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西村章●取材・文 text by Akira Nishimura
竹内秀信●撮影 photo by Hidenobu Takeuchi
第43号(2006年5月26日)
【MotoGP】王者ロッシの不運──フランスGP

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 その瞬間、ルマンサーキットに押し寄せた7万6200人の観衆から嘆息とも驚愕ともつかないどよめきがわき起こった。

 21ラップ目の出来事だった。シーズン序盤から不運が続いたバレンティーノ・ロッシだったが、7番グリッドからのスタートとなった今回のフランスGPではあっという間にトップに立ち、後続のダニ・ペドロサに対し周回ごとに0.5秒ずつ差を積み上げていった。気がつけば2台のギャップは4秒以上に開いていた。圧倒的な速さを見せつけてぐいぐい引き離してゆく、典型的な勝ちパターンだ。誰もが王者の今季2勝目を疑わなかった。

 しかし、突然、エンジンが停止した。スローダウンし、コースサイドで完全に停止したマシンから降りたロッシは、肩を落とし、悄然と歩き去った。まさか自分がここまで運に見放されてしまうとは、思ってもいなかったにちがいない。

 どんなにピンチに追いこまれたときでも、今までの彼なら土壇場に逆転劇を演じて、ドラマチックな勝利を収めてきた。それが今年に限っては、まるで何かに魅入られたかのように次々とあり得ないトラブルばかりが彼を襲う。開幕戦ではオープニングラップの1コーナーでインから追突されて転倒。誰も予想しなかった14位に沈んだ。第2戦では優勝したものの、第3戦は4位。第4戦ではトップグループを追走中にフロントタイヤのトラブルでリタイアを余儀なくされている。そして優勝を目前にしながら突然のエンジントラブルでバイクが停止したこの第5戦。運を使い果たす、という表現がまさにぴったりくるほどのツキのなさだ。

「重要なのはマシンではなく、ライダーだ」
「速いのはホンダのマシンではなく、自分であることを証明するために、ヤマハに移籍したんだ」

 昨年までなら、けれん味たっぷりの格好良い台詞だったこれらの言葉も、悪運続きの現状では、自分自身への面当てのような響きすら感じさせてしまうのは、なんとも皮肉な話だ。

 しかし、バレンティーノ・ロッシがこのままで終わるはずがない。次の第6戦はホームグランプリ、地元イタリアGPだ。最高峰クラスが現行レギュレーションになった2002年以来、ムジェロサーキットのレースでロッシは毎年優勝を飾っている。ここまでの悪い流れを一気に断ち切るべく、持てる能力のすべてをこの一戦に集中させることは間違いない。

 ヤマハも、このレースは絶対に落とせないと痛感している。
「ムジェロのレースだけは負けられません。ここでバレンティーノを勝たせることができなければ、私たちはサーキットから出られなくなっちゃいますから」

 かつて、ヤマハのあるエンジニアが冗談まじりでそんなことを言っていたが、もはや事態はそんな余裕を許さない。乾坤一擲の勝負になることは明らかだ。フランスGPで今季2勝目を挙げたホンダのマルコ・メランドリや、ムジェロにほど近いボローニャに拠点を置くドゥカティのロリス・カピロッシという絶好調のふたりにとっても、ムジェロはホームグランプリになる。

 第6戦イタリアGPは、グランプリ史に残るレースになるかもしれない。



 ところで、今回のフランスGPでは250ccクラスで日本人選手が大活躍した。兄・青山博一と最後まで熾烈なバトルを演じた弟の周平が、フル参戦5戦目ながら初表彰台の3位に入り、参戦2年目の高橋裕紀が初表彰台にして初優勝を飾った。ともにホンダスカラシップを獲得してグランプリに参戦する選手で、高橋は2期生、周平は3期生となる。

 とくに、今シーズンの高橋は昨年1年を通じて学習した経験を活かして開幕以来トップ争いを続けながら、いつも惜しいところで表彰台を逃してきた。
「今はどうしても表彰台、優勝がほしいんです」そう言っていた高橋は、予選終了後に「ピットに戻ってきたとき、フロントローでいいのかな、と思ったくらい」と、決勝に向けた手応えを掴んだ様子だったが、日曜日のレースではその言葉どおりに最終ラップの最終コーナーでチームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーソに競り勝った。この勝利は間違いなく、大きな自信になるだろう。そしてこれを契機に、今後一気に才能を爆発させそうな勢いも感じさせる。敗れたドヴィツィオーソも、レース後には笑顔を浮かべ「Oggi, Yuki, molto molto bravo!!(今日のユーキはとてもすごかったよ!)」と、激しかったバトルに爽やかなエールを送った。

 その高橋裕紀と、予想外の初表彰台にバイクのシートをたたいて無邪気に喜ぶ周平。惜しくも表彰台争いに敗れて4位に終わりながら、沈着冷静に弟を祝福する兄・博一。日本人選手の将来は明るいかもしれない。

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