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川喜田研●取材・文 text by Ken Kawakita
桜井淳雄●撮影 photo by Atsuo Sakurai(BOOZY.CO)

第57号(2007年6月1日)【F1】王者アロンソvs新星ハミルトン──モナコGP

今シーズン開幕前、誰もが考えていた2007年の“主役”はチャンピオンチームのルノーからマクラーレンに移籍したチャンピオンのフェルナンド・アロンソと、そのマクラーレンからフェラーリへと移籍したキミ・ライコネンのふたりだった。

若きスペインの英雄と跳馬を得たクールな“アイスマン”のどちらが、シューマッハー引退後のF1で覇権を握るのか? 多くの人がこの点を軸に新時代のF1への興味を膨らませていたはずだ。

しかし、どうやらそれからわずか3カ月足らずで、このストーリは完全に書き換えられてしまったようだ。予想を遥かに超える活躍で「主役」となったのは、マクラーレンのナンバー2として今季デビューしたばかりのルーキー、ルイス・ハミルトン。

今回のモナコGPも「注目のルーキーが伝統の一戦でGP初勝利」という劇的な展開にこそならなかったものの、今やF1は彼を中心に回り始めていることを改めて印象付ける内容だった。

新人ドライバーが開幕から4戦連続の表彰台という、前代未聞の記録と共に初のモナコGPに挑んだハミルトン。木曜日のフリー走行ではクラッシュを演じたものの、難コースのモナコで走り出しから順調にタイムを削り、土曜日午後の予選でもチームメイトのアロンソに続く2番手に付けてみせる。

同じマクラーレンに乗るふたりだが、実はこの時、ハミルトンはアロンソより5周分も多い燃料を積んでおり、スタート直後の第1スティントをやや長く設定することで、先にピットインしたライバルを一気に引き離す作戦だ。

そして日曜日の決勝レース、1コーナーは順当にポールポジションのアロンソが制し、ハミルトンが2番手に着けるが、当然、序盤は、積載燃料が多いハミルトンはジワジワとアロンソに引き離される。しかし、これは当初からの計算どおり、問題はアロンソが最初のピットインを行ってから後の5周で、ハミルトンがどこまでリードを広げられるかだ。

ところが、アロンソが最初のピットインを行ない、これでトップに立ったハミルトンが軽くなった燃料で一気にスパートをかけていたその時、予定より2〜3周早いタイミングでマクラーレンがハミルトンのマシンをピットに呼び戻すのだ。

「後ろとの差を広げるチャンスだったのに、なぜ予定より早くピットに呼び戻されたのかわからない。何か事故がおきてセイフティカーが入った場合のリスクを防ぐためかもしれないけどね……」とレース後の記者会見で語ったハミルトン。

その結果、またしてもアロンソの後ろ、2番手でコースに戻ることになり、予選タイムアタックでであえて重い燃料を積んだメリットをほとんど活かすことができなかったのだ。

その後、2度目の給油を終えた残り約20周の時点から、最後の猛スパートをかけてアロンソを追い、トップのマクラーレンにコンマ7秒差まで迫ったハミルトンだが、追い抜きが極端に難しいモナコの市街地コースで、自分と同じマシンに乗る「ダブル世界チャンピオン」を追い抜くのは簡単ではなく、最後は余計なリスクをかけたくないチームの意向(またはチームの意向を察したハミルトンの判断?)で2台のマクラーレンは1−2体制を維持したままでゴール!

これにより両者はドライバーズ選手権でも共に38ポイントと同点でならぶことになった。

チームオーダーが出ず、ハミルトンが第3スティントでもう少し攻め続ければ、アロンソを攻略してトップに立つことができただろうか? 確かにその可能性はゼロではないが、そのためにはかなりのリスクを追うことになっただろう。

モナコGP前には一部の関係者から「強引にでも優勝を狙いに行く気持ちが足りないのでは?」との指摘を受けたハミルトンだが、デビューしたてのルーキーにも関わらず、リスクを犯すべき場面とそうでない時の見極めに極めて優れているというのも、ハミルトンの大きな武器のひとつ。

自分の前にいるのがフェラーリなら別だが、チームメイトで、しかもナンバー1ドライバーのアロンソである以上、今後のシーズンを考える意味でも「2番手キープ」は賢明な判断だったといえるだろう。

それにもし、チームが当初の予定どおり最初のピットストップをアロンソの5周後に行なっていたら、もしくは予選でハミルトンの燃料積載量をアロンソと同じにして、その結果、ハミルトンがポールポジションからスタートできていたら、脅威の新人による5戦連続表彰台記録は「ハミルトン伝統のモナコでGP初優勝」という華々しいヘッドラインに変わっていた可能性は少なくなかったと思う。

そんなワケでレース後、ハミルトンの地元、イギリスのメディアは「マクラーレンのチームオーダーがハミルトンの初優勝を奪った」「レースは作られた結果だった!」といっせいにマクラーレンを批判する論調に埋め尽くされ、FIAも一旦はマクラーレンが違法なチームオーダーを出したかどうかに関して調査を開始。

水曜日になってようやく「チームの無線記録等を精査した結果、レギュレーションに反するオーダーは出なかった」としてマクラーレンの「無罪」を発表した。

ただし、仮にマクラーレンが具体的な指示としてチームオーダーを出していないとしても、予選の燃料積載量やピットインのタイミングで彼らがレース内容をある程度コントロールすることは可能であり、今回のモナコGPに関して言えばマクラーレンがピット戦略という見えないチームオーダーを使って余計なリスクを避け「敢えてアロンソ、ハミルトンの1−2フィニッシュを選択した」と考えたほうが良さそうだ。

つまり、逆の言い方をすれば、ハミルトンには十分に実力でアロンソを破って優勝のチャンスがあったのだと思う。

開幕前にはわずかに残っていたフェラーリ、マクラーレンの実力差も完全に拮抗(もしくは逆転?)する状況となり、本命の一角とみなされていたライコネンの歯車が完全に狂っている今、3年連続のチャンピオンを目指すアロンソにとって最大の敵は、チームメイトであるルーキーのハミルトンになりつつある。

もちろん、カナダ、アメリカの北米2連戦ではフェラーリの挽回もあるはずだが、多くの視線は今、ハミルトンの初優勝と、彼を中心としたタイトル争いの流れに向けられている。「超新星の誕生」という何年かに一度のできごとに立ち会えた幸運を噛み締めつつ、そろそろ中盤戦に突入するF1に注目していきたい。


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