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川喜田研●取材・文 text by Ken Kawakita
桜井淳雄●撮影 photo by Atsuo Sakurai(BOOZY.CO)

第63号(2008年3月21日)【F1】中嶋一貴、開幕戦でポイント獲得〜オーストラリアGP

開幕戦で早くも3ポイント獲得!

ウイリアムズのレギュラードライバーに昇格して初めてのレースとなるオーストラリアGPで見事6位入賞を果たした中島一貴。その戦いぶりはいろいろな意味で実に「カズキらしい」内容だった。

金曜日のフリー走行開始から、セッション後は常に大勢の日本人報道関係者に囲まれてニコヤカに取材対応。F1ドライバー生活の記念すべき第1歩を踏み出したこの日も、冷静に周囲と自分を見つめるいつものスタイルは変わらない。

それでも、「1年前に金曜日のテスト走行だけした時とは違う、プレッシャーは感じています」というコメントにちらりとのぞかせる緊張感……。それを肌で感じられただけでも、オーストラリアまで開幕戦の現場を見に行って良かったと思った。

フリー走行から土曜日の予選までに見せたアプローチも、実にカズキ流だ。

「メルボルンのコースをドライコンディションで走るのは初めて」ということもあり、初めは無茶をせず慎重にタイムアップ。

だが、今年の具体的なターゲットと自身が決めているチームメイト、ニコ・ロズベルグのタイムは常に意識しているのだろう。フリー走行3回目の予選アタックシミュレーションで、ニコがベストタイムを叩き出した後、中嶋もコースに入るとセクター1とセクター2の区間タイムで自己ベストをマークして、最終のセクター3へ「どこまでニコに迫れるか?」と緊張しながらモニターを見つめていたら……残念! 12コーナーでコースを飛び出した中嶋のウイリアムズがモニターに映し出された。

「11、12コーナーはまだ攻めきれていませんね。最後はちょっと攻めたら飛び出しちゃいましたけど、あれで限界がつかめたし、マシンにもダメージはなかったのでいい経験だったと思います」と冷静に振り返るカズキだが、穏やかな表情よりははるかに「勝気」な内面と、このように「攻めて」失敗しても、マシンを壊さないあたりがまた彼らしい。

ちなみに、ここでムキにならず、きちんと修正して予選に臨めたのもカズキ流。もし、午前中最後のアタックで飛び出さずに、うまくセクター3もまとめられていたら別の展開もあったのだろうが、きっちりと予選第1セッションを通過したら、予選第2セッションでは無理やり攻めることはせず予選14位。チームメイトのニコは7位だが、この状況ではそれをあまり意識せず「アグレッシブなカズキ」よりも「現実派のカズキ」が前に出る。

そう、このように「アグレッシブ」な面と「新人らしからぬ冷静さ」を併せ持ち、その両面を上手に使い分けられるのが、中嶋一貴というドライバーの面白さなのだ。

そして翌日、日曜日の決勝レースも彼のこうした両面性が現れた、これもカズキらしいレースだった。スタートで前のクルマのスピンに巻き込まれてウイングを破損して、予定外のピットイン。

「いきなりドベに落ちてしまいました」という中嶋だが、そこから落ち着いて追い上げを開始。前を行くルノーのネルソン・ピケ・ジュニアを追い抜き、佐藤琢磨のテールに迫りながら、着実にポイント圏内へと近づいてゆく。特に良かったのがピットストップ後のソフトタイヤの使い方で、実質的な1ストップ作戦による長い第2スティントでタイヤの磨耗を気遣いながら、安定したペースを刻み続けた「大人のドライビング」が今回の好結果につながった最大の要因だったと思う。

展開的にみれば意外と地味で、もちろん、荒れた開幕戦でリタイアやアクシデントが多かったのも事実だろう。その中で粘り強い走りを続け、ジワジワと順位を上げる……、これこそあの古館伊知郎が名付けた父、中嶋悟直伝?の「納豆走法」である!

だが、ココで終わらないのがこれまたカズキ流、2度目のセイフティカーが入ったレース終盤、前をゆくロベルト・クビサに追突してBMWを「撃墜」、自身も再びノーズを破損して予定外のピットインである。

それでもなんとか7位でゴール。レース後、前にいたバリチェロ(ホンダ)の失格で6位に昇格した強運も彼らしいが、クビサとの事故ではペナルティを食らい「マレーシアGP予選順位で10番手降格」という余計なオマケまで貰ってしまうあたり「納豆」と呼ぶにはややホット&スパイシーなのである。

「クビサとの事故は、前との距離をちょっと見誤ったというか……、本音を言えば、ちょっと欲をかいたなってトコもありますね」と苦笑いのカズキに、ウイリアムズチームの重鎮、パトリック・ヘッドは「まぁいろいろ賑やかなレースだったが、2台そろって入賞もできたし良かったよ。カズキは失敗しても、そこから学んで進歩している力がある。多少ゲンキなのも若いうちはいい事さ(笑)」とご満悦だ。

これからどんどんと経験を重ねていく中で、中嶋がもっともっと「いいレース」ができるチャンスはたくさん巡ってくると思う。だから僕は6位入賞というだけで、あえて大騒ぎしようとは思わないし、それはカズキ自身が一番感じていることだろう。だが冷静さと熱さを兼ね備えた彼の魅力の片鱗は、メルボルンの週末でもしっかりと感じられることができたことは確かだ。

そしてウイリアムズという素晴らしいチームから本格的なF1ドライバーとしてのキャリアをスタートできることや、そのウイリアムズが久々に戦闘力のあるマシンを作り上げたこと、そして、完走わずか7台のみという「荒れた」展開の中で、中嶋がきちんと最後まで生き残り、緒戦を6位入賞という結果につなげられるあたりに、彼が持つ「強運」の星を感じずにはいられない。

「何だか面白いことが始まりそうだ……」彼を見ながら、素直にそう感じた2008年F1の開幕戦だった。


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