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水野光博●文 text by Mitsuhiro Mizuno
第57号(2006年5月24日)
【NBA】プレイオフ展望〜ブザービーター

 今でも鮮明に覚えている。もう13年も前、僕が高校1年の冬のことだ。

 僕が着ていたのは白いユニホーム。相手は赤だ。地区予選の3回戦、もちろん電光掲示板なんかなかった。バレーボールと兼用の日めくりカレンダーのような得点板が、68−67となっていた。右コーナー付近にいた僕にボールが回ってくる。迷っている時間はない。キャッチと同時にジャンプショットを打った。目の前の、すべてのものがスローモーションのように流れる。ボールが最高到達点に達したところで、試合終了のブザーが鳴った。だけど、さらにゆっくり落下したボールは、カップに弄ばれるゴルフボールのように、クルッとリングを半周してフロアーにこぼれ落ちた。ブザービーターならず。うつむく僕の肩を「顔を上げろよ」と叩いたのは、その試合が引退試合の3年生だった。
「あのシュートが決まっていたら」

 今でも時々僕はその試合を思い出す。

 コービー・ブライアントは、9年前のシュートを覚えているだろうか。

 97年のプレイオフ2回戦、対ジャズ戦。オーバータイムまで試合はもつれ、レイカーズは1点のビハインド。タイムアウト中、コービーはルーキーだったにもかかわらず、逆転をかけたブザービーターを「俺に打たせてくれ」と志願する。タイムアウトが解けラストプレイ。作戦通り、コービーにボールがまわる。さほど難しくない距離からのジャンパーだった。フォームも完璧。しかし、ボールはリングにかすりもせずエアーボールとなった。同時にレイカーズのシーズンが終わった。完全な戦犯となったコービーだったが、それでも彼はうつむかなかった。唇を噛み締めるような表情ながら、堂々とロッカールームに帰っていった。そんなコービーに、最初に話し掛けたのは、今はライバルのシャキール・オニールだったと記憶している。

 先月末から始まった05-06プレイオフ。シード上位チームが順当に2回戦に駒を進めた。唯一、ウェスタン・カンファレンス第6シードのクリッパーズが第3シードのナゲッツをくだしたが、レギュラーシーズンでの成績はクリッパーズが上だ。それでも、各シリーズを観戦すると、今後の波乱は十分予想できる内容だった。大本命といわれた東のピストンズ、西のスパーズはもはや絶対ではない。スパーズは第8シードのキングスに2敗、ピストンズはバックスに1敗している。

 もっともアップセットが起こりそうだったのが、第7シードながら第2シードのサンズを1勝3敗まで追い詰めたレイカーズだった。第4試合、コービーはゲーム残り0.7秒でレイアップを決めゲームを延長戦に持ち込む。そしてオーバータイムへ。残り6秒で1点のビハインド。チームメイトからボールをもらったコービーは、コートの左サイドから右サイドにドリブルする。45度付近でストップすると、2枚のブロックの頭越しにジャンパーを放った。ショットはきれいな弧を描き、ネットに吸い込まれた。同時に試合終了のブザーがアリーナに響いた。左手で何度もガッツポーズを繰り返すその姿は、89年のプレイオフで“ザ・ショット”を沈めたジョーダンとダブった。突き上げるその腕のガッツポーズまで似すぎるほど似ていた。

 コービーは、今まで何度もビッグショットを沈めてきた。それでも、9年前のショットを打ったからこそ、あの時うつむかなかったからこそ、今回のブザービーターが決まったのではないか。そう思うのは、僕だけだろうか。

 だが、「この1試合でわれわれは10年分成長した」とコービーは試合後、胸を張ったがレイカーズはまるで燃え尽きたかのようにその後の試合で精彩を欠き3連敗。プレイオフから姿を消した。


 カンファレンス・セミファイナル以降を予想するならば、西ではクリッパーズ、東ではキャバリアーズが台風の目か。

 キャバリアーズは神童・レブロンがチームを引っ張る。1回戦ではウィザーズに苦戦を強いられたが、どうにか2回戦に。現在、ピストンズと熱戦を繰り広げている。勢いに乗っていきたいところだが、レブロンに次ぐスコアラー、ヒューズが離脱。実弟が心臓病でこの世を去った心労のためだ。戦力的にピストンズと戦うのは厳しくなった。が、ヒューズ離脱第一戦でレブロンがトリプルダブルの活躍、白星を挙げた。

 逆境でこそスーパースターが生まれる。マイケル・ジョーダンが世に名を知らしめたのが最初の“ザ・ショット”。ジョーダンがノースカロライナ大1年生の時、NCAAトーナメントファイナル残り17秒、1点ビハインドというの場面から放った逆転ショットだった。すでにレブロンはスターだが、スーパースターになるべく状況は整った。

 6月まで続くプレイオフ。もちろんどのチームに栄冠が輝くのは気になる。だけど、1本でも多くのブザービーターを見たいとも僕は願っている。

 僕は時々、「あのシュートが決まっていたら」と思い出す。

 だけど、あのシュートが決まらなかったからこそ、ブザービーターという奇跡に心から驚愕できる。そして、バスケットボールというスポーツを好きでいられる。

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