竹内秀信●撮影 photo by Hidenobu Takeuchi
第60号(2007年7月30日)【MotoGP】昨年王者ニッキー&ホンダの追い上げはあるか──ドイツGP&USGP
ラグナセカサーキットを舞台とするUSGPは、過去二年、ニッキー・ヘイデンの独壇場だった。登りの左ブラインドコーナーを立ち上がって右へ切り返しながら急激に下っていく名物コーナー“コークスクリュー”を擁するこのトラックが、グランプリカレンダーに復帰したのは2005年。ヨーロッパのサーキットとはあまりにスタイルの違うコース攻略に多くのライダーが苦戦する中、ニッキーはAMA(全米選手権)時代に走り慣れた強みを生かして金曜日のフリープラクティスから圧倒的な速さを見せた。
予選では難なくPPを獲得、決勝レースでも周回ごとにぐんぐんと後続のライダーを引き離してポールトゥウィンを飾った。ホームコースでのグランプリ初勝利。父をタンデムしてウィニングラップを走行する姿は、微笑ましくも感動的なものだった。
翌2006年は前年のようなアドバンテージを活かせず、予選グリッドは6番手からのスタートとなった。しかし、決勝では前を走るライダーを周回ごとに追いつめて、トップに立つとそこからは一気に引き離して2年連続優勝。強さという意味では、初年度よりもむしろこのときのほうが、レース展開を読み切ったしたたかな戦いぶりを発揮したぶん、ライダーとしての成長を感じさせる内容だった。
そして今年のUSGPでも、ニッキーは優勝候補の筆頭とみなされていた。シーズン序盤はホンダのマシン開発が後手に回ったこともあって、低位に沈むレースが多かったのも事実だが、第9戦のアッセン(オランダ)では13番手スタートから追い上げて3位でフィニッシュし、今季初表彰台を獲得した。続く第10戦ザクセンリンク(ドイツ)でも14番手スタートから周回ごとにオーバーテイクを続け、またもや3位表彰台。
特にこの第10戦では、ニッキーのチームメイト、ダニ・ペドロサが優勝を飾っており、ホンダのマシン開発が上昇気流に乗り始めた様子も窺えただけに、前半戦の不振はようやく払拭できたのではないか、という印象も強かった。
ホームグランプリを目前に控え、流れは確実にニッキーのもとに傾きつつあるように見えていたのだ。ニッキー自身も、その手応えは掴んでいたようだ。
「去年はチャンピオンのかかった年だったから、すごくプレッシャーがキツかったけど、今年はもうそんなこともないからね。だから、この勢いを保ちながらラグナのレースに備えるんだ」
ザクセンのレース終了後、ニッキーは充実した笑みを浮かべてそう語った。
「ラグナは、家族が一同に集まる機会だし、友達も大勢やってくる。それに、ファンもたくさんかけつけて応援してくれる。もちろん、その期待には応えるつもりさ」
そう、ラグナセカには、本当にニッキーのファンがたくさん応援に来る。観客の多くが、ホンダの配布するニッキー応援プレートを手に携えて歩き、コースサイドに駐車したキャンパーには、星条旗とともにニッキー応援旗がはためいている。
金曜のフリープラクティスは8番手タイム。チャタリングやギアレシオの調整などに課題を抱えている、といいながらも、
「でも、すでにいくつかアイディアはあるんだ。明日はやることがたくさんあるよ」
と、さほど不安げな様子も見られなかった。
土曜の予選ではフロントローを確保したかにも見えたが、最後に他のライダーがさらに上回るタイムをマークして2列目4番グリッドから決勝レースを迎えることになった。
日曜日の朝は、去年や一昨年と同じように、雲ひとつない目の覚めるような青空が広がっていた。昨年のレースよりもグリッド位置はいい。3位表彰台を獲得した過去二戦と比べても、圧倒的に有利なポジションだ。直接声に出さずとも、ファンの期待は決勝時刻が近づくにつれ、少しずつふくれあがっていくようだった。
だが、午前のウォームアップセッション中盤、ニッキーは最終コーナーでフロントから切れ込んで転倒を喫した。即座にピットへ駆け戻り、スペアマシンで走行を続ける。
午後2時。シグナル消灯と同時にスタートを決めたニッキーは、チームメイトのダニ・ペドロサと前後してトップで1コーナーへ突っ込んでゆく。2コーナーで、ジョン・ホプキンスが転倒した。それに接触したニッキーは大きく順位を落とし、ほぼ最後尾へ下がってしまう。結局、このアクシデントが原因でフロントブレーキにトラブルを抱えることとなり、22周でピットへ戻ってレースを終えた。
レース終了後、ニッキーのコメントを求めてチームを訪ねた。イギリス人やアメリカ人のジャーナリストも、既にそこでニッキーを待っている。このようなリザルトでは話を聞く方も辛いが、話す方はもっと辛い。だが、控え室から出てきたニッキーは、いつもと変わらない笑顔を浮かべていた。顔ぶれをくるりと見回し、遠巻きにファンの姿もあるのを認めると、
「オーケイ。じゃあ、こっちで話をしようか」
そういって軽く頭を振り、背を向けて無人の部屋へ案内した。肩のあたりに、寂しそうな気配が残っているようにも見えた。
ところで、今回のレースではケーシー・ストーナー(ドゥカティ/ブリヂストン)が圧倒的な速さで圧勝を飾り、二位はクリス・バーミューレン(スズキ/ブリヂストン)、三位マルコ・メランドリ(ホンダ/ブリヂストン)と、ブリヂストン(BS)勢が表彰台を独占した。
ケーシーはレースに先立ち、フリープラクティスから予選、ウォームアップとすべてのセッションでトップタイムをマークしている。
ランキングトップを走るケーシー・ストーナーは、完全アウェイの地で、2005年のニッキーと同じことをやってのけたのだ。







