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折山淑美●取材・文 text by Toshimi Oriyama
築田 純/アフロスポーツ●撮影 photo by Jun Tsukida/AFLO SPORT
第54号(2006年5月2日)
【柔道】波乱の全日本選手権〜鈴木桂治、まさかの敗北

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 鈴木桂治が史上5人目の3連覇を狙った4月29日の全日本柔道選手権。3回戦までは順当に進んだ試合も、準々決勝からは会場にも歓声とため息が交錯する番狂わせが続いた。

 準々決勝序盤、鈴木は得意な足技で崩す柔道が見られず、開始2分6秒には「指導」を取られる劣勢に回ったものの、そこから攻めに転じてなんとか3対0の旗判定で優勢勝ち。だが続く100kg級のホープ・穴井隆将は1階級下90kg以下級の泉浩を相手に自分の組み手になれず、「有効」と「技あり」を取られて完敗。次の優勝候補の棟田康幸は、調子の良さが裏目に出て強引に攻めたところを生田秀和に隅落としで返されて一本負け。これまた優勝候補のひとりである05年世界選手権無差別級銅メダリストの高井洋平も、国士館大の後輩・石井慧に技を出せず、残り1分12秒に大内刈りで「有効」を取られて優勢負けしてしまった。

 番狂わせはそれだけでは終わらなかった。鈴木と石井、大学の先輩・後輩対決となった決勝になっても、鈴木は持ち味である足技で崩していく柔道を出せず、一発狙いとも言える粗い柔道をするだけだった。それでも残り2分09秒には技を出せなくなっていた石井が教育的指導を受け、3連覇達成を濃厚にした。しかし残り6秒、組み際に抱きついた石井が足を飛ばし、大内刈りで「有効」を取ってリード。そのまま試合が終わり、山下泰裕の19歳10カ月の最年少優勝記録を更新する19歳4カ月の全日本チャンピオンの誕生となったのだ。石井の優勝はそれだけでなく、1964年東京五輪重量級の金メダリスト・猪熊功以来、47年ぶりふたり目の初出場初優勝の快挙だ。

「最後の技は、必ず一度は出そうと決めていた技です。高校生の頃に外国人選手のビデオを見ていて発見した奇襲技で、高校の時は先生には『やめろ』といわれていた技なんです。桂治先輩とは毎日のように練習しているけど、なかなか投げられなくて。でも唯一投げられるのがあの技だったんです。練習でケガをするとマズいから飛んでくれていただけかもしれませんが」

 試合終了直後から大泣きしていた石井も、記者会見へ来ると戸惑ったような笑顔でこう答えていた。その勝利の陰には、準決勝後に落ちた斉藤仁全日本ヘッドコーチの“カミナリ”もあった。生田秀和と対戦した準決勝、前半に「有効」を2回取ってリードした石井は、ラスト30秒逃げまくって決勝進出を決めた。「最初から最後まで自分の柔道を出し切るのがあいつの持ち味なのに、逃げ回る姿を見るのは始めてだったんです。今回は国内ルールだったから通用したけど、国際ルールでヨーロッパの試合なら、例え30秒でも逃げ回っていたら指導が立て続けに出されて反則負けになってしまう。稽古でも絶対に妥協することがない人間なのに、あんなことをやっていたら成長が止まってしまうと思って、やさしく言ったんですよ」

 斉藤コーチは笑いながらこう言うが、石井にしてみれば「殺されるんじゃないかと思うくらいに怖い目つきでした」というほどのカミナリだった。決勝で最後の最後で決めた技も「終わった後に斉藤先生から何か言われてはと考えると、怖くてしかたなかった」という思いが出させた技でもあった。

 指導する国士館大の山内直人監督は「練習はウソを付かないというのがすごくわかった。あいつには素質はないが、超一流の努力という才能がある。すごい練習量と我慢、それが出たのだと思います」と評価する。3月初旬のドイツ国際で1回戦負けした時に腰を痛めた石井は、4月2日の体重別選手権の準決勝で、ライバルの穴井に内股で一本負けをしていた。だがその時は前日になってやっと練習を再開できた状態。「今の状態でどの位できるか」と確認するための試合だった。しかしその後の4週間はキッチリと練習ができ「大丈夫です、絶対やります」と自信を回復することができた。

 ただただ、ひたむきな気持ちで戦った石井に対し、鈴木には迷いがあった。アテネ五輪を100kg超級で制し、昨年の世界選手権では念願の100kg級での優勝を果たした彼は、次の目標を見失い、燃え上がってこない自分にイライラしているような状態だったといえる。

「今日は1回戦からつまらない試合をやってしまい、勝つための柔道をやっていただけの面白くない1日でした。ケガもあって、この1カ月で急に練習量を増やした疲れもあるとは思うし、気持ちが乗ってこなかったのもあるし……。やっていてつまらないと思う時点でダメだと思いますね」

 鈴木は「3連覇を逃して肩の荷が下りたという気持ちもある」という本音も漏らした。しかしこの敗戦は逆に、鈴木を生き返らせる大きな要因となるに違いない。その意味でも、守りの柔道で3連覇を達成しなかったことが、彼にとっては良かったともいえる。

 しかし、日本重量級の現実を見てみれば、01年の井上康生以来、6年連続で100kg級の選手が日本一になるという結果になった。「何とも重量級がふがいない」と、斉藤ヘッドコーチは苦笑するが、棟田にしても高井にしても、優勝を意識し過ぎるあまり、硬くなったり強引になり過ぎたりで自分の柔道を出せない結果に終わってしまっている。それが全日本の難しさではあるのだろうが……。6月の全日本実業団で復活する予定の井上康生を含め、100kg超級の奮起を期待したいところだ。

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