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市川忍●文 text by Shinobu Ichikawa
築田 純/アフロスポーツ●撮影 photo by Jun Tsukida/AFLO SPORT
第68号(2006年11月1日)
【バレーボール】対極なふたりの正セッター争い

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 どれほど能力の高いアタッカーを揃えても、トスを上げるポジション次第ではその攻撃陣をムダにしかねない。バレーボールは、コートに入るアタッカー全員の長所を生かし合わなければ、ブロックという高い壁に阻まれ、得点を奪えないよう仕組まれたスポーツだからだ。

 10月31日にスタートしたバレーボール世界選手権・女子大会に続き、11月17日に開幕を迎える全日本男子は、現在、東京で最後の調整を行なっている。この最終合宿ではいよいよ攻撃のコンビネーションや組織力の向上といった、実戦を見据えた「チーム力」の仕上げに力を注ぐことになるが、植田辰哉監督が目指す多彩なコンビネーションで相手を翻弄するバレーを実現するために重要な鍵を握るのが、攻撃を組み立てるセッターの役割である。

 最終選考に残ったのは阿部裕太(東レ・写真上)と朝長孝介(堺・写真下)。このふたりによって正セッター争いが繰り広げられることになる。

 阿部は191cmの長身と、両利きという器用さを買われ、大学2年生のときに初めて全日本入りを果たした。昨年、第11回Vリーグでは東レを優勝に導き、将来を嘱望されるセッターである。サイドへの並行トスのスピードは、他の強豪国のセッターと比べてもまったく引けをとらないほど速い。まずは速い並行トスで相手ブロックの注意を両サイドに向け、センターからの速攻やバックアタックを絡める攻撃を得意としている。

 一方の朝長は昨年、全日本がアジア選手権を制したときの優勝メンバーだ。身長184cmと、高さでは阿部に劣るものの、センターの速攻を中心に、サイドや時間差を絡め、相手ブロックの観察に細心の注意を払いながら試合を進める。計画性と、アタッカーを生かすトスの質にこだわりを持つ才覚あふれる選手である。

 配球の原点をサイドに置く阿部に対し、センター攻撃が生命線の朝長と、考え方は対極にある。セット終盤に訪れる勝負所に向けて、どんな布石を敷くのか。このふたりのトス回しに注目するのも試合を楽しむひとつの方法だろう。

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 植田監督は言う。
「バレー観の軸がブレないのは朝長です。私のやりたいバレーを体現してくれるので、いつでも安心してコートに出せるセッターです。逆に阿部については、チームの強化を4年間というオリンピックサイクルで考えたときに、身長が高く、ブロック力のある攻撃的なセッターの成長は絶対に必要です。セッターというのは1、2年で作れるものではない。だからこそ、前代表監督も阿部を起用してきたんでしょうし、私も阿部には技術的な課題を克服して、さらに成長してほしいと思っています」

 先発が予想される阿部は語る。
「(山本)隆弘さんや(龍治)直弘さんというスーパーエースがコートに入っても、いろいろなポジションから攻撃を仕掛けるという今年度の方針は変わらないと思います。攻撃が単調だった時代の東レは弱いチームでした。でもコンビバレーを徹底したおかげで、入れ替え戦に行ったチームが、次の年には優勝することができたんです。コンビの重要性は身を持って感じていますね」


 朝長も言う。
「昨年のグランドチャンピオンズカップでは、センターの速攻が機能したおかげで、相手ブロックとの駆け引きの中で先手を取ってトスを上げることができました。そのとき、やっぱり自分の組み立ての中心はセンター攻撃なんだと痛感しました。だから今年度は相手がマークしているとわかっていても、注意を引くために、あえてセンターへトスを上げる場面もありました。そうやって世界選手権でもセンターを信頼して使うこと。相手のブロックを観察して、トスを上げる位置を考えるのが自分の持ち味だと思っていますから」

 データ分析によって攻守の戦術を決定する近代バレーでは、一層「読まれにくい」攻撃が求められる。

「世界の強豪と戦うとき、体格で劣る日本はより攻撃のバリエーションを増やさなければ勝負になりません。もっともっと複雑化していかないと対等に渡り合えないと考えています」(植田監督)

 植田ジャパンの基本方針がより完成度を高めれば、第一次予選の突破はもちろんのこと、第二次予選でも世界の強豪と互角の戦いを見せられるだろう。

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