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西村章●取材・文 text by Akira Nishimura
竹内秀信●撮影 photo by Hidenobu Takeuchi
第37号(2006年2月22日)
【MotoGp】ケニー・ロバーツ親子〜挑戦する志と意欲

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 それは、勝つことのみに拘泥しているとつい見失ってしまうものなのかもしれない。

 プレシーズンの合同プライベートテストでのケニー・ロバーツJr.を見ていると、スズキ時代には否応なく自分の両肩にのしかかっていた「世界チャンピオン」「エースライダー」という重圧から解き放たれて、じつに楽しそうに走行する姿がとにかく印象的だ。おそらくここ数年忘れていたバイクに乗る愉しさを、今は心の底から満喫しているように見える。

 99年から7年間在籍したスズキを去ったケニー・ロバーツJr.は、今シーズン、父ケニー・ロバーツの運営するチームKRへと移籍した。スズキ時代には2000年に世界チャンピオンを獲得しているものの、それ以降はずっと苦しいシーズンを過ごし、不本意な成績が続いた。昨シーズンも、表彰台を獲得したのは雨の第9戦ドニントンパーク(イギリス)で2位に入った一回こっきりで、年間ランキングでも13位という成績に沈んでいる。一説によれば、ケニーJr.はこのドニントンの決勝レース前に、すでに06シーズンの契約更改は行わない旨をスズキ側から通知されていた、ともいわれている。その真相はともかく、06シーズンの彼に参戦する可能性があるとすれば、残されたシートはおそらく父、ケニー・シニアのチームKRしかないのではないか、というのが当時の噂だった。

 その父のチームもまた、苦難の道を歩んできた。

 70年代後半からヤマハで活躍して3連覇を達成し、“キング”ケニーの称号で呼ばれるケニー・ロバーツは、現役引退後も、監督としてヤマハワークスチームを率いてきた。しかし、97年からは2ストローク3気筒のオリジナルマシン“モデナスKR3”で日本のワークス勢に対抗しようとチームKRを旗揚げ、新たな挑戦を開始した。メインスポンサーのモデナスはその後プロトンへと引き継がれ、4ストローク時代に入ってからも独自設計のV型5気筒マシンで参戦を継続した。05年シーズンには、オリジナルフレームにKTMが供給するV4エンジンを搭載する形へとパッケージが変更。ところが、第10戦終了後にKTMが突如MotoGPクラスからの撤退を表明、その結果、心臓を喪ったチームKRもシーズン後半戦の放棄を余儀なくされた。

 しかし、ケニー・シニアは諦めなかった。ホンダとのねばり強い交渉が実を結び、RC211Vのエンジン供給を受けることに成功、オリジナルフレームにホンダ製エンジンを搭載したマシンは、その名も新たにKR211Vとして復活を遂げた。

 1月のセパンサーキットでヴェールを脱いだKR211Vは、各国の報道陣から大いに注目を集めた。タイヤもポテンシャルの高いミシュランに決定し、ピット内の雰囲気もここ数年にない活気が溢れていた。

 この1月のテストでは、旧型フレームにRC211Vエンジンが搭載されている。
「ものは試しでフレームにエンジンを乗せてみたら、スポッと入ったんだよ」
とケニー・シニアは冗談めかして笑ったが、その笑顔は、かつてオリジナルエンジンの出来を訊ねられたときに「まあ、船の碇として使うには充分優秀なエンジンだと思うけどな」と自虐的なネタを披露していた頃と違い、遙かにポジティブな雰囲気を感じさせた。

 このテストで、ケニーJr.はスズキ時代の鬱屈が嘘のように初日から積極的な走り込みを続け、他のサテライトチームを凌ぐタイムをマークしている。

 続くフィリップアイランドでは、初日の走行を終えたケニーJr.が、充実した笑みを浮かべながら生き生きと話した。
「テスト三日目には新しいフレームを試すかもしれない。今のフレームよりも剛性面が改善されているようだから、愉しみなんだ。ワークショップ(イギリス)では、さらに新しいのも製作中という話だよ」

 2月のセパンテストでも、チームやライダーのモチベーションは高く、3月上旬のIRTAテストに向けて着々とメニューを消化している様子がありありと窺えた。今のチームKRは、とにかく全員が溌剌としている。

 もちろん、チームの総合力やマシンのポテンシャルは、プライベート体制のチームKRよりも純ワークスであるスズキのほうが勝っていることは疑いようがない。今シーズン、チームKRやロバーツJr.が優勝争いに加わる可能性は、限りなくゼロに近いだろう。そのかわり、今の彼らは、挑戦する志と意欲、バイクを操る愉しさという、何物にも代え難いロードレースの宝物を手にしたように思える。

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