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川喜田研●取材・文 text by Ken Kawakita
桜井淳雄●撮影 photo by Atsuo Sakurai(BOOZY.CO)
第53号(2006年10月30日)
【F1】シューマッハのラストラン──ブラジルGP

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 お恥ずかしい話だが、3月から10月まで毎週のように飛行機に乗って海外に取材に行き、時差ぼけと戦いながらF1を追いかけていると「それじゃいけない」と思いながらも、ルーティーンの波に捕まって、何だか無感動な気分になってくることがある……。年間18レースの最終戦、しかも、ほとんどタイトル争いが決まりかけている状態で、地球の裏側、ブラジルまで30時間もかけて飛んでゆく気分は、正直なところちょっとヘビーなものだった。

 でも、ブラジルGPが終わった日曜日の夜、僕は心底「サンパウロまで来て良かった」と感じていた。久しぶりに心動かされるレースを見て、その場所の空気を吸いながら余韻に浸れることの有難さを噛み締めていた。そしてそれはとても幸せな気持ちだった……。

 自分が何に気持ちを動かされたのか? その後また、30時間もかけて日本に戻ってきた今も、まだきちんと整理できてはいない。フェルナンド・アロンソが2年連続のタイトルを決め、フェリッペ・マッサがブラジル人ドライバーとしてはセナ以来、実に13年ぶりで地元インテルラゴスのレースを制し、厳しいシーズンを耐えて耐え抜いた佐藤琢磨が“あの”スーパーアグリF1でトップ10フィニッシュという大健闘を見せるなど、本当に見所の多い最終戦ブラジルGPだったが、中でも僕の心に深く刻み付けられているのは、幾多のトラブルに見舞われて最後尾近くまで順位を落としながら、最後まで全力で走り続けたシューマッハの姿だ。

「これが彼にとって最後のレース」という先入観が一種のエフェクターになって僕の見る目をニュートラルな状態ではなくしていたのかもしれないが、僕にはその走りがなんだかとても「美しく」見えた。

 次々と繰り返される鮮やかな追い抜きシーンに鳥肌が立った。16年間、F1を疾走し続けてきたこの偉大なドライバーの歩みと、様々な想いがその走りに凝縮され「密度の濃い」空気となってインテルラゴスのコース上に赤い軌跡を刻み込んでいるようにさえ見えた。

 結局、奇跡の逆転チャンピオンも、表彰台に上がる事もなかったけれど、そんな事はこの際もうどうでもいい。人生最後のレースで思いのままにフェラーリを操るミハエル・シューマッハの姿は少なくとも僕の目には「とても幸せそう」に映って、それが僕を幸せな気持ちにしたんだと思う。ブラジルに行って、本当に良かった……。時差ぼけでまだ眠いけど、ボーっとしたアタマで僕は改めてそう感じている。

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