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折山淑美●文 text by Toshimi Oriyama
岸本勉●撮影 photo by Tsutomu Kishimoto
第64号(2006年9月13日)
【スキージャンプ】葛西紀明、笑顔の今季初試合〜サマーGP白馬大会

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 9月9日のサマーグランプリ白馬大会初日、4位になった葛西紀明の顔には、悔しさではなく安堵の笑顔が浮かんでいた。44人中9番目という早い順番で飛んだ試技は125.5m。ヤンネ・ハッポネン(フィンランド)とウルフガングル・ロイツェル(オーストリア)に次ぐ3番目の飛距離だった。だが試合になると1本目は力みが出て123mに終わり、10位と出遅れた。2本目は条件の悪い中でのジャンプとなったが123.5m。何とか4位まで順位を上げたのだ。

「惜しかったですね。1本目をちゃんと飛んでおけば表彰台へ上がれたと思うけど。でも、失敗してもあそこまでいけましたからね。いいジャンプをすれば表彰台へ上がれるということも確認できましたから。本当にホッとしましたよ」

 その笑顔の理由は、葛西にとってこのサマーGPが今季初試合だったからだ。

 今年6月、葛西はオーストリア合宿でジャンプ系のトレーニングをしている時、両膝に痛みが出た。その後もフィンランド合宿とドイツ合宿に参加したが、ジャンプ練習では踏み切る瞬間と着地時の痛みがひどくなったために帰国。検査を受けると“膝軟骨損傷”で全治3カ月と診断されたのだ。

 7月の末、札幌で行なわれたサマージャンプ大会の会場に来ていた彼は、こう語っていた。「軟骨がささくれ立っていて、大腿骨と膝の皿が擦れ合う時に痛みが出るんだと言われました。だから今は、軟骨の滑りを良くするためにヒアルロン酸の注射をし、グルコサミンのサプリメントを飲んでリハビリをしてるんです。実際にジャンプを飛ぶのは9月に入ってからだと思います」

 その時の表情にも、焦りの色は窺えなかった。長年続けているジャンプ、34歳になった彼の数カ月間のリハビリは、精神面でもいい休養になるのではないかと思えた。それを復帰戦の白馬で証明したのだ。

「ジャンプを飛べなかった期間があったというのは、今になってみれば良かったと思いますね。最初の1カ月間はジャンプを忘れていて、その後の1カ月間はしっかりイメージ作りができましたから。この2カ月間は本当にプレッシャーもなく練習ができたから、それが今、いい方向で出てると思います」

 身体能力は相変わらず日本チームのトップレベルを維持している葛西。これまではその身体能力の高さが裏目に出てしまい、いざという時にジャンプが荒くなってしまう欠点もあった。だからこそ、ジックリと自分のジャンプを考え直す期間が必要だったのかもしれない。

「久々の試合で緊張した面もあったけど、これから少しずつ試合勘を慣らしていけば。体重も今は63.5kgくらいあるから、あと2kgくらいは減らしていけば」と、手応えを感じる試合だった。

 来年2月にはノルディックスキー世界選手権札幌大会が開催される。地元開催の大会、さらには2010年バンクーバー五輪へ向けて、日本チームのカリ・ユリアンティラ・ヘッドコーチは、若手の伊東大貴を中心としたチーム作りを考えている。今季は、昨季のトリノ五輪代表になった16歳の伊藤謙司郎が精神的にも成長し、05年世界ジュニアで6位入賞を果たした19歳の竹内択も、着実に力をつけてきている。だが、若いチームにはまだベテランの力も必要だ。そのためにも35歳の岡部孝信や34歳の葛西が、さらに進化を続けて若手の前に立ちはだかる大きな壁になっていなくてはいけない。

 この大会の葛西の笑顔は、まだまだその役割を果たしていく決意と自信に満ちているものだった。

 地元開催の世界選手権へ向け、日本ジャンプチームにもいい風が吹き始めたようだ。

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