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西村章●取材・文 text by Akira Nishimura
竹内秀信●撮影 photo by Hidenobu Takeuchi
第42号(2006年5月17日)
【MotoGP】地勢図は書き換えられるのか──中国GP

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 12周目、ダニ。14周目、ニッキー。15周目、ニッキー。16周目、ダニ。そして19周目、ダニ、1分59秒318。59秒台で走行を続けているのは2台のレプソルホンダのマシンのみで、彼らは周回ごとに互いに最速ラップを更新しながら、後続をぐんぐん引き離していく。最後は、3番手を走るヤマハのコーリン・エドワーズに15秒の差を開いて1−2フィニッシュを決めた。

 上海で行なわれた第4戦中国GPでポールトゥフィニッシュを飾ったダニ・ペドロサは、最高峰クラスデビューわずか4戦目の勝利。2位のニッキー・ヘイデンはこれで8戦連続表彰台となり、ランキングトップを走る。一方、5年連続チャンピオンのバレンティーノ・ロッシは、13番グリッドのスタートから怒濤の追い上げで4番手まで迫ったものの、トップ2台がファステストラップの更新合戦を繰り広げていた15周目にタイヤトラブルでピットイン。リアタイヤを交換して再スタートを果たしたものの、問題の発生源はフロントにあったことが判明し、リタイアを喫した。

 20歳のスペイン人と27歳のイタリア人。経済的な事情から一度はロードレースの道を諦めかけたものの、才能を見いだされて125ccと250ccクラスを制し、あっという間に世界最高峰へ駆け上がった寡黙な若者と、「重要なのはマシンではなくライダーである」ことを証明するためにホンダからヤマハへ移籍し、いくつもの不可能事を次々と可能にしてきた陽気な世界王者。

 対照的なふたりの、あまりに対照的な今回のリザルトに明らかなように、MotoGPの地勢図は、いま再び大きく書き換えられようとしている。

 2003年末にロッシがホンダからヤマハへの移籍を発表して以来、MotoGPの中心軸はその動きをトレースするように、ホンダからヤマハへ移ったように見えた。レースそのものの内容はもちろん、パドック内外のありとあらゆる話題は、常にロッシを中心に動いた。ホンダで3連覇、ヤマハで2連覇を達成し、今季も同じような展開が続くなら、巷間噂されているF1へのスイッチは、もはや時間の問題のようにも見えた。

 しかし、事態は思ってもいない方向に大きく動きはじめている。

 ポテンシャルの高さは折り紙付きとはいえ、ダニがこんなに早く結果を出し始めるのも予想外なら、プレシーズンにあれほど好調だったロッシが坂道を転がるように落ちていくのも予想外だ。深刻なチャタリングに悩まされたかと思えば、晴天の霹靂のような追突を食らって転倒。なかなか解決しないマシンの問題を超越的な技術でカバーすると、今度はタイヤにトラブルが発生する。96年の125ccクラスデビュー以来、運さえも自分の味方につけてきたロッシにとって、ここまで何もかもが上手くかみ合わないシーズンを経験するのはおそらく初めてではないだろうか。

 一説によると、6月上旬にムジェロサーキットで開催されるイタリアGPで来季の去就を明らかにするとも言われていたのだが、このままの状態が続くなら、来季F1へスイッチすることはまずないと考えていいだろう。彼がF1へ移籍する最大の理由は「モチベーションの維持」だったはずだからだ。また、彼の性格を知る者なら、打ちのめされたまま逃げ出すように別カテゴリーへ移籍することがあり得ないことも、容易に想像がつく。陽気に見える表情の陰には内省的な相貌が隠れている。華麗な天才という姿は、周到な計算や知謀、努力という表面上には姿を現わさない要素に支えられている。“陽気で無邪気な世界チャンピオン”は、バレンティーノ・ロッシというイタリア人がしたたかな演出で自ら創造した偶像なのだ。

 しかし、F1への移籍がないだろうという話は、あくまでも今の状態が続くことを前提にしている。もし、ここから怒濤の反撃が始まって、劇的な逆転6連覇でも達成しようものなら、F1移籍への最高の伏線になる。そんなことにでもなれば、彼の美学と照らし合わせても、最高にスペクタクル(Che spettacolo)な状況だ。とはいえ、果たして今後、そのような急展開を見せるのかどうかは、それこそ、神のみぞ知る、だ。

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