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西村章●取材・文text by Akira Nishimura
竹内秀信●撮影photo by Hidenobu Takeuchi

第72号(2008年9月3日)【MotoGP】ダニ・ペドロサのタイヤ変更の意味〜ホンダとBSの相性

ダニ・ペドロサがミシュランからブリヂストンへとタイヤをスイッチした。昨シーズンから苦戦を続けるミシュランのタイヤパフォーマンスが、今年になってもなかなか改善されず、ブリヂストンに圧倒的な差をつけられるレースが続いてきたとはいえ、シーズン途中のタイヤブランド変更など前代未聞である。

ペドロサのチームメイト、ニッキー・ヘイデンはシーズン残りのレースも継続してミシュランで戦うという意味では、ホンダワークスとミシュランの契約関係が継続するものの、今回のようなケースは異例中の異例だ。

ともあれ、次戦インディアナポリスからレプソル・ホンダのピットも、ヤマハワークス同様に2名のライダーのピットボックス間には間仕切りが設けられることになった。

今回の例に典型的な、昨シーズンから今年にかけてのミシュラン離れという現象を少し引いた視点から眺めてみると、現在のミシュランが抱えている問題の根幹はレギュレーション変更へ対応する技術力や開発能力の低迷などではなく、いわゆる経営手法でいうところのCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)に欠陥があるのではないか、という気もする。

顧客(この場合はライダーやチーム)満足度を向上させるための、個別ニーズに合わせた関係構築に失敗している、というわけだ。製品技術開発力の問題ではなく、顧客情報管理、製品情報管理、人材管理を含めたマネージメント手法一連の問題、と考えれば、タイヤ界の大巨人がここまで苦戦する理由にも納得がいく。

とはいうものの、それにしてもレプソル・ホンダとペドロサは思い切った決断をしたものだ。ミシュランでは思ったようなパフォーマンスを発揮できなかったとはいえ、ブリヂストンに履き替えたらいきなり誰にも追いつけないような走りを披露できる、というものでもないだろう。ペドロサの卓越した能力を前提にしても、ライダーのタイヤ特性に対する理解や、マシンとタイヤのそれぞれベストの性能を引き出すセッティングの合わせ込みなど、選手−タイヤ−マシンがそれぞれ順応して親和し、充分な力を発揮するまでには、普通ならある程度の時間を必要とする(だからこそ、各チーム各ライダーはシーズンオフのテストであれほど精力的な走り込みを行うのだ)。

あるいは、ホンダのバイクとBSのマッチングに関する限りでは、前戦ブルノでワークスマシンを支給された中野真矢が4位という好結果を出した事実が指標になる、という見方もあるかもしれない。しかし、あの場合は中野自身がカワサキ時代からBSユーザーとして充分な経験を積み重ねており、また、メカニックやエンジニアにもホンダ陣営で唯一のBS契約チームとしてデータの蓄積やノウハウがあって、スタッフ同士のコミュニケーション関係等がすでにできあがっているという前提のうえでの「“ぱっと乗り”でも表彰台寸前」という結果である。

それに対して、ペドロサ−レプソル・ホンダとBSは、まったくの初顔合わせだ。サンマリノGP後の月曜に行った事後テストでBS初乗りを実施したとはいえ、シーズンもここまで押し迫った段階でのタイヤ変更は、リザルトに結びつくまでの時間を考えればかなりリスクが高い、と考えるのが普通だろう。

リスクの高さに関していうならば、別の面での危うさもある。今回の選択の結果がシーズン残りのレースでどのようなリザルトに落ち着いたとしても、「そんなにまでして勝ちたいのか」「そらみろ、タイヤを替えたからってそんなに簡単に勝てるわけじゃないんだ」と、どのような方向からの批判も生む隙を作ってしまったことだ。

しかし、レプソル・ホンダとダニ・ペドロサは、そのようなリスクは当然、理解しているはずだ。それもこれもすべて承知のうえで、あえて今回の選択に踏み切った、と考えるべきだろう。その理由は、わずかとはいえチャンピオン獲得の可能性が残されている限り、そこに向けて全力を傾注する、というレーシングスピリットなのか、あるいは、来季以降のチャンピオン獲得を目指してハイリスク・ハイリターンを見込んだ布石なのか。

いずれにせよ、今回の出来事は、昨年から連綿と続くタイヤレギュレーションを巡る長い時系列の変動の中で発生したひとつの事象であり、彼らの選択が正解であったのかどうかという結論は、次戦インディアナポリスやシーズン終盤の数戦ではなく、来季以降に持ち越されるような気がする。


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