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西村章●取材・文 text by Akira Nishumura
第47号(2006年7月5日)
【MotoGP】激戦と混沌──イギリスGP

 この時期、世界中の興味はサッカーW杯の決勝トーナメント一色である。MotoGPパドックでも、それは例外ではない。各チームのピット内でラップタイムを映していたモニターの画像は、午後のフリー走行や予選が終わると即座にサッカーのテレビ中継に切り替わり、プレスルームでも時間が来るとサッカーの映像が放映される。

 締め切りに追われる各国のジャーナリストたちも、自国の試合が行なわれているときばかりは手をとめてモニターを見上げ、試合の様子に一喜一憂して大声を上げる。プレスルームでは国籍同士で固まる傾向があるため、日によって歓声の起こる場所が違うのが面白い。

 特に今回のイギリスGPでは、MotoGPクラスの公式予選が行なわれた土曜にイングランドvsポルトガルの試合があったため、サーキット内のオーロラビジョンでも試合の様子は大写しにされた。レースを観戦に来た数万人の観客がサッカーを見て大声を上げる様子は、なかなか見られない壮観な眺めだった。

 さて、その第9戦イギリスGPでは、超弩級ルーキー、ダニ・ペドロサが今季2勝目を挙げた。金曜日のフリープラクティス1回目から圧倒的に調子が良く、予選でも安定した速さでPPを獲得。決勝レースでは序盤こそマルコ・メランドリにトップを許したものの、約3分の1を過ぎた12周目でトップに立つと、あとは一気に後続を引き離し、一時は7秒以上の差を開いた。最高峰クラス初年度にステップアップしたばかりの二十歳とはとても思えない、完璧というほかないレース運びだった。

 2位にはロッシ、3位にメランドリ。それぞれ、先週と先々週のレースで負った怪我を抱えた身で、完璧ではない体調ながら、2台は最後まで激しいバトルを繰り広げた。圧倒的なリードを稼いだペドロサの勝利が終盤で明らかになるにつれ、観客の関心はこのふたりのバトルに向けられ、最終ラップでインを差し合う激しい攻防にはサーキットじゅうが沸き立った。

「アッセンのレースが終わってから、ドニントンで全力で走れるように治療に専念した。このコースは第2のホームグランプリだから」というだけあって、表彰台でのロッシコールはすさまじかった。まるで優勝したかのような大騒ぎ。第2のホームグランプリというのもうなずける……。

 と書いてきてここでふと思い出したのだが、今回表彰台に上がった3人、じつは皆、イギリスで暮らしている。ロッシとペドロサがロンドン、メランドリはサーキットからほど近いダービーを生活の拠点とする。それぞれ、そこを選んだ理由は異なっているとはいえ、彼らは3人とも、このイギリスGPが第2のホームグランプリであることにかわりはない。なのに、ロッシひとりにこのような大声援があがる。

 恐るべき才能を見せつけた完璧な勝ち方で優勝したのは、弱冠二十歳のペドロサなのだ。大怪我を負った状態で信じられないような結果を出したのは、メランドリも同様だ。それでも、ロッシに声援があがる。

 ただ、その「華」は、結果を伴ってはじめて、世間から大きな耳目を集める。ペドロサの圧勝、そしてメランドリとの最終ラップまで続いた激しいバトルという今回のレース結果が示すように、スーパースターの独り舞台を脅かす新しい才能の脅威は、すぐそこまで迫っている。そういった要素すら、さらに自分の存在を引き立てる新たな小道具にしてしまうのか、それとも、ここから大きく時代が転回してゆくのか。近年稀な激戦が続く06シーズンは、ますます先の見えない混沌とした様相を呈している。

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