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折山淑美●文 text by Toshimi Oriyama
フォート・キシモト●撮影 photo by PHOTO KISHIMOTO
第66号(2006年10月13日)
【陸上】夢の19秒台でメダル獲得へ〜末續慎吾、W杯3位入賞

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「完全にバネ切れでしたね。体調はいいけど、体の芯の疲れというか。試合が続いた独特の疲れがあって、ちょっとレース感覚が鈍っている感じがするんです。何て言うか、自分が今持っている体力の残り物をかき集めて飯を作ったみたいな感じで、非常に美味しくなかったですね(笑)」

 10月9日、兵庫国体成年男子100mを10秒29で制した末續慎吾は、ホッとしたような表情で話した。今年の彼はこれまでにない試合数をこなした。特に9月に入ってからは、16、17日にアテネで開催されたW杯で4×100mリレーと200mを走り、帰国後の24日にスーパー陸上で100mを走った。さらに30日から大分で行なわれた全日本実業団では200mを予選、準決勝、決勝の3本を走り、1週間後の国体でも100m3本とリレーを。長距離移動も含めた4週連続の試合というハードスケジュールだった。

「こうなるのは大方予想がついていましたね。アテネから帰って来た時くらいから『大丈夫かな?』と心配はしていたんですけど、そこは持ち前の明るさで乗り切って(爆笑)。今回はケガをしないで勝つことを目標にしてたけど、少年少女が見てるから頑張らないとね。でも国体っていい試合だと思うんです。一緒に走ることはないけど、彼らは僕のレースやウォーミングアップを見たりしてますから。同じ空間で試合をしてるってことは、一番のPRなんですよ」

 今季、12月にアジア大会を控えている末續が、最も課題にしたのは数多くの試合に出ることだった。陸上競技をしている姿を絶やさずに見せ、自らが話題になることで来年8月の大阪世界陸上だけでなく、陸上競技自体にスポットが当てられるようになればいい、という狙いだった。自分たちが大好きでやっている陸上を、多くの人に見てもらい盛り上げていきたいという思いだ。

 そのハードスケジュールの中、最も価値のある結果を出したのがW杯だった。陸上ファン以外にはあまり知られていない大会だが、これはヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、アジアの各大陸代表とUSA、そして当年のヨーロッパカップ男女国別対抗1、2位の国と開催国が集まって戦う対抗戦だ。末續は直前になって200mと日本チームでメンバーを組む4×100mリレーの代表に選ばれ、「名誉なことだから」と、無理矢理時差調整をする形で出場したのだ。

 初日の4×100mリレーでは塚原直貴、末續、高平慎士とバトンをつなぎ、4走の小島茂之が350m付近までアメリカに次ぐ2位を走る快走。結局イギリスチームで組んだヨーロッパには交わされたが3位入賞を果たし、ここ数年間狙い続けていた念願の世界大会メダル獲得への足掛かりをつかんだ。

 さらに翌日の200mで末續は、銅メダルを獲得した03年世界陸上を再現するかのような粘りのレースをみせた。相手は今季19秒88をマークして波に乗っているウォーレス・スピアモン(アメリカ)と、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)。さらには8月のヨーロッパカップを20秒01で制しているフランシス・オビクウェル(ポルトガル)だった。

 順当にいけば4位が妥当なメンバーだった。だが末續は前半から突っ込み、150m付近まではスピアモン、ボルトと互角の戦い。そこからふたりには突き放されたものの、オビクウェルとは我慢合戦のような粘り合いに。最後まで勝負を諦めなかった彼は、ゴール3mほど手前で僅かに相手を交わして3位でゴール。タイムは20秒30だった。

「きつかったッス! でも粘れた。良かったですよ」

 ミックスゾーンへ来た末續は、叫ぶようにこう言うと寝っころがった。息はまだまだ荒かった。

「前半突っ込みすぎたから、最後はきつかったですね。最初からおいていかれたらそのままおしまいですから……。勝負はできましたね。でも、19秒台の選手はやっぱり強いですよ。オビクウェルとはドッコイドッコイかなと思って、粘り勝ちを予想してたんです」

 このレースは世界大会の準決勝を想定して走った。結果は3位。これなら決勝進出は果たせたことになり、もし翌日が決勝なら面白いレースができるはずだと笑う。

「何かこのレースで、19秒台が見えた感があるんですよ。120〜130mまでは19秒台の選手とも並んでいけるし、150mまでなら粘れるんです。後の50mを何とかすればいいけど、その練習は03年の世界陸上の前もやっていて未知のものじゃないですからね」

 末續が今年、200mに照準を絞ると決めたのは、メダルを獲得する姿をもう一度見せたいからだ。

「だって大阪でも北京でも、日本人がみたいのは僕の勝つ姿だと思うんですよ」

 まずはそれを実現するために、スプリンターの夢でもある100mでの記録追求は、先にとっておくことにした。

「とにかくこの数年は嫌なことをいっぱいしてきましたからね。足が痛くてどこまで走れるかわからないような状態だったアテネ五輪の時は、本当に怖いなと思いました。100mだったらある程度は走れちゃうけど、200mはそんなものじゃないから、出たくないっていう気持ちになりますからね。でもそうやってきたことで、底辺の力は付いたと思います。今年はレース自体もコントロールできるようになったし、いつの間にか成長してたって感じですね」

 大阪の世界陸上を盛り上げるためには、国内大会でも選手だけが主役になっていてはダメだ。観客も手拍子や声援で試合に参加し、記録や結果に対してともに満足感を感じられるような大会にすることが必要だという。その下地を来年ではなく今年作っておくために、末續は数多くのレースを走り続けたのだ。

 W杯があったアテネでも、彼は最後にこう言って笑った。

「3位ですから良かったですよ。みんなこういうレースが見たいだろうから、これで喜んでもらえるでしょうね、忘れられてないでしょうね」

 陸上競技を日本人にもっと認知してもらいたいと考えて選んだ今季のハードスケジュール。その中に急遽組み込まれたW杯で末續は、来年の戦いへの手応えと、これからはもう崩れることがないだろう自分自身の走りへの自信を得た。

 大阪では19秒台でメダル獲得、それが夢ではないような気がしてきた。

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