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折山淑美●取材・文 text by Toshimi Oriyama
渡辺幹雄●写真 photo by Mikio Watanabe
第62号(2006年7月25日)
【スキージャンプ】新世代の成長とベテランの向上心

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「今の状態ならマァマァの結果ですよね。ただ、上に大貴がいるけど……。あっ、それに謙司郎もいるかァ!」

 7月22日の札幌・大倉山ジャンプ台。UHB杯サマージャンプ大会の終了後、岡部孝信(写真右)はこう言うと明るく笑った。岡部は、成年組の試合で2本目に最長不倒距離の135mを飛んだ伊東大貴(写真中央)に逆転されて2位に終わっていた。しかし、今シーズンは助走スピードを上げ、より力強く踏み切れるようにと、助走のクラウチング姿勢を以前より小さくする試みをしている過程だからこそ、今の成績も納得できるのだ。

 だが今季、そんな岡部をも驚かせているのが高校1年生でトリノ五輪代表になった、16歳の伊藤謙司郎の好調さだ。1週間前、ノーマルヒルの宮の森大会の少年組で優勝した彼は、98mジャンプを2本揃え、成年組優勝の大貴より高得点をマークしていた。そしてこの日の試合でも124.5mと130mを飛び、難しい条件で1本目が109mだった大貴に合計得点で31.9点差をつけていた。

「1本目は失敗したのを風に助けられたけど、2本目にはそこを修正できたのがよかったと思います。やっぱり、五輪へ行ったことで自分に自信がついたのが今のジャンプにつながっていると思います。トリノでは結局試合には出られなかったけど、それが逆によかったと思いますね。あの悔しさがあったから、今があると思うし」

 こう話す謙司郎にとって、トリノ五輪で一番印象に残ったのは「気象条件がどんなに悪くても、強い選手は飛んでくる」という現実だった。悪い条件の中でどのくらい飛べるかというのが自分の本当の実力だと。

「だから、以前は風の条件が悪いとスタートゲートから下りていたけど、今は条件が悪い時の方が飛びたいと思うようになったんです。悪い中で飛ぶのが練習だと思うんで」

 それはW杯などを転戦していれば誰もがわかることだ。ヨーロッパでは日本のようにいい向かい風で飛べる試合の方が少ない。謙司郎も先輩から話を聞いていただろうが、頭の中で想像するだけでは心の中にまで叩き込まれることはない。そんな戦いがあることを試合には出られなかったが公式練習で経験できた。それが彼がトリノで得た大きな収穫だった。

 さらに謙司郎には、体重不足という課題もあった。食が細く、身長のわりには体重が軽い。身長に合った長さのスキーを履くために、靴の中に重りを入れているような状態だった。特に海外では食事が合わず苦労していたのだ。
「ついに日本食禁止令が出ちゃったんですよ。海外遠征へ行く時には日本食を持っていくなと。でもそれも、練習の一環としてやらなくちゃいけないと思っています」

 徐々に体重も増えてきていると苦笑する謙司郎の表情にも、昨シーズンと違う選手の自覚らしきものが漂うようになっている。

 一方、翌23日の札幌市長杯では、1本目エアーポケットにハマる不利がありながらも125mまで距離を伸ばし、2本目に135mを飛んで逆転優勝した大貴は、やっと謙司郎を上回る合計得点を出し、宮の森から続く成年組3連勝を達成と好調さを見せつけた。

 サマーシーズンが始まったばかりだというのに、ジャンプ自体は非の打ち所がないほど完璧な状態だが、冷静に自分を見ている。
「今は何で調子がいいのか自分でもわからないんです。それを理解するのも大切だと思うし、それがわかるだろうベテラン選手に比べればまだまだだと思うけど、今はそんなことを考えるより、この好調さをどうやって維持していけばいいか考える方が大切だと思うんです」

 W杯で表彰台に上れる実力をつけて臨んだはずのトリノ五輪、ノーマルヒル18位が最高順位と悔いが残った。
「トリノ五輪をしっかり振り返っているわけじゃないけど、あのころはコーチとのコミュニケーションが足りなかったと思うんです。こうやれと言われても納得いかないとそんなことはできないし……。しっかり説明してもらって自分でも理解するために、今年は積極的にスタッフとコミュニケーションを取るようにしてるんです。それができてるのがいいんだと思いますね」

 そう話す大貴の表情には、もう若手というような意識はない。五輪を経験して逞しくなったジャンプ選手の顔があるだけだ。

 20歳の大貴と、16歳の謙司郎の確実な成長。さらに35歳のベテラン・岡部も今年は技術だけでなく筋力バランスの課題も強く意識するようになり、もう一皮剥けようとしている。もうひとりのベテラン、33歳の葛西紀明は膝の故障のリハビリ中で飛び始めるのは9月からだというが、しばらく低迷していた28歳の吉岡和也が、宮の森4位、札幌市長杯3位と追いすがってきている。

「土屋ホームへ入って以来、周りのみんなが世界を目指している中で国内の試合しか出られなく、焦りがありました。でもやっと自分のイメージと動きが噛み合うようになってきて。コーチだけでなく、チーム内の葛西さんや大貴、大斗(高橋・コンバインド)もわからないことを聞けばアドバイスをしてくれるから。そういうことが自信につながってきているんだと思います」(吉岡)

 大貴は、「トリノの借りを返すのはバンクーバー五輪だけど、だからこそ次の世界選手権が大事だと思うんです」という。その世界選手権札幌大会は来年2月だ。日本ジャンプチームは今、何本かの柱ができそうな状態になってきている。

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