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折山淑美●取材・文 text by Toshimi Oriyama
北村大樹/アフロスポーツ●撮影 Daiki Kitamura/AFLO SPORT
第53号(2006年4月25日)
【水泳】日本記録保持者・山田沙知子、復活の3冠〜日本選手権

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 大会最終レースの100m平泳ぎで、やっと8月開催のパンパシフィック大会代表に滑り込んだ北島康介や、去年の3冠から一転して無冠に終わった柴田亜衣。ふたりのアテネ五輪金メダリストの、故障の影響による不調にハラハラドキドキ。そんなふたりとは正反対に、男子100m背泳ぎで世界と勝負できる53秒85の日本新をマークした森田智己と、女子200m背泳ぎでアテネ五輪、世界選手権の銅メダリスト・中村礼子を破って大幅な日本記録更新を果たした伊藤華英の活躍に感激。さらには、男女200mバタフライのハイレベルな接戦に興奮するなど、4月20日から23日まで行なわれた水泳日本選手権は、五輪の中間年にもかかわらず見どころの多い大会となった。

 だがその中でも、秘かに待ち望んでいたうれしい結果は、女子自由形中・長距離の女王、山田沙知子の復活3冠だ。

 競泳の華といえば、やっぱり一番速い泳法である自由形。かつて日本男子も自由形で世界をリードしたこともあるが、それは戦後すぐの古橋・橋爪時代まで。接戦を演じられたのも、1960年代初頭まで。その後は競泳種目の中で最も世界に遠い種目になっていた。

 そんな状況を女子自由形長距離で打破すべく、00年頃からただひとり世界へ肉薄し始めていたのが山田だった。だが、記録は肉薄しても世界大会で結果を残せないで足踏みをしているうちに、04年アテネ五輪では追いかけてきた柴田亜衣が800mで金メダルを獲得。環境を変えるべく、心機一転を図ってアメリカへ渡った昨年も、柴田にはさらに水を開けられる結果で終わっていたのだ。

 しかし、心の中には常に「山田なら……」という思いが残っていた。柴田が五輪の金メダルを獲ったとはいえ、日本記録はまだ山田が保持したままだ。彼女が調子を戻しさえすれば、柴田とともに世界と勝負をすることができると。

 その期待に彼女は、この大会で400m、800m、1500mの3冠獲得で応えてくれたのだ。

 だが山田にしても、完璧な状態で大会に臨んだわけではなかった。昨年の9月、全日本インカレの終了後には左ひざの手術をしていた。陸上の走り高跳びの選手などがなりやすい“ジャンパーズニー”と診断され、最初は内視鏡の手術のみの予定だった。だが患部が予想以上に悪く、メスを入れる手術になった。

「9月末にアメリカへ帰って、すぐにプールで泳ぐ練習を中心に始めたけど、痛みがなかなか取れなくて。11月からは小さな試合にも出たけど、本当に泳げだしたのは3月くらいからですね。それまではプルで引っ張ることができても、足が痛いから6ビートが打てない感じで。スピード練習もしてなかったから、どのくらいで泳げるか不安だらけだったんです」

 内心では、代表に入れないことも覚悟していたという。アメリカで指導を受けているビル・ローズコーチには「代表に入れなかったら4月中に帰ってくる」と言って日本へ来た。だが、最も不安だった初日の400mでは200m過ぎから柴田を突き放し、派遣標準II記録を突破する4分09秒63で優勝。自分の出したタイムに驚いていたのだ。

 さらに3日目の800mと最終日の1500mでは派遣標準Iを突破して優勝し、考えてもいなかった世界選手権の内定まで手にしてしまった。まだ2種目とも、自信の持つ日本記録にはもう一歩及ばないタイムではあるが、満足とも言えない状態で世界大会のメダル獲得を基準にした派遣Iを突破するのは、彼女の元々持っている素質ゆえともいえる。

 敗れた柴田は「いつもは『絶好調』と思ってレースに臨んでいるけど、この大会は体も重く、気持ちの部分でもダメだった。でもここで終わるわけではないし……。山田さんの調子が戻って、ふたりで切磋琢磨できるようになれば、もっともっと強くなれると思う」と話す。 

 山田にとっての課題は、無欲で臨んだ今回は好結果を残せたが、欲を持って臨んだ大会でも同じような結果を出せるかということだ。だが、たったひとりで記録向上だけを狙って泳いでいたころとは違い、アメリカでは男子選手と練習をしたり、小さな大会にも数多く出場し、たくましさも身につけている。

「入院している時に、『本当に自分は泳ぐのが好きなんだ』と思えたんです。だから今回も、どんな結果になっても自分を信じるしかないし、どんな結果もしっかりと受け止めなくてはいけないと思ってたので。その点では自分自身、しっかりしてきたなと思うんです」

 五輪の金メダリストと復活してきた日本記録保持者。このふたりが再び競り合うことを想像すれば、ますます楽しみが増えてくる。世界大会の自由形で日本人がふたりも表彰台に立つ。そんな日が来るかもしれないと思えてきた。

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