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西村章●取材・文text by Akira Nishimura
竹内秀信●撮影 photo by Hidenobu Takeuchi

第63号(2007年9月27日)【MotoGP】新王者の誕生とタイヤ戦争の行方〜日本GPレビュー

15戦8勝。うちポールトゥフィニッシュ3回。表彰台を逃したのはたった4戦で、もっとも低位に沈んだのが今回の日本GPでの6位。これほどの好成績を収めている選手がチャンピオンを獲得しないわけがない。

今シーズンのケーシー・ストーナー(写真)の圧倒的な速さはこれらの数字にも明らかだが、その走りがドゥカティとブリヂストン(BS)の完璧なパッケージバランスに支えられてきたこともまた、指摘するまでもない事実ではある。その意味では、今季の<ストーナー+ドゥカティ+BS>という組み合わせは、まさにゴールデン・トライアングルという呼称がふさわしいだろう。

ストーナーは、MotoGPにステップアップした06年から、ワークスマシンに乗れば自分は誰にも負けない、と公言してきた。

昨年は最高峰初年度で転倒も多かっただけに、その科白はやたら鼻っ柱の強い弁明ともとられがちだったが、今年の王座獲得で、自分の言葉が間違っていなかったことを証明した格好だ。

ドゥカティも、2002年6月にムジェロサーキットで翌年からの参戦を正式発表して以来、打倒日本企業を旗印に独自の設計思想で活動を続けてきたが、わずか5年間でその目標を達成してしまった。

短期間のうちに頂点を制覇したのは、BSも同様だ。以前にこのコラムでも触れたが(2007年5月10日)、4ストローク元年の2002年に、2ストロークマシンのカネモト・ホンダとプロトンKRで挑戦を開始し、それから6年でついにライバルのミシュランを凌駕するに至った。昨シーズン全17戦中4勝のBSが、今年は15戦終了段階ですでに10勝を挙げている。2007年の飛躍と卓越した内容は、もはや誰の目にも明らかだ。

そして、この圧倒的なパフォーマンスを前に、レース運営団体であるDORNAのCEO、カルメロ・エスペラータ氏から、日本GP開催中に来季のタイヤワンメーク化を示唆する発言が飛び出した。

この提言は、世界中のメディアやファンに様々な波紋を投げかけたが、まずはここに至るまでの経緯を整理しておこう。

今シーズンから採用されたタイヤレギュレーション(2007年1月26日)の導入以降、BSは破竹の快進撃を続けた。一方、シーズン前半から一向に向上しないミシュランの低いパフォーマンスに業を煮やしたライダーたちから、来季はBSを履きたいという不満が噴出する。

特にロッシは、チームに対して08年からBSへ鞍替えするよう強烈にプッシュをしたと噂され、ダニ・ペドロサもレプソル・ホンダに対して、契約更改の条件にBSへのスイッチを挙げているともささやかれていた。

これが彼らの率直な要望なのか、あるいはミシュランに奮起を促すためのブラフだったのかは不明だが、ともあれ、サマーブレイク開けの第12戦チェコGPと第13戦サンマリノGPでもBS勢はミシュランを圧倒した。

だが、BSへのタイヤ変更が噂されていたフィアット・ヤマハは、第14戦ポルトガルGPの直前に、来季も同じタイヤブランドで戦うと表明した。このときのレース結果は、優勝を飾ったロッシが最終ラップまでペドロサと熾烈なバトルを繰り広げる大接戦で、ミシュランの復活を予感させる内容だった。

その一方で、DORNAはタイヤ3メーカーに対して、来季はもっとコンペティティブな戦いができるようにレギュレーションを見直すことをかねてから要請しており、ミシュラン側から若干の登録本数増加案も出されたものの、最終的には変更しないことで3メーカーは合意に至っている。

ところがその矢先、日本GPが始まった金曜日の夕刻、ペドロサとレプソル・ホンダの2年契約更改が発表された席上で、HRC社長濱根眞澄氏が来季のレプソル・ホンダはペドロサの希望に従う形でBSと交渉中、と発表した。しかも、ヘイデンまでもBSを希望している、と濱根氏が明らかにしたものだから、パドックが大揺れに揺れた。彼からそのようなコメントを聞いたジャーナリストは、いままでいなかったからだ。

BSは、確かに以前、HRCからその依頼はあったがすでに断っている、と寝耳に水の話に困惑気味。ミシュランは全ワークスが他社ブランドになるなら撤退すると表明していることもあり、BSが一気に問題の矢面に立たされた格好になった。もちろん、撤退はミシュランにとっても本意ではなく、競合しながら開発レベルを向上させたいという考え方はBSやダンロップとも共通する基本姿勢だ。

そして、土曜の午後、もてぎで開催されたGPコミッションの席上で上記のエスペラータ氏発言に至る。

ちなみに、この日行なわれた予選では、圧倒的にBS優位という予測に反して、フロントローを独占したのは、ペドロサ、ロッシ、ヘイデンのミシュラン勢だった。特にペドロサは全セッションでトップタイムをマークし、優勝候補の筆頭と目されていた。だが、決勝日は天候が一転し、最後は冒頭に記したとおりBS勢が制覇するレースとなった。

それにしても、今回のワンメーク化を巡る騒動で、正当な企業努力を続けてきたBSが窮地に立たされてしまったのは、何とも皮肉な話だ。

上記のエスペラータ発言は、マレーシアGPまでに状況が改善されなければ、その状態を鑑みて最終的な結論をくだす、と締めくくられている。この言外の含みがBSワンメークであると読むのは、けっしてうがちすぎではないだろう。だとすると、本来は高騰する一方のコスト削減を大きな目的のひとつとして導入されたタイヤレギュレーションが、結果的に最も金のかかるワンメークに落着するかもしれないのだから、BSにとっては二重に皮肉な結果というべきだろう。

ところで、タイヤをBSのワンメークにするつもりならば、いっそのこと、マシンもドゥカティのワンメークにしてしまえばどうだろうか。

チャンピオンマシンとチャンピオンタイヤで一本化すれば、これほど平等な話はない。もちろん、サスペンションはドゥカティが採用しているオーリンズのみとし、制動系もブレンボのみを公式ブレーキとして、今シーズンKRにしか供給していないニッシンには撤退してもらう。そうやって条件をすべて統一すれば、表面上は完全にコンペティティブな環境ができあがる。

だが、それを世界最高峰のレースとは、誰も呼ばないだろう。


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