桜井淳雄●撮影 photo by Atsuo Sakurai(BOOZY.CO)
第58号(2007年7月17日)【F1】記録を更新し続けるスーパールーキー、ルイス・ハミルトン
「今シーズン初めて、レース中に“ミス”を犯したわけですが、今回はいつも以上にプレッシャーを感じていたということですか?」地元期待のルイス・ハミルトン(写真)が3位に終わったイギリスGP後の会見で、記者にこう聞かれると、ハミルトンは次のように答えた。
「今回が初めてのミスだとは思っていません。これまで何度もミスをしているけど、みんながそれに気付いていないだけですから……」
このやり取りはある意味、現状をとても分かりやすい形で反映しているように思う。地元、イギリスのシルバーストンでは残念ながら優勝を逃し、キミ・ライコネン、フェルナンド・アロンソに次ぐ3位に終わったハミルトンだが、それでも開幕戦からの連続表彰台記録を9に更新!
マクラーレンが好調なときはもちろん、そうでないときもキッチリと最大限の結果を拾えるハミルトンの粘り強さは相変わらず。その意味でフランス、イギリスの2連戦でフェラーリの逆襲が始まった今も、彼が「驚異の新人」としてタイトル争いの主役であることに変わりは無い。
だが、そうした流れに、僕たちメディアを初めとした周囲が、冷静な視点を失いがちであるのも事実。だが、現実を越えてひとり歩きしはじめるハミルトンの「完璧伝説」に、こうして自らクギを刺す彼の冷静さは、F1にデビューする前から変わることがない。そう、落ち着かなくちゃいけないのは彼じゃなくて、我々のほうなのである。
シルバーストンでは、予選で見事にポールポジションを獲得しながら、翌日の決勝で思うような戦いができなかったハミルトン。第1スティントではライコネンを抑えてトップを走っていた彼がリードを失ったきっかけは、本人も認めているようにピットストップ時に珍しく犯した「失敗」だった。
タイヤ交換と給油作業が完全に終わりきらないうちにマシンを一瞬、動かしてしまい。そこで貴重なタイムをロス。「ロリポップ(メカニックがドライバーにストップ・ゴーの合図を示すパネル。その形がいわゆるペロペロキャンディーに似ているのでこう呼ばれる)が動いたと勘違いしてしまったんだ」とハミルトン。
しかし、「週末を通じてマシンのバランスは完璧とはいえなかったし、レースでは第2スティントのハンドリングに苦しんだ。今日に関して言えばフェラーリのペースにはついていけなかったと思う」というコメントを聞く限り、仮にこのミスが無かったとしても、あのままライコネンを抑えきることは難しかったように思う。
だが、ちょっと落ち着いて冷静に考えれば、これがレースの現実であり、F1の厳しさだということは誰でも簡単に理解できるはずだ。フランス、イギリスの2戦で見せたフェラーリの反撃も、常にマシンが進化し続けるF1では「わずか数週間で形勢が逆転することもある」という事実の一例でしかないし、特にタイヤという最もラップタイムに直結する要素の影響で、レースの流れやシーズンの行方が大きく左右されることも珍しくない。
イギリス、フランスの連戦でフェラーリが再び優位に立てたのも、フェラーリのマシンがここにきて大きく進歩したことに加え、レース中に2種類のタイヤを両方使うことが義務付けられた今シーズンのレギュレーションに対して、彼らがマクラーレンよりも上手く対応できたことも大きいように思われる。
それに、ハミルトンがどんなに型破りな、才能に満ち溢れた新人だとしても、彼がまだ9レース分の経験しかない新人であるという事実も、今一度、冷静に思い返す必要があるだろう。ハミルトンだって当然、ミスはするし、今後、タイトル争いが白熱すればするほど、彼に対するプレッシャーも増し、厳しい状況の中では「経験」の二文字がより大きな意味を持ってくる場面もあるはずだ。
常にフルパワーでマシンの開発競争を続けられる、マクラーレン、フェラーリというふたつのトップチームの実力と、ハミルトンにはない「経験」を備えたライバルたちがいる限り、F1での戦いが「楽なもの」であるはずなどない。冒頭のやりとりはそんな当たり前のコトを改めて僕たちに思い出させてくれる。
「チームは常にプッシュしているけれど、もう1ステップ上がるためには、今後も可能な限りプッシュし続けていく必要がある。また僕自身もまだ多くのことを“学んでいる”段階でこれからもレースという経験を通じて進歩していけると思っています。ともかく今はチーム全体が前に向けて突き進んでいくしかないんです……」とハミルトン。
どうだろうこの落ち着きぶり。いや、僕たちが冷静にならなきゃいけないことは、十分に分かっているつもりなのだが、やっぱりこの新人、本当にタダものじゃない。
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