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西村章●取材・文text by Akira Nishimura
竹内秀信●撮影 photo by Hidenobu Takeuchi

第62号(2007年9月7日)【MotoGP】王座へ死角なし。ケーシー・ストーナーの圧倒的強さ

とにかく速い。強い。第12戦チェコGPは7.903秒差、第13戦サンマリノGPは4.851秒差での勝利である。サマーブレイクを挟んで3戦連続ポール・トゥ・ウィンを飾ったケーシー・ストーナーは、これでシーズン8勝目。ランキング2位のバレンティーノ・ロッシに85ポイントの差をつけ、今シーズンの王座を事実上、手中に収めた。

誰よりもぬきんでたコーナリングスピードを誇るライディングスタイル、圧倒的なトップスピードと馬力を持つドゥカティのマシンパワー、そしてレース終盤になってもタイムが落ちないブリヂストンタイヤのグリップ力と耐久性、これらすべてが完璧にかみ合って、今のストーナーはもう誰にも止めることができない。その強さは容赦がないというよりも、むしろ大人げないと形容した方がふさわしいくらい徹底的だ。

今回、第13戦の舞台となったミザノサーキットは、バレンティーノ・ロッシの実家からわずか10kmほどという、彼にとっては本当の地元サーキットだ。生まれて初めてレース用バイクに乗ったのがこのコースということもあって、特別な場所、という思いは誰よりも強い。

じっさい、観客席を埋め尽くした人々のほとんどがロッシファンといっても過言ではなく、どこを向いても黄色いシャツや帽子を身につけた人々が視界に飛び込んでくる。決勝前日には、故郷からファンクラブの面々が10kmの道のりをパレードしながらサーキットまでやってきた。

「誰も脱落せずにちゃんと到着できたようで、安心したよ」
と、予選を終えて5戦ぶりにフロントローを獲得したロッシは、笑みを浮かべる余裕も見せていた。それもそのはず、今回のヤマハはロッシのためにニューマチックバルブ(高回転を実現するために空気バネを搭載した仕様)エンジンを投入しており、
「ミザノはストレートが短いから直線でも差が出ないし、新しいエンジンは高いギアが特によくなった」
と、レースに向けた手応えを掴んでいた。

しかし、決勝レースではその仕様が仇になった。ストーナーを必死で追走していた5周目、突然のエンジントラブルからマシンがスローダウン、そのままピットインしてリタイアとなったのだ。会場を埋め尽くしたロッシファンの呆然と立ちつくす姿は、モニター越しからでもはっきりと見てとれた。もしエンジンが壊れていなければ、という“あり得なかった事実”の話をしても空しいだけだが、その場合でも果たしてストーナーに追いついていけたかどうかはきわめて疑わしい。

それほど、この日のストーナーは“いつものように”速かった。意気消沈してうなだれる観客に追い打ちをかけるように、周回ごとに後続との差を開き、平然と勝利を飾った。

だが、そんな結果を前に観客たち以上に激しく落ち込んでいたのは、当然ながら、ロッシ自身だった。

通常、ロッシはどんなに望ましくないリザルトのときでも、レース後に必ず定例の囲み会見を行なう。時間はそのとき次第でチームスタッフから適宜連絡があるのだが、今回ばかりは、スタッフから「今日はバレンティーノの会見はなしです。申し訳ありません」というSMSが届いたきりだった。

結局、ロッシは親しいイタリア人ジャーナリストとも顔を合わせず、さっさとサーキットを後にしたようだった。それくらいへこみまくっていた、ということなのだろう。

それにしても、今シーズンのストーナーの勝ちっぷりは圧倒的で、空気を読まないとはこういうことか、という気さえする。だが考えてみれば、ロッシが地元レースを無惨に打ち砕かれたのは今回が初めてではない。

第8戦のドニントンは彼にとって第二の故郷ともいうべきレースだが、そこでも優勝を奪われている。あるいは、ロッシだけではなく、ダニ・ペドロサとニッキー・ヘイデンも、それぞれ地元のカタルーニャとラグナセカで、ストーナーに木っ端微塵に粉砕された。

とはいえ、圧倒的に強いライダーが勝つときというのはえてしてそういうものだ。かつてミック・ドゥーハンが5連覇を飾った時代も、ロッシが制覇し続けた一昨年までの5年間も、容赦のない強さという意味では今と変わらない。ロッシの時代が退屈でなかったのは、空気を読む術に長けた天性の華やかさを彼が備えていたからだ。その意味では、ドゥーハンやストーナーのほうが鈍感、といえるのかもしれない。


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