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川喜田研●取材・文 text by Ken Kawakita
桜井淳雄●撮影 photo by Atsuo Sakurai(BOOZY.CO)

第65号(2008年5月21日)【F1】スーパーアグリ撤退〜佐藤琢磨の去就

「佐藤琢磨、ルノー入りの可能性!」トルコGPの翌週、フランスのモータースポーツ専門誌“オト・エブド”が報じたニュースが注目を集めている。今季からルノーに加入したルーキー、ネルソン・ピケ・ジュニアの成績に強い不満を抱くルノーの首脳陣が、ピケに代えて琢磨の起用を検討。現在、GP2シリーズに参戦中のフランスの若手ドライバー、ロマン・グロジャンと共に、この夏のテストで琢磨を乗せるのではないかというのだ。

スーパーアグリのF1撤退により、シーズン途中でシートを失うことになった琢磨については、ホンダが「できる限りの支援をしたい」(大島裕志モータースポーツ担当執行役員)とコメントしたため、「ルーベンス・バリチェロと入れ替えでホンダから復帰」というシナリオを期待しているファンは少なくない。だが、今季からチーム代表に就任したロス・ブラウンが琢磨の起用をすんなり認めるかといえば話は別だろう。

ロス・ブラウンとバリチェロはフェラーリ時代から強い信頼関係で結ばれており、少なくとも今シーズン途中からドライバーの入れ替えと受け入れるとは考えにくい。また、トルコGPで最多出場記録を更新したベテランのバリチェロも「インディカー転向など全く考えていない、あと2〜3年はF1で戦うつもりだ」とコメント、「ロスがチームに来たことですべてが良くなりつつある。2009年にはコンペティティブな戦いができるはずだ」と来期への期待を隠していない。そのため、バリチェロに代えて琢磨を起用できるかはロス・ブラウンの判断次第ということになる。

もちろん、ホンダ本社が強力にプッシュすれば2009年から琢磨をホンダに復帰させることは可能なはずだ。だが、問題はホンダの本社サイドがどこまで「ホンダF1チーム」(HRF1)をコントロールできるか? という点にある。

2005年末に琢磨を切ってバリチェロを獲得した時も本社サイドの意思は必ずしも明確ではなかったし、そのバリチェロのパフォーマンスが「期待外れ」であったにも関わらず、昨年もドライバーの移籍市場がまだ流動的だった時点でバリチェロとの契約を早々と更新してしまった。

スーパーアグリという弱小チームで、昨年前半に2度の入賞を果たした琢磨の健闘を考えれば、この時点で2008年からのワークスホンダ復帰を検討しても良かったはずだが「バリチェロは豊かな経験とマシン開発能力があり、他に有力な候補もいない」(ホンダ関係者)とその理由も実に消極的。

今回、トルコGPの現場に赴き、琢磨の今後についてチーム関係者と話し合いを行なったという大島執行役員のコメントが「簡単ではない……」といまひとつ歯切れが悪いのも、こうした難しい状況を反映していると考えていい。

個人的な気持ちを言えば、バトン+バリチェロのコンビを漫然と続けるようなドライバー戦略は今年で終わりにしてほしいと思う。移籍以来、期待はずれ(というか、実は初めからあまり期待していなかったが……)のバリチェロはもう要らないし、後生大事に抱えているバトンにしたところで、彼が未だに本当のトップドライバーと言えるのかと言えば、大いに疑問が残る。

バリチェロを乗せるぐらいなら琢磨に代えろというのは、決して無理な注文ではないし、他に有力な候補がいないならホンダはそうするべきだと思う。

だが、本当にルノー移籍の可能性があるならば、むしろそっちを見てみたいというのが僕の本心だ。

中嶋悟のデビューから20年間、僕は日本のF1ドライバーが日本の自動車メーカーのしがらみから離れ、ひとりのドライバーとしてトップチームに評価される日が来るのを待っていた。仮に、琢磨のルノー入りが実現すれば、日本人ドライバーとして初の快挙であり、琢磨の本当の価値が認められたことを意味するとい言っていい。

ルノー入りのウワサの真偽は分からないが、少なくともそうしたウワサが出ること自体、苦しい状況の中、全力で戦ってきた彼の評価がこの2年で確実に上がっていることを証明している。

いずれにせよ、他の日本人ドライバーの追随を許さない努力とプロフェッショナルな姿勢を貫いてきた琢磨には何としてもF1に復帰してほしいし、彼が「ホンダ」を卒業し「親離れ」できるなら更に素晴らしいと思う。

そして、今、トヨタの支援で戦っている中嶋一貴や、将来F1に上がってくるだろう小林可夢偉も、将来はトヨタの枠を離れて、ひとりのF1ドライバーとして活躍できる存在になってほしいと切に願う。その時こそ、日本のF1が本当の意味で世界に追いつき、またF1が日本に定着できる気がするのだ。


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