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折山淑美●取材・文 text by Toshimi Oriyama
中村博之/フォート・キシモト●撮影 photo by Hiroyuki Nakamura/PHOTO KISHIMOTO
第49号(2006年3月10日)
【フィギュアスケート】浅田真央、まさかの敗戦〜世界ジュニア選手権

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「最初のトリプルアクセルに失敗した時『アーッ』と思ったけど、そこから『諦めちゃいけないな』と思って……。でも、演技が終わった時には『今シーズンで一番ダメな試合だったな』と思いました」

 真央ちゃんの、まさかの敗戦だった。だがそれ以上に、ライバルである韓国の金妍兒(キム・ユナ)の出来がすごかったというか……。

 スロヴェニアのリュブリアナで2月6日から行なわれたフィギュアスケート世界ジュニア選手権。7日のショートプログラムでは金に4.76点差をつけられ、2位に終わっていた真央。現地入りしてからは得意なはずのトリプルアクセルが不調で、練習でも50回ほど試みて成功は2〜3回という状態だった。だが、ショートプログラムでは完璧に跳び過ぎて、コンビネーションジャンプとしてつなげるダブルループへ移りにくくなってシングルになってしまうという失敗。試合になって一気にジャンプの調子を取り戻した彼女の実力を考えれば、2日後のフリーでは逆転で連覇を達成してくれるだろうと期待するのは当然だった。

 だが、翌日からの練習を見ているうちに、不安がジワジワと広がりだしたのは確かだった。冷静な表情で軸がしっかりした高いジャンプを見せるだけでなく、スパイラルやスピンなどもジックリとチェックするように滑っている金に対し、真央は明らかにジャンプだけへ意識がいっているようで、表情にも余裕が無いように見えた。

 試合後、彼女はこう言った。

「5コンポーネンツやスピンなどを直す時間もなかったし、これ以上はできないと思ったから練習してきたことをやるしかないかなと思って。ジャンプも(リュブリアナに)来た時には最悪だったけど、絶好調と思うくらいに上がってきていたので、ノーミスにしたいなと思っていて」

 自分の持ち味はジャンプだけだ、という思いがある彼女は、自分自身に余裕がないと感じ始めると、得意なジャンプだけに頼ろうという気持ちに偏ってしまったのだろう。

 9日のフリー演技、真央の直前に登場した金は、完璧な3回転−3回転のコンビネーションジャンプで滑り出した。その後の、何度も練習をしていたダブルアクセル−3回転−2回転はふたつ目のジャンプの着地が乱れて最後の2回転をつけられなかったが、次の3回転−2回転のコンビネーションジャンプに無理やり2回転を付け加えて挽回。まだ15歳とは思えないような豊かな表現力と、キリッと締まった迫力さえ感じさせる演技を終え、自己ベストの116.68点をマーク。ショートプログラムとの合計点も177.54点の自己最高得点をマークした。

 それに対して真央は、最初のトリプルアクセルが1回転半に終わり、終盤のトリプルルッツも1回転になってしまう大きなミスをしてしまった。

「ジャンプのパンクは練習でもしてはいけないと思ってるのに、試合でやっちゃダメですよね。まだ回ってコケたりする方が……。転んではダメだけど、逃げてない気がするから。最初のアクセルで失敗して『ウェッ』って思ったから、次のトリプルループは『ここでコケたら終わりになっちゃう』と緊張したんです。そこは成功したけどその後は考える余裕もなくて、次のスピンは休憩といった感じになってしまいました」

 結局、スピンやステップなどのレベルは3にとどまり、ショートプログラムでは互角だった5コンポーネンツも金を下回る出来。フリーの得点は97.25。総合得点も153.35と、完敗だった。

 今季は初挑戦のシニアで活躍し、グランプリファイナルまで制した彼女にとって、世界ジュニア出場はモチベーションという意味ではきつい試合だったといえる。

「シニアの方が伸び伸びできたけど、ジュニアだと1位とか表彰台に上がれる位置にいるので、ノーミスで優勝したいなという気持ちもあって……。ちょっと緊張したところはあると思います」

 という彼女は、シニアを席巻した明るさや可愛らしさ、伸び伸びとしたスケーティングを発揮できずに終わった。

 指導する山田満知子コーチも、こう言って完敗を認める。

「コーエンやスルツカヤの後だったら彼女のジャンプも見劣りしないけど、金選手の後では欠点が目に入ってしまう。去年からジャンプはすごいなと思っていたけど、それにもっと磨きがかかり、シニアの誰にもできないような美しさのあるジャンプになっている」

 思わぬ敗戦に真央は「小学5年で姉の舞に負けた時と同じくらい悔しい」と苦笑した。「同じ年で同じくらい上手な選手がいるというのは初めてで、しかも同じ月生まれと聞いてビックリしたけど、本当に上手だなと思いました。真央はたぶん、まだジャンプだけだと思うので、スピンでも回転数を数える余裕を持って滑れるようにしたいし、スパイラルやステップでももうちょっとレベルアップしていきたいなと思っています」

 だが考えてみれば、これまでほとんど悔しさを知らずに駆け上がってきた彼女にとって、この敗戦は貴重なものだろう。もちろん4回転にこだわる気持ちは、さらに進化をする上では重要なものだ。それを目指すのは当然だが、まだまだそれだけでは足りないものがあるということを、自分の肌で知った。さらに、同い年の強力なライバルの登場も、これからの彼女の進化の大きな糧になっていくはず。大きな教訓と、ともに成長し合うべきライバルを得たという意味でも、この世界ジュニアは彼女にとって貴重な大会になった。

「金選手のようなジャンプにして勝負しようとは考えていません。4回転も含め、違う形で勝負できるようにしたい。その上で今後は、この敗戦がいい試練だったと言えるようにしたいですね」

 と山田コーチは言う。まさに、そういう戦いがあってこそ、女子フィギュアスケート自体も進化していくものだ。

 試合後、知り合いの記者が「もしかすると来年の世界選手権はこのふたりが優勝争いをしているかもしれないよね。そういう意味では、真央ちゃんのおかげですごいものを見られたのかもしれない」と、ポツリと言った。

 この世界ジュニアに来た人たちは、新採点ルールになって大きく変貌を遂げようとする女子フィギュアスケートの、新たな出発点を目撃したのかもしれない。

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