柔道選手権、鈴木桂治は一度命拾いをした。3回戦の対戦相手は、100kg級で20歳の石井慧とともに桂治の次を狙う穴井隆将(22歳)だった。初対戦だった4月8日の全日本選抜体重別選手権では、開始2分3秒に払い腰で一本勝ちしていた。

だが、今回は「初対戦だった体重別はガムシャラにやったが、今回はしっかり対策を立ててきた」という穴井に苦しんだ。「技の攻防戦になるかと思ったけど、前半は攻めて来なかったので戸惑ってしまって」

こう言う桂治は、ラスト30秒になって攻めてきた穴井に背負い投げで崩された。だが旗判定は2対1で桂治に。彼自身も「あれは負けてましたね」と苦笑するほどの際どい判定だった。

斉藤仁男子ヘッドコーチは「あれで何か吹っ切れたのかなと思いますね。そこからはドンドン動いて、自分の力を出し切っていましたから」と言う。

04年全日本選手権で優勝しながら、アテネ五輪は100kg超級の代表になった桂治は金メダルを獲得しても心がスッキリと晴れたわけではなかった。しかし翌年の世界選手権は100kg級の代表になって優勝。「やっと自分の階級で世界一になれた」という満足感を得た。

しかし、それが逆にその後の目標を見失う要因にもなった。昨年はケガにも苦しみ、全日本では大学の後輩・石井慧に敗れて準優勝に終わった。「それで、一緒にサーフィンなんかをしていた高校時代の友だちから本当に怒られて。もう一緒に遊ばないと引導を渡されたんです」

8カ月ぶりの公式戦となった今年3月のドイツ国際での敗戦が、柔道中心の生活を始めていた彼を、さらに燃え上がらせた。それが体重別選手権4年ぶりの制覇につながったのだ。彼の表情は久しぶりに輝いていた。

だが、全日本選手権はプレッシャーもあった。彼自身の心の中には「全日本を獲って、世界へ」という強い気持ちがあったからだ。

緒戦の大藤尚哉戦は小外刈りで一本勝ちしたものの、試合開始そうそうは捨て身の攻めに圧倒されててこずった。その動揺が、対穴井戦の、相手を警戒しすぎた柔道につながってしまったのだ。

4回戦の相手は体重別100kg超級優勝の高井洋平。ここでも開始そうそうに攻められたが、それで完全に火がついた。140kgの巨体で圧力を掛けてくる高井から、2分6秒に小外掛けで、3分23秒には小内刈りで有効を取り、危なげない勝利を上げたのだ。そして準決勝では片渕慎弥を、開始28秒に組み際の小内刈り1本で仕留めた。

「高井には、大内刈りに入られても倒されないとわかっていたので、上半身に意識を集中させて下をポンとやるしかないと思って、足技中心の試合をしたんです。それが僕のスタイルですからね。片渕には以前一度一本負けをしてるんで、こういう舞台で借りを返そうと思って」

決勝は昨年と同じ石井との対戦になったが、雪辱を意識するようなこともなく冷静だった。互いに決定的な技を出せないままの試合でも、昨年とは違い「俺が勝つ!」という気持ちは強かった。その気持ちが旗判定3対0の勝利につながった。2年ぶり3回目の全日本制覇だった。

「去年の負けを引きずってはいませんでしたね。自分自身、去年の自分とは別人で、今年からまた新たなスタートだと思っていましたから。この優勝は『去年の1年間が無駄じゃなかった』ということを確認できた点ではうれしかったですね。でも、1回目や2回目の優勝に比べるとなんか落ち着いて、勝ったことを冷静に受け止めています。ここは満足するところじゃないし、世界選手権や北京五輪というのがしっかりと見えてるので。柔道では、日本一強い男が世界一でないのは許されないですから。その意志を持って戦い、金メダルを1個ずつ増やしていきたい」

05年の世界選手権は、井上康生という存在に頭を押さえつけられ続けた鬱憤を晴らすための戦いであり、「俺は100kg級の選手だ」と大声で宣言するための戦いだった。だが、前回王者として臨む今回は違う。本当に素直な気持ちで、自分の階級の世界一を目指す戦いができるのだ。その準備を彼は、全日本選手権制覇という結果で万全にした。


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