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折山淑美●取材・文・撮影 text&photo by Toshimi Oriyama
第72号(2007年1月17日)
“大ベテラン”越が牽引する日本スケルトン界〜W杯長野大会

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「外国選手も『この(長野)大会は素晴らしい』言ってくれるのは、日本の草分けとしてスケルトンをやってきた僕にとっても嬉しいことだし、その中で男子は、稲田勝が3位になって表彰台に上がり、僕もかろうじて6位入賞して見に来てくれた人たちと喜びを共有できたことも…。マァできれば、僕が稲田より上にいきたかったんですけどね(笑)」

 1月13日、6シーズンぶりに長野市のスパイラルで行われたスケルトンW杯。表彰式に臨んだ越和宏は安堵の表情を浮かべていた。

 昨年12月で42歳になった越は今季、W杯開幕戦からの3戦は24位、15位、17位と不満足な成績に終わっていた。トリノ五輪を終えて現役続行を決意した彼にとって、2010年バンクーバー五輪は1シーズン1シーズンを乗り越えた先にあるものだ。常に追い詰められた状況での戦いを強いられている。それでも現役を続けるのは、まだやり残したことがあり、進化できる自分を信じるからだ。

 トリノ五輪の2本目、滑りではミスをしたがスタートの走りではその手応えをつかんでいた。「トリノ五輪前から取り組んでいる片手押しのスタートも、ずっと模索していたというか……。やらなきゃいけないスタイルはわかっているんですけど、理論とそれを実際にやる自分の体のバランスが悪かったんですね。でもそれも徐々に、理論に近い動きが自分の中ででき始めてきていますから。だから今季は、結果はともかく全体的には五輪シーズンよりいい感じなんですね。まだ後半戦もあるし。自分の調子の良さを、どこかで結果として表現したいなと思ってるんです」

 その成果はW杯が行われた各コースでのスタートから50m区間のスプリントタイムの自己ベスト更新や、スパイラルで年末に行われた日本選手権でコースレコードをマークして優勝するという結果になって顕れている。越は、42歳にしてまだ進化しているのだ。だがそれは、世界のトップが集う舞台で結果を出して初めて世間から認められるものでもある。

 6年ぶりに開催されたW杯長野大会。その3日後にはオーストリア・イーグルスでW杯第5戦が行われ、1月24日からは世界選手権も開催されるハードスケジュールの中での大会だった。そのためカナダやドイツ、スイス勢は欠場した。それでもランキング1位のザック・ルンドなど、アメリカやオーストリア、イギリス勢などは出場。前日の公式練習では越の持っているコースレコードを上回る54秒58を筆頭に、54秒台が4人も出るというレベルの高さだった。

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 条件が良かった1本目、「走りは理想に近いところに入ったけど、滑走でほんのちょっと、目に見えない範囲のズレがあったんですよ。それがなかったら54秒7台後半から8台は出てると思いますが」という滑りで越は54秒99。トップのバーノタス(米)に0秒41差、3位には0秒1差の5位につけ、表彰台の可能性を残した。

 しかし2本目にはこれまで何度も悩まされてきた雪が降りだした。そして越が滑る頃には最も激しくなる。2本目でトップ3のタイムを叩き出したのは、1本目10位以下で早いうちに滑った選手。最速の55秒60で滑った稲田が1本目10位から3位に上がり、越は6位にとどまった。

「2本目も滑りは良かったと思うんです。ただコースの両側に雪が一杯あったから、1本目とは違うライン取りで雪のない真ん中を走るしかなかったですから。その面では自分の滑りはできたと思います。でも、こういう条件に見舞われるのもアウトドア競技の宿命だし、自分の取り組みの一部ですからね。やっぱり優勝したバーノタスのように、1本目でもうちょっと離しておかなければ行けなかったんですね。そういう意味でも6位という結果は、僕の努力が足りなかった証明です」

 それでもこの長野大会の成績で、総合ランキングは稲田が11位、越が15位に上がった。次戦のイーグルス大会の結果次第で世界選手権は、有利な条件で滑ることができる総合10位以内の第1シードに入って臨むことができる可能性も出てきた。

 だが、そんな成果以上に、この大会は日本スケルトン界にとっては大きな意味のあるものだった。アジア唯一のソリコースであるスパイラルは、ここ数年廃止の危機に見舞われていたのだ。運営費の年間赤字が1億9千万円弱。所有する長野市は五輪施設の維持負担軽減のために、スパイラル廃止の方向へ動きだしていたのだ。しかし、昨年になり、文部科学省がここをナショナルトレーニングセンターに指定する方針を打ち出した。まだ正式決定ではないが、それを受けて長野市は存続を決定したのだ。

 世界で唯一登り坂のあるコースとして登場したスパイラル。五輪後は一般の人にもソリ競技を体験してもらうためにとタクシーボブスレーの購入もしていた。だが実際にやってみると登り坂がネックになり、スピードを出せないタクシーボブスレーはそこで止まってしまうことが判明。結局は競技で使う以外は何の利用もなされていなかった。これも後々の利用まで考慮に入れずに作ってしまった無策ぶりを証明する現実なのだが……。

 国際ボブスレー・トボガニング連盟が今季、厳しいスケジュールの中でも長野大会を実施したのは、アジア唯一のコース存続の危機にアクションを起こしたからだろう。

 越もこう言う。「選手たちも応援し甲斐がある成績を出せるようになって、大会でも喜びを共有できるようないい関係になっていけば、ファンももっと増えていくと思うんです。それに、僕らのような競技者レベルではなくても、一般の人に氷のコースでスリルや興奮を味わえる機会をもっと提供していかないといい関係も作れないと思うので、その辺も今後の課題ですね。その点でもスパイラルが存続していくのは重要だし、ナショナルトレーニングセンターとして科学的なアプローチも含めて強化していけるようになれば、バンクーバー五輪はともかく、その次の五輪くらいには、僕らの次に控える若い選手たちがその効果を結果に結びつけてくれると思うんです。そういう意味では存続を願うばかりですね」

 すでにコーチなどになっている、各国のかつて戦った仲間たちからは、顔を合わせる度に「俺たちの世代で残っているのはお前だけだから頑張ってくれ」と言われ、例え6位という結果でも「頑張ってるな」と喜んでくれる。しかし越自身は、“年なのに頑張っている”という程度の評価に甘んじる気持ちはない。目標はやっぱり一番なのだ。

 まだまだ日本スケルトン界が頼らなくてはならない越の頑張り。その努力はスパイラルの存続や国際大会の開催、そしてその経験を活かした次の世代の選手たちが世界に羽ばたくことで、本当に報われるのだろう。

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