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折山淑美●取材・文 text by Toshimi Oriyama
三船貴光/フォート・キシモト●写真 photo by Takamitsu Mifune/PHOTO KISHIMOTO
第55号(2006年5月10日)
【陸上】池田久美子、悲願の日本新〜大阪国際グランプリ陸上

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 5月6日の大阪国際グランプリ陸上、女子走り幅跳びの2回目に6m86を跳んだ池田久美子は、記録が追い風1.6mの公認記録だと知ると泣き崩れた。01年日本選手権で花岡麻帆がマークしていた日本記録を4cm更新する記録だった。

「小さいころから陸上をやっていて、日本記録は夢でした。毎年出したいと思っていたけど、なかなか実現できなかったことだし……」

 小学2年から陸上競技を始めた池田は、走り幅跳びの学年別日本記録を次々に更新し、中学では走り幅跳びだけでなく100mハードルでも中学新をマークして“天才”と注目されていた選手だった。高校時代は伸び悩んだが、福島大に進学して川本和久監督の指導を受けるようになって復活。00年には6m43の日本ジュニア新記録を跳んで、世界ジュニアの銅メダルを獲得している。だが日本記録となるともう一歩届かない状態が続いていた。

 日本の女子走り幅跳びが一気に世界へ肉薄したのは01年だった。6月の日本選手権で花岡が6m82の日本新をマークすると、池田が6m78と追いすがる。ともに同年8月に開催された世界選手権のA標準記録を突破して、初めて世界の大舞台へ出場したのだ。

 当時、世界の女子走り幅跳びの記録が停滞し始めていた。世界選手権では池田が11位、花岡は予選落ちに終わったが、日本選手権で出したふたりの記録は同年世界ランキング14位と17位。もし世界選手権の決勝でその記録を跳んでいれば、6位と7位入賞を果たせるほどの価値ある記録だった。

 その後、なかなかA標準記録(6m70)に届かなかったふたりは、激しい世界選手権代表争いを繰り返し(A標準突破なら各国3名まで出場できるが、B標準突破だと1名だけが出場可)、世界選手権と五輪には交互に出場。特に昨年の日本選手権での代表争いは同記録の戦い。結局3番目の記録の優劣で池田の優勝が決まるという、歴史に残る大接戦だった。

「これまでは日本記録を出したいと思っていても、それが実現する手応えはなかったんです。でも今年は、本当に日本記録を狙えるなと思えるようになったんです」

 こう話す池田は日本新を出した跳躍の直前、ピットに立って観客に拍手を求めた時に「日本記録が出そうだな」と感じたと言う。その裏付けは今季の好調な出足だった。シーズン開幕戦だった4月29日の広島国際陸上では、それまで13秒20がベストだった100mハードルで13秒02の日本歴代2位をマーク。5月3日の静岡国際陸上では、走り幅跳びの初試合にもかかわらず、6m75の自己セカンド記録を跳び、07年世界選手権大阪大会のA標準記録突破を果たしていたのだ。

「自分で自分の体を操作できるようになって、スプリント能力が上がってきたんです。100mを計ったことがないけど、練習でも11秒7くらいの記録を持つ選手をスーッと簡単に抜けていけて。広島の100mハードルが終わった後にも、川本先生から『これだけ刻んで走れるようになったら、今年はいけるよ』と言われてたので」

 昨年より大きく変わっているのは助走の走り。昨年までは脚が後ろに流れるようなフォームだったものがリズミカルに脚を前に出す、走り幅跳びの踏み切りにつながる走りになっている。冬場に川本監督の小・中学生向けの講習会に実践モデルとして同行し、監督の指導を見ていて効率よく力が伝わる動作と伝わらない動作の違いがわかるようになってきたからだと言う。

「1回目が終わった後、先生から踏み切りの一歩前の左足を自分の体の前へ出すのではなく、後ろ側へ置くようにすればスッと体が前に進んでいくから、と言われたんです。私の場合はその左足が遅れる癖があるんで。静岡の時も同じことを言われて6m75を跳べてたんです。それと同じパターンでしたね」

 静岡国際陸上の後、「着地の時に下を向くのではなく、そのまま前を見ていればもう少し記録が伸びる」とも言われた。その指摘を意識したことも日本新誕生につながった。

「日本新を出せたこともうれしかったけど、最後の6回目の跳躍を6m75でまとめることができたのも良かったですね。もうチョイきれいにまとめられそうな感じもあったし……。とりあえず今年の目標は、記録のアベレージを上げることなんです。去年は6m60だったから、今年はそれを70くらいにしないと。7mを跳ぶ選手のアベレージは80〜90くらいだと思いますから」

 6m86は昨年の世界ランキングの6位に相当し、世界選手権なら2位になる記録だ。だが池田はベスト記録がそのまま大舞台での勝負につながらないことも承知している。特に今回の試合は風の条件も良く、グラウンドも硬くスピードの出るトラックだったからだ。ヨーロッパの大会はトラックも古くて柔らかく、日本のような好条件での試合をできないのが常だ。

「向こうのボロボロのグラウンドで、今の走りをどの位できるか試してみたいですね。できれば6月末からの日本選手権の前に、ヨーロッパの試合へ出場したいんですけど」

 悲願の日本記録保持者になり、欲をさらに大きく膨らんできた池田に対し、花岡もこう言う。

「自分が日本記録を跳んでからふたりで競り合ってきたけど、記録を更新するまでに5年もかかったというのは、かかりすぎだというのが正直な気持ちです。初めて日本記録を破られて何とも言えない気持ちですけど、これからは少しでも頑張って、遠くへ跳ぶことを目指すだけです」

 女子走り幅跳びが本当に世界と戦えるようになるには、池田と花岡がともに海外での試合を数多く経験し、激しい日本記録更新合戦を繰り広げることだ。池田の日本記録更新は、次へのステップの第一歩になりそうな予感がする。

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