桜井淳雄●撮影 photo by Atsuo Sakurai(BOOZY.CO)
第61号(2007年10月30日)【F1】最終戦ブラジルGPでライコネンが逆転優勝〜シーズン総括
ウイニングランで(珍しく)ガッツポーズを見せる新チャンピオン、キミ・ライコネンの姿を見ながら、何だか「肩透かし」をくらった気持ちになった。
いや、ライコネンに何か文句があるわけじゃないし、最後まで何が起こるかわからないのがレースなのだから、こんなシーズンの幕切れだって、当然あり得えたはずなのだ。だが、それでも「あれぇ……」という印象を受けてしまうのは、最終戦に臨むこちらの気持ちがどうしても「ハミルトン対アロンソ」という構図に集中してしまっていたせいだろう。
僅か1ポイント差で決まった今シーズンのチャンピオン争いだが、優勝回数を比べればライコネン6勝に対してハミルトン、アロンソが共に4勝。意外なようだが終わってみればシーズン最多の勝ち星を挙げたのはライコネンだった。
ハミルトンとアロンソの対決に注目が集まる中、一時は消えかけたタイトルへの可能性を粘り強く繋ぎ続けてきた彼の姿勢が、最後の最後でこの逆転劇を生んだのだ。
チャンピオン決定の翌日、あるフィンランドのジャーナリストは「森の中から出てきたライコネンがそーっとタイトルを持っていった」と、いかにもフィンランド人らしい、やや脱力系の言葉で喜びを表現していたが、マクラーレン時代、マシンの信頼性不足に悩まされ、僅か2ポイント差でタイトルを失ったこともあるライコネンが、この大舞台でハミルトンを襲ったマシントラブルにも助けられて逆転を決めたというのも、何か「因縁」のようなモノを感じずにはいられない。
今回、三つ巴のチャンピオン決定戦となったブラジルGPでもポイントになったのは、ふたりのドライバーが争うマクラーレンと「チームプレイ」を徹底させたフェラーリの対照的なアプローチだ。レースを見れば分かるように、マッサに次ぐ2番手はライコネンにとっていつでも「優勝」に変換できるポジションであり、そこにプレッシャーはない。
マクラーレン優位のポイント状況の中、ライコネンに残された可能性が小さかったからこそ、フェラーリはその実現に向けて、ふたりのドライバーがチームプレイに集中することができ、それが結果として今回の逆転を実現させたのだ。
一方、マクラーレンはポイント上もハミルトンとアロンソが激しいタイトル争いを展開していた上に、8月のハンガリーGP以降はナンバー1待遇を受けられないアロンソの不満が爆発し、チームとの関係が決定的に悪化、そこに一連の「スパイ疑惑」に関してアロンソの発言がFIAの厳しい処分の引き金になったことなども明らかになり、チーム内は無用な緊張感で満たされていた。
以前の「セナ・プロ対決」のように、ふたりのドライバーがコース上でクラッシュするような事態にはならなかったものの、こうした「内部抵抗」がなければ、今シーズンのタイトル争いはマクラーレンにとって遥かに有利な形で進んでいたに違いない。
だが、マクラーレンはどうするべきだったのか? と言われると、僕にはその答えはわからない。フェラーリのようなチームプレイを行なうため、チャンピオンのアロンソを初めから「ナンバー1」として遇していれば、チャンピオンを獲得できた可能性は高かっただろうし、ハンガリーGPで起きたような内紛がなければ、「スパイ疑惑問題」でFIAが新証拠として示したアロンソのEメール流出もなく、マクラーレンがコンストラクターズタイトルを失うこともなかったかもしれない。
F1の歴史を振り返れば、ふたりのドライバーが「チームプレイ」を行なった例も多く、現実的に考えれば有効な手段なのだが、F1が多くのチームスタッフに支えられながらも、最後は「個人戦」であると考えている筆者は、ふたりのドライバーにチャンピオンの可能性がある限り「ガチンコ」での勝負を優先したマクラーレンの姿勢を批判する気にはなれないのだ。
もちろん、シーズン中のアロンソが言っていた通り、レースの世界で「完全なイコールコンディション」などあり得ない。僅かとはいえマシンにもエンジンにも「当たり外れ」があるし、どんなに神経を使ってふたりのドライバーを平等に扱おうと思っても、チームスタッフの「気持ち」を完全に掴んでいなければ、彼らから100%のサポートを引き出すことは不可能だ。
マクラーレンから「チャンピオン」に相応しい待遇を期待していたアロンソが、イギリスの期待を一身に集めた「超大物ルーキー」であるチームメイト、ハミルトンの存在にある種の危機感や「嫉妬」にも似た感情を抱いてしまうのも、様々な意味で依然として「イギリス中心」な側面が多いF1の現状を考えれば分かる気もする。
だが、そうした複雑な条件を含めて、いかにチームのサポートを自分に向けさせるのか? といった「求心力」もまた、ドライバー個人の戦いの一部だと考えれば、今シーズン、マクラーレンのふたりが繰り広げたガチンコの戦いは本当に見ごたえがあり、それを許したロン・デニスの姿勢を僕は支持したいし、まさにその点にこそ、今シーズンの面白さの中心があったように思う。
「我々はタイトルを逃したが、それが自分たちのスポーツ的なアプローチの結果であることを誇りに思う」というロン・デニスの言葉もあながち負け惜しみではないだろう。
ならば……最後にひとつだけ注文がある。この期に及んで、ハミルトンの逆転タイトルにつながるような「抗議」をFIAに提出するのは止めて欲しかった。レース後、BMWとウイリアムズの4台に燃料規定に関する違反(レギュレーションの規定よりも燃料の温度が低かった)が発覚し、6時間に及ぶ審議の結果、一旦は「お咎めなし」の裁定が出たのだが、この判断を不服としたマクラーレンがFIAに抗議を提出。
後日、パリで行われる国際抗議法廷でもし、4位入賞のロズベルグ(ウイリアムズ)と5位、6位のクビサ、ハイドフェルドが失格になれば、ハミルトンが繰り上がりで4位となり、逆転でドライバーズチャンピオン獲得……というコトになってしまうのだ。
これまでの流れやマクラーレンとFIAの決して良好とはいえない関係を考えれば、パリでの審議でチャンピオンが入れ替わるような裁定が出るとは考えにくいが、ついに決着した今シーズンのタイトル争いが、こうした形で「ペンディング」となっているのは、何とも後味が悪く、ハミルトン自信も「こんな抗議でチャンピオンにはなりたくない」とコメントしている。
フェラーリのコンストラクターズタイトルが「スパイ疑惑」によるマクラーレンのポイント剥奪で決まっただけでもウンザリなのに、ドライバーズタイトルまでが「法廷」で決まるような事態になれば、最もダメージを受けるのはF1そのものだ。コース外のゴタゴタはもうウンザリ……、誰もがそう思っているはずなのだから。






