SpecialColumn OTHER
松瀬学●取材・文 text by Manabu Matsuse
第46号(2006年1月12日)
【ソフトボール】夢実現へ意欲も新たに〜宇津木妙子、ソフト殿堂入り

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 ささやかなる「快挙」である。

 ソフトボール界の顔、シドニー、アテネ両五輪でソフトボール女子の日本代表監督を務めた宇津木妙子さん(52)=日立&ルネサス高崎総監督=が、国際ソフトボール連盟の殿堂入りを果たした。

 うれしいじゃないか。だって、日本人指導者としては初めてなのだ。

 師走某日。群馬県高崎市内のホテルで「祝う会」が盛大に開かれた。約200人のスポーツ関係者が集まり、まるで結婚式のような派手さだった。何に驚いたかといえば、シドニー、アテネ五輪の選手が全員、揃っていたことだ。師弟関係のきずなの強さ、これぞ指導者冥利に尽きるというものだろう。

 宇津木さんはあいさつで目から涙をぽろぽろっとこぼした。「この賞は周りの方々、選手のものです。わたしは選手に育てられてきました。感謝、感謝で、カンシャの嵐です」。ふとテーブルの周りを見れば、選手たちももらい泣きしているのだった。

 『努力は裏切らない』。そう念じながら、踏ん張ってきた。20年余、日立高崎(現日立&ルネサス高崎)を務め、3部リーグから2部、そして1部リーグに引き上げ、「常勝チーム」に育て上げた。たしかに中国人で日本に帰化した宇津木麗華という宝石を得たこともある。だが、やはり宇津木妙子さんの情熱と信念と指導力なくして、ここまで光り輝くことはなかった。

 日本代表としての功績もなんと、大きいことか。「マイナー競技ゆえの恥ずかしい思いを何度もしました。いつか見返してやろう、ソフトをいつかメジャーにしたいと思って、すべてを犠牲にしてきたつもりです」。アトランタ五輪ではコーチを務め、「一枚岩になる大切さ」を痛感した。監督となった2000年シドニー五輪では、決勝で米国に敗れた。

 あの雨中のサヨナラ落球である。銀メダルは複雑な味がしたものだ。「ほんと、いいチームをつくれました。決勝戦、もう少し早くピッチャーを替えていれば、金メダルを獲れたんじゃないか、と思います。選手には本当に申し訳なかった」。監督とは喜びは一瞬、悔しさは永遠なのか。

 でもソフトボールに脚光を集めた。マイナーから脱却したかに見えた。「ソフトをメジャーにしたい」という夢は膨らんだ。

 そして2004年アテネ五輪は銅メダルに終わった。世界で3番目なのだから、よくやったと思う。でも金メダルを期待していた一部のメディアやファンは冷ややかだった。連盟内部でも批判は出た。「いいチームから強いチームをつくりたい、とがんばった。でもどこかで自分が勘違いしていたのかな。選手には申し訳なかった。苦しい日々が続いた」。そう漏らすのだった。

 結果はともかく、そのプロセスは金メダルに値する。名物の「速射砲ノック」を通して、選手との信頼を築いた。そりゃ、選手をたたいたこともある。是非はともかく、それが宇津木さんのスタイルだったのだ。

 祝う会で、愛弟子の宇津木麗華さん(日立&ルネサス高崎監督)は言う。「わたしは妙子さんの背中をみて、育ってきました。いつか追いついてやると信じ、やってきました。がんばる気持ちを教えてもらいました」。殿堂入りと聞くと、どうも年寄りっぽくなる。「少し休んでいいですよ」と冗談で言ったら、妙子さんから怒られた。「何言ってんの。まだまだこれから」と。

 祝う会の最後、夫の幸男さんは宇津木さんに「彼女の努力は金メダルに値します」と特製の金メダルを贈った。聞けば、な、なんと、約200万円もする純金製である。

 もっともソフトボールの置かれた環境は楽観できない。2012年ロンドン五輪から除外され、マイナーへ逆戻りするかもしれない。殿堂入りは、「ごくろうさん」というより、「がんばれ」との激励なのだ。宇津木さんはソフトの顔として、ソフト振興に活躍してもらい、五輪復活への国際親善大使としての役割を担ってもらわなければいけないのだ。

 「まだ夢があります。夢に向かって、走り続けます。自分に負けたくない、いつまでも」と、宇津木さんは言うのだ。

 夢とは。「ひとつは北京オリンピックで日本が金メダルを獲ること。どんな形であれ、応援したい。そして、子どもたちに生きる力、夢を持ち続ける強い気持ちをつくってもらうこと」。すなわち、この閉塞感を打破し、元気な日本を醸成することである。

 宴が終わる。最後、教え子の五輪代表選手たちの手によって胴上げされた。紫のロングドレスが宙に舞った。「わっしょい、わっしょい」。じ〜んとくるではないか。

 ホテルの外に出れば、「ジングルベル〜、ジングルベル〜」の音楽が流れていた。サンタクロースのごとく、殿堂入りした宇津木さんは笑うのだった。「人生に夢があるのではなく、夢が人生をつくるのだ、やっぱり」と。

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