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西村章●取材・文 text by Akira Nishimura
竹内秀信●撮影 photo by Hidenobu Takeuchi
第52号(2006年11月2日)
【MotoGP】決着──バレンシアGP

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 まさかこのような形で決着がつくとは誰も予想していなかったのではないだろうか。

 シーズン後半になってバレンティーノ・ロッシの猛追を受けたものの、ニッキー・ヘイデンはポイント面でシーズンを終始優勢に進めてきた。だが前戦第16戦ポルトガルGPをノーポイントで終えたことでランキングトップの座から陥落し、8点差でロッシの後塵を拝する立場に追い込まれた。ポイント面だけではなく、精神的にもヘイデンはかなり不利な状況に追い込まれたといっていいだろう。

 相手はチャンピオン争いを何度も経験してきた、まさに魔王のような百戦錬磨の強者で、一方の自分はというと、生まれて初めてつかみかけたチャンピオンの座が一気に遠のきはじめているのだから。じっさい、ポルトガル以降、決勝レース前夜までは相当のプレッシャーであったことを、レースを終えてからヘイデンは正直に告白している。

 ロッシがチャンピオンを獲得するには、ヘイデンの前でゴールすればよい。ヘイデンがチャンピオンを獲得するためには、自ら優勝し、しかもロッシを三位以下に押しとどめておかなくてはならない。

 予選を終えて、PPを獲得したのはロッシ。ヘイデンは2列目5番グリッドについた。

 ロッシにとってさらに有利な、ヘイデンにとってさらに不利な状況だ。だが、レースがスタートすると、ヘイデンは早速トップグループにつけた。その前を走行するチームメイトのダニ・ペドロサが3周目にイン側を開けてヘイデンにラインを譲り、表彰台圏内へ順位を上げた。ロッシは少し遅れた7番手を走行していたが、こんな順位からの激しい追い上げは、今までいやになるほど何度も目にしてきた光景だ。まさにここから熾烈なバトルが始まると思われたその瞬間、5ラップ目2コーナーでロッシがスリップダウン。目の前に見えていた6連覇の夢をあっけなく自滅させてしまった。

 ヘイデンはその後の周回を大事に走って3位でチェッカー、ロッシの6連覇をストップし、990ccクラス最後の王者についた。

 それにしても、06シーズンは、開幕戦から最終戦まで予測を裏切る出来事の連続で、こんなにもめまぐるしく状況が二転三転したシーズンは近年では例がない。そして、今回の最終戦はそんなシーズンの推移を象徴するような、たくさんの見どころが凝縮されたレースになった。

 ヘイデンvsロッシという上記のチャンピオン争いはもちろんだが、スーパールーキーとして一年をおおいに盛り上げたダニ・ペドロサのストーリーも、大きな意味と内容を持っている。ペドロサは前戦ポルトガルで転倒を喫し、自らのチャンピオン獲得を消滅させただけではなく、図らずもヘイデンを巻き込んでチームメイトのチャンピオン獲得に黄信号を灯らせてしまった。そして、自らの失策で招来した事態への反省から、レース前には「決勝ではニッキーをヘルプするために、自分にできる最大のことをする」と公言するにいたる。

 ちなみに、レプソル・ホンダはポリシーとしてチームオーダーを指示していないが、レースでペドロサが見せた挙動はまさにヘイデンのチャンピオン獲得を後押しし、信頼に応えようとするものだった。チェッカー後のウィニングランで、ふたりはハイタッチにも似た握手を交わした。レース後にヘイデンは
「数年後に、ダニのチャンピオンがかかったレースがやってきたら、そのときは僕が彼を全力でヘルプしてやるさ」
 と少し声を震わせながら語っている。

 また、圧倒的な速さを見せて1−2フィニッシュを飾ったドゥカティも、語るべき内容に満ちている。なかでも、負傷欠場選手の代役として参戦したトロイ・ベイリスが2番グリッドを獲得し、しかも優勝を飾るなどとはまったく予想外の出来事だった。MotoGPワークスライダーとして参戦した03年と04年に3位表彰台を4回獲得しているベイリスは、今季、古巣のワールドスーパーバイクへ戻り、二度目のチャンピオンの座に就いた。

 今回のエントリーはある種のご褒美参戦、といったようなイメージもあり、口さがないジャーナリストたちは「今回はベイリスの優勝だあ!」と本気とも冗談ともつかない与太話を面白がって飛ばしていたが(かくいう自分もそのひとりだ)、レースが始まると圧倒的な速さで本当に優勝してしまった。しかも、ベイリスは今回のレースがブリヂストンタイヤ初体験である。これで驚かないほうがどうかしている。

 二位に入ったロリス・カピロッシは、3回の優勝を含む今季8回目の表彰台を獲得し、ランキング3位で一年を終えた。レースに「たら・れば」は不毛だが、これだけのパフォーマンスを披露したのだから、シーズン中盤の負傷さえなければ間違いなく最終戦までチャンピオンを争っていただろう。そして、彼らのハイパフォーマンスを支えたブリヂストンタイヤは、欧州初勝利となった開幕戦以来、今季4勝目。文字どおりミシュランの牙城に肉薄するシーズンとなった。来シーズンはホンダ内にも勢力を拡大する。

 そして、バレンティーノ・ロッシ。シーズン終盤の猛チャージで一度は諦めかけた6連覇に再び手が届こうとしていたが、最後はヘイデンにMotoGP5年間の完全制覇を阻止された。
「8ポイントをリードして最終戦を迎えたのにタイトルを逃してしまうなんて、とても残念だ。今シーズンは素晴らしいこともあったけど、悪運にも見舞われてついにはミスを犯してしまった。でも、レースとはそういうものさ。ニッキーは今季、だれよりも素晴らしい戦い方をした。だから彼がチャンピオンになったんだ。心から、おめでとう、といわせてもらうよ」

 27歳の前王者は、ウィニングラップでアメリカ国旗を掲げて走る25歳の新王者に自ら近寄り、手を差し出した。ヤマハとホンダのマシンに跨ったふたりは、コース上で固く握手を交わした。

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